Alchemist Yuki's Strategy
Episode 24 Battle Preparation III
地下水路を移動中、タクとアヤ、ついでにアランにメールを送る。文面は簡潔に
『南門入り口にて渡すものがある、来られたし』
まぁこんな所かな。
門まではウルル便で直送である。
渡す物は、タクに結晶大王蟹の守護鎧、アヤに聖騎士の光剣、アランに狂戦士の闇斧、だ。
アランなら斧も出来るんじゃないか、と重い(・・)期待を乗せておく。
結晶大王蟹の蒼壊槌は僕が使おうと思う、素手でゾンビに触れたくない。
ウルル直送便に乗りつつ、街の中を見渡す。
南通りは元々人通りが少なく、廃墟があるせいか貧民街の様な節があったが、今は人っ子一人いない。
外壁の上には兵士が広範囲を補える様に展開している様だが、その数はやけに少ない気がする。
ざっと数えて五百程だろうか?
……もしや、これがルベリオン王国の常備軍?
だとしたら、先の大戦でこの大陸の人類は本当に追い詰められていたと言う事か。
……プレイヤーが頑張らないと何の冗談もなしに滅びそうだ。
ティアには悪いが、今回は僕も死ぬ気で行かせて貰おう。
◇
南門に到着した。
南門の内側には数百人程の兵士がいて、門の前に整列している。
突撃をするつもりか、あるいは門を突破された時の為に控えているのか?
まぁ、どちらでも良いが、出来る事なら死なない様に立ち回って欲しい物だ。
南門から外に出ると、其処には皆が揃っていた。
タクのパーティー、アヤのパーティー、セイトのパーティー、アラン、鎧姿のティア、妹精霊さん、他数十名のプレイヤー。
そしてその周りにはそれらを囲む様に遠巻きに此方を見ているプレイヤー達。……何があった。
取り敢えずウルルから降りると皆の前まで歩いて行く。
地面を指差しウルルを寝転がらせ、その上にストンと座ると腕と足を組んだ。
周りを見ると、既に僕の存在には皆気付いている様で、何事かと此方を見ている。
シンと静まり返るその場に、僕は適切な声をかける。
「皆の者、御苦労。よく集まってくれましたね」
ちょうど良い演出だよね。
静まりながらも僕に注目するプレイヤー達の視線を感じながら、話しを押し通す。
「先ずはティア、状況を」
「あ、ああ、斥候の情報によると、敵は森の魔物を吸収し規模を増大させながら進軍している。行軍速度は遅く、本隊が来るのは凡(およ)そ一時間後。ただし、動物型のアンデットが先行している、もうじき見えて来るだろう」
僕の呼び掛けに、白い全身鎧の人物が応える。そのおかげで、何だコイツと疑問を投げ掛ける視線は殆ど無くなった。
「成る程、特攻隊で此方の戦力を測るつもりですか。アンデットとは言え流石はリッチと言ったところでしょうか?」
僕側としては、少しでも敵を削れるなら其方の方が良い。
今回のそれは、敵がわざわざ戦力を分断してくれているので有り難い所だ。
プレイヤー達もレベルが上がるだろうし、万々歳、と言いたいのだが……おそらく武器が持たないだろう。
訓練されていない上に、得物も違う兵を率いるのは難しい。
高い戦闘力を持つプレイヤーは温存した方が良い。
幸い、そのプレイヤー達の殆どが此処に集まっている。
言う事を聞いてくれるか分からないが、最悪身内だけが残ってくれればそれで良い。
「ティア、マレビトを外壁の上に配置する事は可能ですか?」
「可能だ」
「では、指示があるまで私の後ろで待機していてください」
「はっ! ……あれ?」
マレビトも外壁に登って良いらしい、これで弓や魔法を主体に戦うプレイヤーを安全地帯に下げる事が出来る。
前衛も自由度が高くなるだろう。
「タク、アヤ、アラン、前へ」
続いて件(くだん)の三人を呼ぶ、全員しっかりとのってくれている様で何より。
僕の前に並んだ三人、それぞれに声をかける。
「先ずはタク、前へ」
「ああ」
「タク、貴方にはこれを」
そう言うとインベントリから蒼の鎧を取り出し、タクへ渡した。
「これは……またか」
「貴方の戦働(いくさばたら)きを期待します」
「お、おう」
微妙にのりの悪いタクを流す。これは遊びではなく、プレイヤーの士気を保つ為の儀式の様な物なのでさっさと意識を切り替えて欲しい。
「次に、アヤ」
「はい!」
アヤはと言うと、最初から元気一杯である。
「アヤ、貴方にはこの剣(つるぎ)を、貴方のパーティーには期待しています」
「は、はい!」
元気に剣を受け取ったアヤ、早速その剣を鞘から抜いて見ている。
「最後にアラン、貴方ならこれを使いこなせますね?」
「はぁ……? まぁ多少は」
使えるらしい、まぁ、今回は流石に包丁とフライパンと言う訳には行かないだろうしね。使えるのなら使わせよう。
「タク、アラン、セイト、プレイヤーの中から弓使いと魔法使いを抜き出しなさい、外壁の上に配置します。配置はティアの指示に従ってください。ティア、兵士とマレビトにゴーストやワイト以外への攻撃を禁止する旨を通達、厳命してください」
リッチに攻撃して下手に注意を引いても全滅するだけなので、重要案件だ。
続け様に真面目組へ命令する。
「センリ、マガネ、ミユウ、ユリはプレイヤーを整列させ、その数を数えて報告、指示は追って出します」
最後に全員に声をかける。
「他は敵の本隊を叩く為に温存します、ここで待機してください」
僕の命令にそれぞれが動き出す。訝しげな人や指示を聞かなそうな人も少々いるが、それはそれ、個人がどう動こうと、今何が出来ると言う訳でもない。
時間が余ればちょっとお話しをしようか。