Yuusha Party no Kawaii Ko ga Ita no de, Kokuhaku Shite Mita (WN)
I tried shopping.
ガイの身体が直って数日が経った。
あの後、シークの薬はセシリアやソフィアさんの手伝いもあって完成し、ティールちゃんの具合も大分良くなった。
クレイマンの方もほぼ無傷でロックイーターを倒したので、報酬をかなりふんだくったらしいな。
今思えば、タリクーボ商業ギルドは無傷でなんて無理だと思い、難癖つけようとして無茶な条件をつけたんじゃないだろうか。
だとしたらドンマイとしか、言いようがないが……。そんな訳で一応騒ぎに収拾がついたのだが。
「あ〜暇だな、ちくしょう……」
イライラしながら町を一人で歩いている。
別に誰かと約束事をしている訳ではない。ただ、宿部屋にいたくないから適当にぶらついているだけである。
部屋にいたくない理由はいたって単純だ。
ガイとティールちゃんのイチャつきに耐えられないのである。
数日前、ガイの身体が直り三日経ったある日。
シークの薬によってティールちゃんの具合が良くなり、ガイに会いに来たのだ。そこまでは別に良いのだが……それで終わらないのがあの二人である。
お互いに死を感じ、相手のことを思っていたため、反動が凄まじい。
完全に二人の世界に入っていて、部屋にいると俺が置物のように感じてしまうのだ。
それが最近ほぼ毎日で……耐えられねぇ。
ティールちゃんは仕事終わりと昼休みの間に来ている。
二人共あんなことがあったので、多少大目には見たいが……うん、無理。
それが原因で特に用事があるわけでもないのに、町をふらついているのである。
「はぁ……ギルドで依頼でも受けてこようかな。……そういやクレイマンとあの時、ギルドランクAにしてくれる約束してたっけ」
俺に押し付けようとしていた役目をソフィアさんが代わりに受けてくれたが……約束は約束だ。
俺だって一応依頼を手伝いはしたので、約束を守ったことにはなるだろう。
Aランクの依頼を受けてみたいのでギルドに行くことにする。
「ん、何だ何だ?」
ギルドに向かって歩いていると、通行人の人々が何やら騒いでいる。
気になり通行人の人を捕まえ、何かあったのか聞いてみると、どうやら各地から商人が来ていて市場を開いているとのこと。
本来は年に何回か行われていたらしいが、魔王との戦いのせいで、最近は商人の集まりが悪かったみたいだ。
しかし、魔王が討伐されたおかげか商人が集まり久々に大規模な市場が開かれているのだとか。
「各地からいろいろな商人が来ているということは、珍しい物もたくさんあるんだろうなぁ」
正直、Aランクの依頼よりも興味がある。
「ああ、珍しい物がたくさんあるぞ。俺もちょうど向かっている所だからな。良かったら一緒に行くか?」
「あ、じゃあ、すみませんけどよろしくお願いします」
ちなみに俺が捕まえて話を聞いていたのは、何時だかに知り合いになった狼の獣人さんだ。
後ろ姿だけしか見えなかったので、普通の大柄な人だと思い話しかけてしまった。
相変わらず笑った顔が怖い。
にぃ……と笑うと鋭い牙が見えてしまう。
でも、悪い獣人ではないようでちゃんと市場が開かれている所まで一緒に行ってくれた。
「おお、すごいな」
そこには沢山の人や亜人がひしめき合っていた。
商人もその場で露店を開いている者や、テントを張っている者もいる。ちらほらと見える商品には、俺が見たことのない物がたくさんあるし……。
「ふっ、やはり今回の市場は中々大規模だな。では俺は行くぞ。今度会う機会があれば依頼にでも行こう」
「あ、はい。案内してくれてありがとうございました。機会があれば是非ともお願いします」
「何、俺も此処に用があったんだ。ついでだ、ついで。だからそんな畏まらなくてもいいんだぞ。じゃあな」
一度だけ手を振り、俺を案内してくれた狼の獣人は人混みの中に消えていった。獣人は見かけによらないみたいだ。
「さて、せっかくだしいろいろ見て楽しむか。良い気分転換になりそうだし」
面白そうな物があったら買おう。
俺も人混みの中に混じり、露店に出ている商品を眺めていく。
普段使いそうな日常品から、何に使うのか用途がまったくわからない物までいろいろある。
商品を見ながらうろうろしていると、見知った顔が見えた。
商品を品定めするようにじっくりと見ているが……クレイマンだよな、あれ。
「クレイマンじゃないか。こんなところで何しているんだ」
「あー、お前か。まぁ、ちょっとな、買い物だ買い物」
「ふーん……というかギルドの仕事はいいのか?」
「ソフィアに内緒で今日は休暇とったんだよ。ロックイーターの依頼成功に貢献してやったとか理由つけてな」
ソフィアさんに内緒で仕事をサボって呑気に買い物とは……何をしているんだかこの男。
ばれたら怒られるんじゃないだろうか……まあ、人の家庭事情など知らないけど。
「ソフィアさんに怒られても俺は知らないぞ」
「まあ、怒られたら怒られただ。それでも俺は後悔しねぇよ」
無駄にかっこいいことを言っているんだが。
何か理由があるっぽいので、問いただしてみる。
すると、ソフィアさんにあげるプレゼントを買いに来ていたとのことだった。
「結局、結婚記念日には何も買っていかなかったからな、俺」
「未だに買ってなかったのかよ。……でもここならいろんな物が売っているしプレゼント選びにはうってつけだろうな」
「だろ? だからこうやって選んでんだよ」
「へぇ、俺も気分転換にここに来たんだ。俺も手伝ってやるよ」
元々気分転換で来ていたので、誰かと見て回るのも面白そうだし。
クレイマンも勝手にしろって感じなので、二人でうろうろする。
露店やテントを何カ所かうろうろしていると、思わず一つの商品に目がいく。
「おっ、これいいんじゃないか?」
「どれどれ……いや、お前……正気か?」
俺がクレイマンに勧めた物は猫耳のカチューシャだ。メイド好きなクレイマンにはピッタリ……。
「買いだろ!」
「買いだろってお前……結婚記念日に渡す予定だった物を選んでんだぞ。完全に悪ふざけになるだろうが!」
「あ、考えてみたらそうだよな。悪い悪い……」
「おいおい……いつもと何だか違わねぇか? 大丈夫かよ」
先程までイライラしていたが、今は珍しい物をたくさん見れて気分が良いからな。
ついボケてしまった……でも、良いと思うんだよなぁ、猫耳カチューシャ、メイド服に合うだろうし。
俺はこっそり猫耳カチューシャを買って、気づかれないようにクレイマンの荷物に紛れ込ませた。
今日の俺は大分おかしいのかもしれんな、普段こんなことしないのに。
変にテンションが上がっているような気がする。
その後、クレイマンと真面目にプレゼント選びを続けていると俺の厨二心をくすぐるような物に出会った。
「おお! かっけぇなこれ」
俺が目を輝かせて見ているのは、あるロングコートだ。
黒が基本色のシンプルな造りだが、何らかの主人公が着ていそうな厨二っぽさ溢れたロングコートである。
「兄ちゃんお目が高いねぇ。こいつは素材にもこっている代物で防具としての性能も保障するぞ」
「よし、買った」
「毎度、良い買い物したね、兄ちゃん!」
全くその通りだと思いほくほく顔で店主と別れる。
たまには買い物も悪くないな。
久々に厨二スイッチが入りそうだ。
というか、もう入っているかもしれない。
その後、いろんな店を回って、つい衝動買いしてしまった。
「おいおい……お前、いろいろ買い過ぎだろ」
買い物を終えて市場からの帰り道。
買った物でパンパンになっている風呂敷を担いで歩く俺を見て、クレイマンが呟く。
「今まで自分の物とか買ってなかったし、別にいいだろ。市場で年に何回しかやらないって聞いたしさ。後悔しないよう、今の内に買っとかないとな」
「いや、でもよ。俺が見ていた限りだとお前、変な物しか買ってなかったように見えたぞ」
「何を言いやがる。俺は心を奪われた物しか買ってないぞ」
「お前の心はどうなってんだか……ま、俺はちゃんと目当ての物が買えたからいいけどな」
クレイマンは結局、異国の調味料とエプロンを買った。
家庭的で料理好きなソフィアが喜ぶであろうと考えた結果らしい。
クレイマンにしては中々良いセンスをしていると思う。
「それにしても、これからどうしようかな……」
今はちょうど昼なので、ティールちゃんが来ているだろうから、宿には帰りたくない。
市場でいろいろと食べてきたから、腹も減っていないし。
「ギルドで依頼でも受けに行ったらどうだ? さっき買ったもんつけてよ」
「それだ!」
「はぁ!?」
最初は半笑いをしていたクレイマンの表情が強張る。自分で提案していたのに、何でそんな顔をしているのか理解できないな。
何はともあれ、これからの今日の予定は決まったな。
「おい、ちょっと待て! 本当に今日買った装備で依頼に行くのか!?」
「クレイマンが言ったんじゃないか。じゃあ、早速……ちょっと裏路地の隅っこで着替えてくるから待っててくれ」
俺はクレイマンをその場に待たせて、誰も来なさそうな裏路地に入っていった。