「せっかくの休日に呼び出して何の用事すか、隊長。俺昼から約束があるんすけど……」

「まあまあ。俺も午後から約束はあるんだ。でも久しぶりにデュークと会いたいなーと思ってさ」

「なんすかそれ、気持ち悪い」

酷い言われようだが、今の言い方は確かに俺が悪いな。

俺に黒歴史が刻まれ、数日経った頃。

休みだというデュークを引き連れて行きつけのケーキ屋に俺は来ている。

理由はいろいろ相談にのって貰うためだ。

ここ最近、失敗やら何やらで右往左往しているからな。

デューク以外の相談役を考えられなかった。

「まあまあ、俺にも考えがあってだな……」

「というか、ここ男同士で来る場所じゃないっすよ。周りの客、女性だらけじゃないっすか。浮いてるっすよ、俺達」

デュークの言う通り、確かにカフェコーナーとして解放されている場所に俺達は座っているが、俺達以外は女性客ばかりだ。

甘いケーキを食べながら甘いガールズトークをしている。

……確かに浮いてるな。

「まあ、いいだろ別に。そんなこと気にしてたら男はケーキ屋に行けねぇよ。それにここのケーキ作っているの男だぞ」

「え、そうなんすか? でも売り子は可愛らしい女の子だったじゃないっすか」

デュークはケーキを食べつつ驚いている。

ちなみに兜で顔を隠しているデュークがどうやってケーキ食べているかというと、口の部分が開くようにしていてそこから食べているのだ。

……とは言っても頭が安定していないため、微妙に顔が動いているのが見える。

「いや……此処は兄妹で切り盛りしているからな。ケーキは兄が作っているはずだ」

「へぇ……そうなんすか、すごいっすね。俺にはこんな美味いケーキは作れないっすよ」

確かにあの兄はすごいよな、別の意味でだが。

デュークがケーキの味に満足している様子を見て、しみじみ思う。

今日は厨房から出てこないだろうか?

出てきたら女性客が逃げたしそうな気がして恐い。

売り子の妹もしきりにちらちらと厨房に繋がる入口を見ているし。

「まあ、それなりに修業をつんでいるってことだろ」

「そうすっねぇ……鍛練の賜物ってやつっすか」

その言い方をすると別のことを褒めているように聞こえるの止めてほしい。

デュークは知らないから言っても無駄だろうけど。

あの兄はケーキ作りの修業と筋トレ、どちらを優先しているんだろうか。

俺の頭の中で白い歯を輝かせ親指をぐっと立てているのが思い浮か……っと危ない危ない。

白いフリフリエプロンまで出てきたら、せっかくのケーキを戻してしまう。

「ははは……ま、そういうことだろうよ……」

「何で苦笑いしてるんすか? 俺変なこと言ったつもりないっすけど」

デュークは頭にクエスチョンマークを浮かべている。そのまま知らずにいた方が身のためだろう。

世の中には知らない方が良いこともあるし。

「気にすんなって、こっちの話だからさ。それより、先日、正気に戻してくれたことについて礼を言わせてくれ」

俺はデュークに頭を下げた。あのまま黒雷の魔剣士をやっていたら、黒歴史がどんどん重なって大変なことになるところだったからな。あの時のデュークの言葉は感謝してもしきれないぐらいのものだ。

「ああ、あれっすか……別にたいしたことしてないっすよ。ただ、確証がなかったっすけど、消え方が不自然だったんでいると思ったんすよ。それに、あんな格好や言葉遣いするの隊長しかいないと思ったし……直後に悲鳴が聞こえたんでいたんだなと。んで、阿呆だなーって思ったっす」

「一言多いわ!」

けらけらと笑い声をあげているデュークに突っ込む。まったく……シークに少し似てきたんじゃないか?

人を馬鹿にしやがって……確かに馬鹿なことしたけども。

反省も後悔もすごくしているんだぞ……いろいろと失ったからな。

「だって事実じゃないっすかー」

「デュークは少し思ったことを口に出さないようにすべきじゃないか」

「いいじゃないっすか。別にその方が俺らしいと思っているし、直すつもりはないっすよ」

「付き合い長いからそれは解るさ。……ただ言ってみただけだよ」

実はこの世界で一番長い付き合いなのがデュークだ。だから、いざという時に頼りにしてしまうのかもしれない。

「ところでそろそろ本題に入らないっすか。時間ないっすよ?」

「ああそうだったな。じゃあまず……レイヴンて大丈夫なのか?」

これは俺が一番最初に知りたかったことだ。

デュークとレイヴンの会話を盗み聞きしていたが、あまり元気がないようだった。

というかいろいろ駄目だったような気がした。

「ああ、そういえばあの時いたってことは聞いてたんすね、俺達の会話」

「ばっちり聞いてたよ……ハンドベルとかさ。そろそろ喋れるようになろうぜ……。あれじゃあ、対応出来ないことに遭遇したらやばいだろ」

レイヴンのトラウマという事情はわかるがあのままではやばいと思う。

俺がとやかくつっこむのもお節介だし、何様だと言われるかもしれないが。

「自信がないのか、過去のトラウマか。騎士団にはレイヴンのことを笑うような奴はいないと思うんすけどね、先は長そうっす。……それにこっちの方も全く進展がないみたいなんすよ」

デュークが小指だけを立てて愚痴る。

プレゼント渡してから何の進展もないというのか。

ハピネスは良い感じに喜んでいたはずなんだが……会う機会がないのも問題なのかもしれないな。

「よし、俺がなんとかしよう。まずはお互いに接触しないとな。あの二人絶対あれから会ってないだろうし、予定を立てないと……」

「……大丈夫っすか、それ? 隊長が絡むと変ないざこざを招く気がするっす」

「なんでだよ!? 俺だってやるときはやるぞ。確かに余計なお世話かもしれないけどさ」

他人の俺が人の恋路にとやかく言うのはおかしいとは思う。

しかし、レイヴンも少しは前進しないといけないだろう。

今は一応平和なんだから、やりたいことやっとかないと後悔するかもしれないしな。

「……だいたい、隊長は人のこと言える立場なんすか?」

「うっ……」

痛いところをつかれてしまい俺の顔が引き攣る。

そんな俺の表情を見てデュークはやれやれといった感じで手を挙げ、溜息をついた。

……こっちだっていろいろ頑張ろうとはしているんだが。

「最近何かセシリアさんとしたっすかー? 」

「ふん……甘いぜデューク。俺は午後からここでセシリアと待ち合わせしているんだよ」

俺はどうだと言わんばかりに踏ん反り返る。

先日、屋敷で紅茶を飲みながら談笑していた際にこの店のケーキの話になった。

俺がやらかしてセリアさんに誠意を見せろと言われ謝罪しに行ったあの日。

お土産として持って行ったケーキを気に入ったらしく、一緒に食べに行かないと俺から誘ったのである。

以前の俺と比べたら少しは成長しただろうと誇らしげに胸を張るが、デュークは一言。

「へー……で?」

「で? って何だよ」

別にこの話に面白いオチがあるわけではないので、そんな返しをされても困る。しかし、デュークはそんなことを期待しているわけではなかったようで……。

「まさかここでケーキ食べて終了とか考えてないっすよね? セシリアさんが用事があるとかならわかるっすけど」

「……」

俺は返す言葉に詰まってしまった。

セシリアは別に午後からの用事については話をしていなかったので、時間はあると思う。

俺としてはいつものパターンでケーキ食べて、ゆっくり談笑しようと思っていたが……デュークの口ぶりからして、駄目なの? と答えてはいけないのだろう。

だからといって、俺は他に予定を立てていなかったので答えようがない。

「沈黙は肯定っすよ。……隊長、それじゃあ駄目っすよ。談笑は良いかもしれないっすけど、デートなんだし……いろんな所に行かないと」

「うぐっ……だけどセシリアがいろいろ出歩きたいかなんてわからないだろ?」

頭の中で確かにと思ってしまったが、俺の甲斐性のないところを指摘されてしまったので、悔し紛れの反抗をする。

「隊長の言うことも一理あるっすけど……誰でもずっと談笑だけじゃあ流石に飽きると思うっすよ?」

「……つまり、どうすればいいんだ?」

聞いてばかりでなく自分で考えろという話だが、如何せん俺にはどうすれば良いのかがわからん。

女の子ってどういう所に行くのが、好きなんだ?

その辺が今一わからなくて困る。

無難なところを選ぶなら、アクセサリーショップやブティックとかに行けばいいのかもしれないが……セシリアからしたらどうなのかがわからないし。

「いや、それぐらい自分で考えないと……セシリアさんの好みとか事前に調べたり、さりげなく聞いたり……」

「今からじゃ間に合わねぇよ。どうしよう、どうしようかデューク!?」

「そんなんで混乱してちゃ話にならないっすよ。あー、もう、俺は知らないっすよ。勝手にするっす。じゃあ、俺は昼からイレーネとデートなんで準備しないといけないんでバイバイっすよ。せいぜい頑張ってくださいね隊長」

「えっ、まじか。ちょっと待てって! おーい、デューク、見捨てないでくれー」

俺の叫びも虚しく、デュークは食べたケーキ代を置いて帰ってしまった。

あまりにも俺がヘタレで無計画過ぎて愛想が尽きてしまったのか。

残された俺は碌にデートプランの立て方も教えて貰えなかったため、ノープランでセシリアとデートすることになってしまった。