Yuusha Party no Kawaii Ko ga Ita no de, Kokuhaku Shite Mita (WN)

I tried to finish a request with a friend and an ex-boyfriend.

ミサキちゃんの経緯をハピネスが順序を追って説明してくれた。

ミサキちゃんは洞窟内で檻に入れられ、鎖で繋がれて拘束されていた。

水は一切与えられず、食料しか口にしていなかったみたいだ。

しかし、最近この近辺を騎士達が巡回するようになったので、逃げる準備をすることになり、ミサキちゃんも檻から出され、箱詰での輸送になった。

「いや〜、あいつら馬鹿だよな。アタシが変身出来るの知らないから、拘束は手を縄で縛って終わりとか。だから、一か八かこの箱を蹴破って走って逃げようとしてたんだ」

ケラケラと笑っているミサキちゃんに俺達は呆然。

やたら、箱がガタガタと動いていたのは、中から蹴りを入れていたからか。

「よくもまあ、そんなこと実行したな」

「黙ってたってどっかに連れていかれて、どこぞの変態に売られるくらいなら、わずかの可能性にかけた方がいいだろ?」

にやりと笑うミサキちゃん。

俺達が助けに来なくても、いずれ自力で脱出していたのではないだろうか。

「ところで、さっきハピネスが俺達に来るなって言ったのは……痛っ」

ハピネスに脇腹を殴られた。

察しろ、話題に出すなということか?

ミサキちゃんと会ったばかりだが、この子は平気で爆弾発言しそうだしな。

「……移動」

「んー、確かにここに長居する理由もないしな。でも、盗まれた荷物やこいつらをどうするか……ん?」

レイヴンに肩を叩かれ、振り向くと目の前には『俺に任せろ、騎士達を呼んで全部処理をしておく』とのメモが。

「事情とか、全部任せていいのか?」

こくりと頷くレイヴン。

後始末は全て引き受けてくれるようだ。

シケちゃんもミサキちゃんのことを心配しているだろうし、さっさと移動したいというのもある。

ここは素直に任せることにするか。

「なあなあ、さっきから思ってたんだけど、なんであんたしゃべんねーの? 戦闘中ばりっばりしゃべってたよな。アタシ箱の中から、聞こえてたぞ。やたらと高い声だから、男一人と女二人かと思ってたけど、あの声、あんたの声だろ?」

筆談をしていたレイヴンを不思議に思ったようで、容赦ない質問攻めを繰り出してきたな。

レイヴンにとって一番触れてはいけないところだというのに。

レイヴンは少し考え、紙にペンを走らせる。

一体、どうごまかすのか。書き終わると同時にメモを見せる。

メモには『……』と書かれていた。

「沈黙は書かなくていいだろ」

「……ああ、そうだな」

レイヴンはメモをくしゃくしゃに丸める。

そして、ペン、用紙と一緒にかばんの中に片付けてしまった。

「……不用?」

「……洞窟の人魚とは普通に話していたからな。一応、害意も感じられないし」

「一応ってなんだよ、一応って!」

ミサキちゃんが何やら喚いているが、無視してレイヴンは続ける。

「俺もそろそろ成長しないとな……」

一皮むけようと決意しているようだが、はてさてどうなるかな。

無駄話もそこそこに、レイヴンと拘束した盗賊達を残し、シケちゃんの待つ洞窟に向かった。

「おーい、シケー。いるのはわかってるぞー。さっさと出てこーい。出てこないと、お前が胸を隠すのに使ってる貝殻に海藻を突っ込むぞー」

「どんな脅しだよ!?」

入り江に着くなり、辺りをキョロキョロと見回し、開口一番でこれである。

ミサキちゃんが来ただけでシケちゃんも出てくるような気がするが。

俺がツッコミを入れると直ぐに水面から、シケちゃんが出てきた。

「わああぁぁん、ミサキー、心配したんだよー!」

出て来て早々、涙声でミサキちゃんに抱き着くシケちゃん。

「はいはい、つーかアタシがあんなやつらに捕まったからってくたばるかっつーの」

「だ、だって、私ミサキに何かあったらどうしようと思ってたんだよ!」

「いや、アタシに何かあったらって、アタシの悪運と腕っ節の強さはシケが一番わかってるだろ。今回はちょいやばかったけどなー。つか、深呼吸しろ、深呼吸」

ミサキちゃんに頭を撫でられ、少し落ち着いたのか涙も収まってきた。

「ふぅ……あ、ご、ごめんなさい。えっと、ミサキを助けてくれてありがとうございます」

感動の再会が終わったところで、やっと俺達に気づいたみたいだ。

謝罪とお礼を繰り返し、何度も頭を下げている。

「約束しただろ。あとお礼は事後処理をしていていないもう一人にも頼む」

「はい、もちろんです。あの騎士様もあなた方も……私達にとって命の恩人と言っても過言ではないですから」

「……言い過ぎ」

ハピネスがクールにツッコミを入れた。

俺達が来なかったらこの二人は一体どうなっていたかと考えたらな。

それでも命まで救った覚えはないけど。

「命云々は置いといて、アタシも感謝してるよ。だから、特別に帰る時に歌でも歌ってやんよ」

「待て、俺達をどうする気だ」

シケちゃんの歌を体験したが、あの奇妙な眠りに誘われるのはもうごめんだ。

「は、何言って……」

「ミサキ、私最初この人達と闘ったからその時に……」

「闘った? ……ああ! そういや、そこのお嬢ちゃんがそんなこと言ってたな」

ミサキちゃんが納得したように頷いている。

俺達があの時後ろを向いている間に全部説明したのか。

こくこくと頷くハピネスを見る限り、事実なんだろうけど。

「だから、歌って聞いて良いイメージわかないかも」

「……成る程な。なあ、あんた。闘ってる時、シケの歌で妙に眠たくなったんだろ?」

「ああ、耳を塞いでも直接脳に入りこんでくる感じでなんとも言えない気分になった」

あの時に思い、感じた率直な感想だ。

ハピネスが相殺してくれていなかったらやばかったしな。

「安心しな。人魚の歌はいくつか種類があるんだ。あのメモ剣士が来た時にとびっきりの歌聞かせてやんよ」

相当自信があるみたいだ。人魚本人が言っているのだろうし、期待してもいいかもな。

というか、メモ剣士って……見たまんまだけども。

「うーん、でも今日中に来るのは無理だと思うぞ。盗まれた荷物、盗賊達の移送。依頼主の商業ギルドのギルドマスターへの報告もあるしな。……ってレイヴンに全部押し付けてきたけど、一人じゃきついだろうし、手伝わないと」

「……丸投げ、駄目」

「ふーん、じゃあアタシとシケはここの入り江にいるからさ。明日には来れるんだろ?

「……いいのか? なるべくならすぐに自分達の住家に帰りたいだろ。それにここに長居するのは危険だと思うし」

盗賊がまだ残っているかもしれないし、俺達のことを信用し過ぎな気もする。

「水辺にいる人魚を嘗めんなよ。むしろここにいりゃ嵐になんて合わないし、いざとなったら潜って逃げりゃいいしなー」

「……ミサキ、ここの入り江海に繋がってないから逃げ場ないよ」

「げっ、まじか……ま、繋がってたらシケの監禁場所にならないか。んじゃ、やっぱ明日が限度だな。明日来なかったら、勝手に歩いて住家に帰るわ」

それもそれで危険だと思うが……言い出したらきりがないのでこらえる。

二人に明日来ることを約束し、洞窟を出た。

レイヴンと合流するため、盗賊達のアジトに戻る。

すると、まだ荷物や盗賊達の移送の途中だったようで、騎士達を指揮するレイヴンを発見。

「ん、何かあったのか?」

近づいていくと、何やら騒ぎが起きているっぽい。

どうやら、目を覚ました盗賊達が暴れているみたいだ。

「こいつも俺達と同罪だ。あの箱には人魚がいたんだ。きっと俺達がいない間に隠したに違いねぇ! こいつも、あと二人の仲間もだ。きっと入り江の人魚も……俺達に全部罪をなすりつけて、横取りしやがったんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

盗賊達のリーダーが騎士達に伝えるように大声を出す。

騎士達も突然の展開に着いて来れず、レイヴンをじっと見出した。

レイヴンもどう答えてよいのかわからないのか、下唇を噛んでいる。

盗賊達のリーダーがにやりと笑みを浮かべた。

どうせなら道連れということだろうか。

「くそっ、余計なこと言いやがって! おい、俺達は……」

「うぉらぁ!」

会話に割って入ろうしたら、さらに割って入られた。声の人物は笑みを浮かべていた盗賊達のリーダーの顔を容赦なく殴りつける。

「全く、出任せ言うんじゃねっつの。騎士達は騙せてもおれっち達は騙せねぇぞ。なあ、皆!」

おう、と野太い声が至る所から響く。

この感じは前も体験したな……つーか騎士達に混じって港で情報収集した時にいた船員達がいるじゃねーか。

「おい、えっと確か、船乗りのマサ……?」

「ん、おう。あんちゃんに嬢ちゃんじゃねーか!」

「いや、おうじゃなくて……何故此処に?」

「いやな。騎士様達が騒がしいからよ。聞き耳立てたら荷物が見つかったって言うじゃねーか。こりゃいてもたってもいられねぇってなって、荷物を運びに来たんだよ」

「そ、そうか」

がっはっはと笑いとばすマサに俺は苦笑い。

ハピネスは何故かナイスと言い、マサの腕をぽんと叩いている。

豪快に笑っているマサは気づいていないっぽいが。

「く、くそ、まだ話が……」

「うるぉあああぁぁぁぁぁ!」

盗賊達のリーダーが声を発しようとした瞬間、マサは顔を近付け力強い咆哮で声を掻き消す。

盗賊達のリーダーは目を見開いたまま固まってしまった。

おいおい、いいのかそれで。

「……ったく、ふてぇ野郎だぜ。よりにもよって俺達の恩人に罪を被せようなんてよぅ」

「えっと、良いのかこれで?」

「あんちゃん、海の男は受けた恩は忘れねぇんだ。あんちゃん達のおかげで荷物はほぼ戻ってきた。これでおれっち達の冤罪も無しだ。全部……あんちゃん達のおかげだ、ありがとな」

手を捕まれぶんぶんと振られる。

泣いてるせいか、力加減が出来ていないぞ。

俺の腕がすごい速度で上下していている。

「ちょっ、わかったから手を、手を離してくれぇ!」

「……逃走」

「あっ、ハピネス。待て、こら!」

次は自分がやられると察したのか。

ハピネスの奴、マサが涙で目が見えていない内に俺を見捨てて逃げやがった。

「ありがとよ、あんちゃーん!」

「わかったから、手を離せー!」

肩の関節がはずれるかと思う体験をした後、荷物、盗賊達の移送を手伝った。

最初困惑していた騎士達も盗賊の妄言だと納得したのか、レイヴンの指揮の元仕事を再開していた。

「……んしょ」

「ああ、危ないですよ。僕が持ちます」

「…………うんしょ」

「お嬢ちゃん、落としたら危ねーからな。ここは鍛えてる俺に任せな」

ハピネスは荷物を持っては近くの騎士や船員に取られるという状況だ。

キョロキョロして、ため息をついたと思ったら、隅っこで座り込んでしまった。

何もすることが無くて落ち込んだか。

ほっとくのもかわいそうだし、先に宿に帰るように言うか。

持っている荷物を馬車に積んで、ハピネスに近付くと先客がいた。

レイヴンが何やらハピネスと話している。

近付くのも野暮なので聴覚を強化し、聞き耳を立てる。

「ハピネス、今大丈夫か」

「……うん。何?」

「今、盗まれた荷物のチェックリストを作っているんだ。入り江で荷物の一部が空だったのを見ただろ? 盗賊達ははここので全部だと言っているが、念のためにな。力もそんなにいらないし、船員達と協力してくれれば」

「……やる!」

「あ……ありがとう、じゃあ早速積み荷の前にいる船員達と合流してくれ」

「……了解」

遠目で見ていたが、ハピネスの目がすごくキラキラしていたように見える。

そのまま、ハピネスはやる気に満ち溢れた顔で積み荷に向かって走っていった。

「偶然か知らないが……レイヴン、良かったな」

ぼそっと呟いた俺はくるりと身を翻して荷物運びに戻った。

その日は予想通り、盗賊達と荷物の移送、報告で一日が終わってしまった。

そして、翌日に約束通り俺達は入り江に来ていた。

「おーい、来たぞー」

俺が大声で叫ぶと、水面が震えミサキちゃんとシケちゃんが飛び出した。

「うぃっす、昨日ぶり」

「お、おはようございます」

「約束通りに今日中に来たぞ……時間はそんなにないけどな」

昨日で盗賊達のアジトにあった荷物運びは終わったが、ここにある荷物も運ばなければならないからな。

「んー、別にいいぜ。私達も早く帰りたいし」

「ちょ、ミサキ。失礼だよぅ」

「冗談だ、冗談。んじゃ、時間もないみたいだし始めますか。タイトルは助けてくれてありがとうの歌な」

「そのまんまじゃねーか!」

俺のツッコミに対して、にやりと笑うミサキちゃんと、申し訳なさそうに頭を下げるシケちゃん。

二人は水面を泳ぎながら、歌い始めた。

シケちゃんと闘った時とは違い、ただ純粋に聞き惚れる。

そんな歌声が耳に入っていく。

ふとレイヴンを見ると俺と同じく人魚二人の歌に聴き入っていた。

どれくらい時間が経ったのかわからない。

気がつけば人魚達のデュエットは終了し、二人は最初来た時と同じ場所に戻っていた。

「どうだった、感動したろ。人魚嘗めんなよ」

「ミ、ミサキ言い過ぎ! ど、どうでしたか?」

「いや、なんか言葉で表現出来ないんだけど」

「ああ……」

俺もレイヴンも心ここに有らずになっていたからな。

これが人魚の歌の力か。

「……むー」

ハピネスだけ何故か唸り声を上げているが、どうかしたのだろうか。

「ん、お嬢ちゃん何か眉間にしわ寄ってんぞ、どした」

「な、何か不快な思いをさせましたか?」

シケちゃんが自分のせいかとオロオロしだした。

あの歌で文句はないと思うが。

「…………負けない」

俺とレイヴンが「は?」と声を揃えて出すと、ハピネスは歌い始めた。

シケちゃんとミサキちゃんに負けず劣らずの美声を披露する。

ハピネスの奴、ただ対抗心を燃やしていただけか。

「ひゅーう、やるねぇ」

「あわわ、どういう状況でしょうか」

ハピネスの歌に口笛を吹いて評価するミサキちゃんと、未だに状況について行けていないシケちゃん。

一番困惑しているのは隣にいるレイヴンだろうけど。

「よっしゃ、行くぞシケ、第二ステージだ。ここはいくっきゃないの歌だ」

「え、ええぇぇぇ!?」

状況がわからないまま腕を捕まれ無理矢理水中に引きずり込まれるシケちゃん。ミサキちゃんはノリノリで歌い始め、シケちゃんも戸惑いながらも歌い始めた。

ハピネスも負けじと歌い続け……最早なんだこれという状況。

とりあえず、めっちゃ癒されてる感じがするからいいか。

「レイヴン、大丈夫か、意識はあるか?」

「ああ、大丈夫、大丈夫だ、安心してくれ」

歌に聴き入りつつも、視線は一点に集中していた。

視線の先は……止めよう。今、この思考は無駄だと判断した俺は目を閉じて三人の歌を聴き入り始めた。

歌が終わり、ハピネスも満足したところで海まで二人を送り届ける。

浜辺に着き、周りに人が誰もいないことを確認すると、男勢は後ろを向いて離れた。

……ハピネスにもう脇腹に抜き手を入れられたくないからな。

「ふぅ、これで依頼も終わりだな」

「……ああ、そうだな。何だかとても長かった気がするのは俺だけか?」

「いや、気のせいじゃないと思う」

早く終わらせよう早く終わらせようと、スケジュールを詰めていたのにな。

……そういえば、なんで早く依頼を終わらせようとしてたんだっけか。

「あぁぁぁー!!」

「……どうした、いきなり叫んで」

「レイヴン、俺達いつ帰るんだっけ」

「……明日だ」

「まじかぁ……!」

俺達は頭を抱えて崩れ落ちた。

俺のハピネスとレイヴンお近づきデートプランが実行不可能に。

今日は午後から後始末があるし、それをほっぽってなんて二人の性格上無理だろうし、明日は帰るからそんな暇ないし……詰んだ。

「……今回の依頼で俺は視野が広がったというか。自分の思っていることが全て真実じゃないってことを痛感したな。これからは剣だけでなく、状況判断能力も鍛えるようにしないと」

レイヴンは今回の依頼の反省を仕出したし、どうしよっかこれ。

そういえば、いつまで後ろを向いていればいいんだ。

声が少しだけ聞こえるので何かを話しているな。

聴覚強化して盗み聞きしてみるか。

……いや、流石にガールズトークの盗聴は犯罪臭がするから止めよう。

何もせずに大人しく待っていると、ハピネスが戻ってきた。

どうやら、お別れの時間みたいだ。

「ハピネス、何か話してたよな。何話してたんだ?」

「……秘密」

「やっぱりか」

盗聴してなくて、正解だったな。

してたら、脇腹に抜き手どころじゃ済まなかったかもしれない。

浜辺に行くと、二人の人魚が海に浮かんでいた。

お別れ感が出て来て少ししんみりする。

「やっぱり海だわー。まじさいこー。海中万歳!」

「ミサキ、最後だしちゃんとしよ……?」

しんみりが一気に消えた。ミサキちゃん、自由過ぎる。

シケちゃんも普段から振り回されているのだろうな。悪い悪いとシケちゃんに平謝りし、二人は俺達の方を向く。

「改めて言わせて貰うけど……本当に助かった。正直、人間に捕まってから終わったと思ってたんだ。また、海に……住家に帰れると思わなかったよ、ありがとな」

「私も……もうミサキと会えないって、いつか人間に殺されるってことしか考えられなくて、絶望しかしてませんでした。ミサキと一緒に住家に帰れるなんて思わなかったです……本当にありがとうございました」

二人は各々感謝の言葉を述べて、俺達に深く頭を下げた。

お礼は先程の歌で充分貰ったと思ってたんだけどな。

「いや、俺達も歌を聞かせて貰ったし。最後はハピネスに付き合って貰った感じで、ありがとう」

「……最初は済まなかった、また、な。……良い歌だった、ありがとう」

「……ん、ばいばい」

挨拶も済みこれで二人とはお別れだ。

最後に二人を見送ろう。

「あ、あのメモ剣士さん、ちょっと良いですか」

「……俺か?」

シケちゃんがレイヴンを手招きして、呼んだ。

メモ剣士……ミサキちゃんが教えたのか。

メモ剣士に戸惑いを覚えつつシケちゃんに近付くレイヴン。

「あの、屈んで貰って良いですか? ……届かないので」

「一体何を……っ!?」

屈んだ瞬間、大胆にもレイヴンの顔を掴み右頬にシケちゃんはキスをした。

屈んだまま石のように固まるレイヴンから、シケちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめ離れる。

「にししっ、じゃーなー。また、会おうぜー!」

「さ、さよならっ!」

海の向こうへ消えていく、二人の人魚。

やがて、潜ってしまい二人の姿は完全に見えなくなってしまった。

浜辺に残ったのは冷静に状況分析している俺。

立ち上ってキスされた右頬を触り、呆然とするレイヴン。

そして、やたらと不機嫌な表情のハピネスがいた。

……とりあえず、どちらにどう声をかけるべきなのだろうか。

意外にもいち早く行動に出たのはハピネスだった。

レイヴンの所に行くのかと思いきや、まさかの俺の正面に立つハピネス。

何故、わざわざ正面に立つ意味が。

「……先。謝罪」

「何言って……ぐほぉっ!?」

いきなり現役メイドの綺麗なお辞儀で謝ってきたと思ったら、次の瞬間容赦ない右ストレートを顔面に入れやがった。

完璧にクリーンヒットした結果、俺の首は九十度近く曲がり、無様に後ろの砂浜に俯せでダイブする。

顎に綺麗に入ったので頭がクラクラして、思考が定まらない。

ただ、ハピネスふざけんなと思考だけは出来た。

口に入った砂をぺっと吐き出し、頭を振って立ち上がる。

さあ、どう説明して貰おうかと振り向いた……が。

そこには頬を赤らめそっぽ向くハピネスと、先程以上に顔を真っ赤にしたレイヴンがいた。

「え、ちょっ、え、ええぇぇぇ!?」

そこから先はもう、何というか。

残っている仕事は無事終わらせられたのだが、レイヴンは常にぼーっとしていて、あろうことかマサに注意され、途中からマサを含めた船員と騎士達全員に心配されていた。

ハピネスは平常運転に見せかけて、そわそわそわそわ。

帰りの乗り合い馬車とか、もう俺がふざけても何しても無駄だった。

まあ、時間が解決するだろう……。

「隊長、一体何をやらかしたっすか!?」

「知らん、俺は何にも知らん」

「知らんじゃないっすよ。隊長が企画した旅行から帰ってきてから、レイヴンがやたらと空を見上げることが多くなったっす。仕事はいつも通りっすけど……ハピネスの名前を出した瞬間、身体が硬直するってどういうことっすか!? ハピネスには旅行のこと聞いたら逃げられるしで……隊長!」

「だから、俺は本当に何があったか知らないんだよー!」

肝心のシーンを見逃した。いや、強制的に視界を変えられたと言った方が正しいか。

あの時何があったのか、それはハピネスとレイヴンしか知らない。