Yuusha Party no Kawaii Ko ga Ita no de, Kokuhaku Shite Mita (WN)
I tried to move.
ブルーパールの使い道はセリアさんに任せるとしてだ。
日も落ちてかなり暗い、夕食も済ませたし。
「移動しようか」
「移動とは?」
「いや、さすがに野宿はねぇ?」
せっかくの婚前旅行初日が野宿って……。
これは良くないと思う。
今の時間帯ならまだ宿屋にぎりぎり滑り込めるんだが。
「こかは無人島で一泊ではないのですか」
「セシリアさん、本気?」
野宿で良いのか。
「私は旅で慣れていますし、このまま過ごすのも悪くないと思いますよ」
「俺も偶には良いと思うけどさ。ソフィアさんに怒られないかな」
「そこまで過保護ではありませんよ。ほら、準備しましょう」
「わかった。まあ、セシリアと野宿も始めてじゃないしな。たしか遺跡調査に行った時だっけか。二人でしたよね」
「その時は魔剣士さんと行動した時ですね」
「あああ……封印されし記憶が蘇ってくる」
「今更ではないですか」
そんな元も子もないことを言わないでくれ。
額に手を当てて苦しむふりをしたらこれである。
セシリアも俺の扱いが手慣れてきてるよな。
これが尻に敷かれるってやつか。
「しっかりした嫁さんを持つと頼りになるな」
「まだヨウキさんのお嫁さんにはなっていませんが」
「まだだよな」
「まだですね」
なら、良いや。
二人で野宿の準備を再開。
念のために罠を設置してから寝た。
無人島だけど何があるかわからないからな。
見張りを立てるまではしなかった。
寝る時はまあ……特に何もしない。
婚前だからな。
そして翌日。
「さて、くじを引こうか」
「そうですね」
身だしなみを各自で整えた俺たちはくじを引くことにした。
野宿することにならない内容で頼む。
俺が引いたメモに書かれた内容は。
「……ブライリングが良い、今は観光事業に力を入れているらしいからな……か。レイヴンの提案はまともだな」
最近、ブライリングに指輪を買いに行ったばかりだけどな。
セシリアと出歩くのも悪くない。
「私は初めて行く町ですね。カイウスさんが住んでいる街でしたか」
「そうそう。恋のキューピッドで有名な街ね」
「私たちはもう恋の段階ではないので寄る必要はありませんね」
だから、何でそんなに攻めてくるんですかセシリアさん。
ここで照れたら駄目だ、俺の完全敗北になる。
「おやぁ、ここに不自然な折り目があるぞ」
俺の話の振り方もかなり不自然だな。
何がですかと顔を近づけてくるセシリア。
これくらいは許容範囲だ。
折り目をめくると……逢引、と書かれていた。
レイヴンの字じゃないぞ、ハピネスが書いたのか。
いや、逢引って何よ。
「逢引って何さ」
「確か……愛し合っている者同士が隠れて二人きりで会うこと、ですね」
「俺はいつもやってない?」
今、この状況がそうだと言えるのではないだろうか。
「そうですね。でも、せっかくハピネスちゃんの要望ですしやってみましょうか」
「やるの!?」
「ブライリングを一通り回った後、宿に戻り各自で準備をして待ち合わせということで」
「ああ、そういうことね」
やる意味があるのか謎だが。
ハピネスも何で逢引なんて書いたんだ……。
とりあえず、無人島を離れてブライリングに向かった。
「まあ、この前来たばかりだし目新しさはそこまでないかな」
「来たんですね……」
「ちょっと用事があってさ」
クインくんの失恋話はしないでおこう。
あと、指輪を買いに来た話もな。
「……カイウスさんに相談。私関連で何か不満があったということですね」
「違う違う。勘違いしないで!」
とんでもないことを言われ焦る俺。
ブライリングに用事、つまりカイウスに相談という公式がセシリアの中で成り立ってしまうのか。
必死に言い訳しようにも真実を伝えるのはどうかと考えてしまい……。
「えっと、冗談なのでそこまで狼狽えなくても良いですよ?」
「あ、そうなの?」
「ヨウキさん、そろそろ私の冗談をわかって欲しいです。何もかも本気にしすぎですよ」
「セシリアって冗談を言うような感じじゃないからさ」
「……親しい間柄の人とは冗談の一つや二つ言ったりしますよ」
「ありがとうございます!」
それはつまり俺を親しい間柄の人だと思ってくれてるってことよね。
嬉しすぎて気がついたら深く頭を下げてお礼してたよ。
「今後は人前を気にした方が良さそうです」
「えっ、あっ……」
ブライリングの街中で騒いでたもんだから結構注目を集めてる。
あれセシリア様じゃないかという声まで聞こえる始末、これはまずい。
「とにかく移動だー!」
「えっ、ちょっとヨウキさん!?」
最早遅いかもしれんがセシリアを抱えて全力で離脱した。
街中をうろつく前にがっつり変装しておくべきだったな。
「さて何処へ行こうか」
「このままお店に入るのは難しくないですか?」
「うーむ、何かないかな」
持ってきた荷物に良さげな物は……ああ、デュークの贈り物がまだあったな。
手触り的に変装に使えそうな物っぽかったし、開けてみるか。
人影の少ない路地裏にて開封。
「なんであいつがこれのことを知ってるんだよ」
「懐かしい物を出してきましたね」
デュークからの贈り物は天狗と亀の仮面だった。
おい、仮面舞踏会の時に付けていったやつじゃねぇか。
「少々デザインが違うようですが」
「ハピネスのやつの提案か知らんが……うーむ、どうしたものか」
「どうしたって……付けるんじゃないんですか?」
「せっかくの婚前旅行二日目なのに天狗と亀の仮面付けてデートするの!?」
今のところ婚前旅行が予想斜め上を行きすぎてる気しかしないんだけど。
「これはこれで思い出に残りますね」
セシリアは乗り気らしい。
俺は天狗の仮面をじっと見つめ、覚悟を決め装着した。
もちろん、服装と変えないといけない。
その辺の服屋に入り適当な服を買って着替えて変装完了。
俺はいつもとあまり変わらず、セシリアは法衣ではなく動きやすい服装にした。
セシリーとして活動していた時の服装に似ている。
もしかして意識したのだろうか。
何はともあれこれで人目を気にせず、観光できる。
さっきよりも住民から見られてる気がするけど。
「かなり目立ってますね」
「大丈夫。セシリアが服選んでいる間にプラカード作っといたから」
「プラカード……ですか?」
「自分の意見を周りに主張するために使う看板さ」
俺たちこう見えても普通のカップルですと書かれた看板を掲げる。
これさえ有れば一眼見てあとはそっとしておいてくれるだろう。
「ますます注目を浴びますし、恥ずかしいので今すぐそれを下ろしてください!」
「いやいや、周り見てみなよ。みんな頷いて俺たちを素通りしてるけど」
「嘘……」
被り物をしていてもセシリアが相当驚いていることがわかる。
でも、実際奇異な目で見てた人たちがプラカード見たら納得して去っていくんだもんな。
はっきり言って半分悪ふざけだったんだけど効果があって不思議。
どうなってるんだろ、ブライリング。