Alchemist Yuki's Strategy

Episode 9 Cook

待っている間に換装でメイド服に着替えておく。

精霊装よりもメイド服の方が、少し体が軽く感じるので、氷魔法で戦う時以外はメイド服でいた方が良いだろう。

試しに鑑定してみたが、やはり結果は芳しくない。

魔力の流れや質から、色々と複雑な魔法が掛けられているのがわかるが、魔法についてまだ詳しく無い僕にはそれらが何を意味するのかわからない。

わかるのは、服と着用者が常に綺麗になる魔法が掛けられている事だけ。

他にも、着用者に合わせてサイズが変わる魔法も掛けられているのだと思われる。僕が着た時に胸元の生地が縮んだからね。

遊撃隊の皆が帰って来たので労い愛でていると、最初に帰って来たのは妹組だ。

アヤと双子はまだまだ余裕がありそうだが、ユリちゃんとミユウちゃんは顔色が悪い。

お疲れ様と声を掛け、休ませる。

次に来たのがセイトとアランのパーティー。

同様に声を掛け、休ませる。

早速リッドに指示を出し変形してもらう。

外壁は厚い石壁にし、ドアは木と鉄のサンドイッチで防御力を上げる。

女子部屋と男子部屋とリビングダイニング、ついでに中庭を作り、ベットを置いて机や椅子を設置、床や天井は木製に見える様にした。

思っていた以上にリッドが余ったので、二階建てにして小部屋を六つ作り色々と小物を設置した。

その他様々な部分に手を加え、家が完成する。

「よし、これで完成っと」

中々良い出来ではなかろうか?

リッドにはこれを記憶しておく様に伝える。いちいち作るのは面倒だからね。

「それじゃあ皆、入って」

建築の過程を見ていた皆は、恐る恐る僕に続いて家の中に入って来た。

玄関で靴を脱ぎ、鎧や武器共々インベントリにしまって貰う。

各部屋、と言っても三部屋と上の小部屋だけだが、その説明をすると、皆各々散らばって行った。

「アランはやっぱりキッチンが気になる?」

さっそくダイニングキッチンでごそごそやり始めたアランに声をかける。

「おぉ、やっぱり気になるな……これって火とか大丈夫なのか?」

「……うん、大丈夫らしいよ?」

「そうか……じゃあ料理すっかなぁ」

そう言って、インベントリから調理器具や肉、食器を取り出すアラン。そんなアランに残念なお知らせです。

「アラン、実はね……」

「な、何だよ?」

「火もつかないし水も出ないんだよね」

「見せかけかよ!?」

「うん」

それと言うのも仕方ない、リッドは火魔法も水魔法も使えないのだ。

「まぁ、良いか、火魔法も水魔法も使えるしな、いつも通りやるとするさ」

「そう? なら良かった」

屋台でどうしてるのか気になっていたが、アランはアイテムやスキルを調理系統に充実させているらしい。

「何作るのかな?」

「何食いたい? つっても今は串焼きしか作れねぇけど」

「ならBBQ(バーベキュー)だね」

「……肉しかねぇぞ?」

「ふふふ、大丈夫」

そう言って僕が取り出したのは、野菜。

拠点の畑にて、ジャイアントトレントが魔力を振り撒いていたおかげで時期など御構い無しに実っていた野菜や根菜を一部頂いておいたのだ。

「お前これ、どっから……市場に売ってるのって謎野菜ばっかだったのに……」

そう、店売りの野菜は色々とおかしい物ばかりなのである。

アランが肉しか売れないのはそれが理由だ。

それに対して、拠点の畑はリアルにある物ばかりが栽培されており、ジャイアントトレントのおかげでそれらの野菜が失われずに済んだ様なのだ。

そろそろワーカーゴーレム達も復活するので、畑の整備や街の修復、その他の開拓に着手して行きたい。

「人手がいるよね、料理出来そうなのを呼んでくるよ」

「あ、ああ、頼む」

向かった先は女子部屋、セイトは中庭で素振りをしているので、男子部屋には誰もいない。

女子部屋でしていた女子トークをぶった切り、全員を連れて行く。

この際だから、料理出来ない人にも料理の仕方を覚えて貰えば良い、アナザーなら指を切断しても問題無い。

痛みも、メニューのステータスにある設定で弄れるので、料理にトラウマがあっても問題無い。

皆をキッチンに連れて行き、野菜を切る様に言った所でノック音が聞こえた。

直ぐに耳を生やして確認すると、タク達が帰って来た様である。

ドアを開ける。

「おかえり、遅かったね」

「おう、ちょっと遠くまで行っててな」

タク達を家に招き入れたが、ミサキとケイは家を見上げてポカーンとしている。

「入らないの?」

「……え? あ、入るわ!」

「う、うん、お邪魔するよ……」

タクは調理場で野菜を切り始めた皆と、中庭で素振りをするセイトを見た後、直ぐに鎧をインベントリにしまって中庭に行ってしまった。

センリは同じ様に見た後、明後日の方向を見ながら中庭に行こうとしたところを、ニコニコと微笑むユウミに捕まって引き摺られて行った。

「それじゃあケイとミサキは調理場に行こうか」

「う……料理ね……任せなさい」

「うん、分かったよ」

アラン料理長の指示に従い野菜の下処理をする皆。

アラン料理長とアヤ副料理長は肉担当である。

僕の仕事は危なっかしい手つきで野菜を切る皆の補助だ。

モードスノー、霊装と指輪は外します。

「むいてもむいても〜♪」

「中身が出ない〜♪」

「「イェイ♪」」

「二人は貴重な玉ねぎで何を遊んでるのでしょうか?」

「「ひゃわ!?」」

「……」

「……ち、違う……皮むいたらこの大きさになった」

「ピーラーがあるから使ってくださいね? 芽と緑色の部分はちゃんと取る事」

「……う、うむ、分かってる」

「はは、懐かしいな……子供の頃は良くお祖母様の手伝いをしたものだ」

「あら、私は現役ですよ? 花嫁修業ですから」

「ははは」

「ふふふ」

「何を張り合ってるのかわかりませんが、人参が爪楊枝みたいになってますよ?」

「「はっ!?」」

「トウモロコシくらいならぁ〜、私にも出来ますよぉ〜」

「ふふん、切れば良いのよね、切・れ・ば。簡単よ!」

「へぇー、切るだけで良いんだ! 簡単だね!」

「そうよ!」

「そうですよぉ〜」

「ーー先ず茹でるのが先です」

「「「え?」」」

「茹でたら直ぐに冷水につけて、その後にカットした方がいいですよ? 芯が硬いと危ないですから」

「「「は、はい……」」」

「お姉ちゃん、キャベツはこんな感じで良いの?」

「ユ、ユミ? 私のはどうかしら」

「うん、ミユは良いよ、後はこの串でばらけない様にしてね。チサトちゃんは……どうして微塵切りになってるのかな? 教えてくれる?」

「あ、う、そ、その……た、食べやすいかと思っーー」

「ーーユキくんはバーベキュー用って言ってたよね? これは何に使うのかなぁ?」

「……は、ハンバーグとかに使えるんじゃないかしーー」

「ーー代用の話はしてないよ? どうして微塵切りにしたのか聞いてるんだけど……わからなかったのかな?」

「あうぅ」

「お、お姉ちゃん! 先輩が泣きそうだよ!!」

「アラン、挽肉を作ってください」

「ん? お、おう了解」

「……ユキくんに感謝すると良いよ」

「お姉ちゃん……」

「ぐすっ」

「そい、そい、そーいっと。アランさーん! お肉はこんな感じで良い?」

「おう、その調子で頼むわ。アヤちゃんは料理出来るんだな」

「おにぇちゃんと毎日やってるからね〜」

「っう事はユキも出来るのか……」

「まぁ、おにぇちゃんだからね。なーんでも出来るよ!!」

「ははっ、確かにユキなら何でも出来そうだな」

「出来ない事だってありますよ?」

「うぉい!? いつの間に……」

「おにぇ……スノーさん!?」

皆の進捗を確認したり。

「はっ! これでどうだ!」

「おっと、やるな! こうだ!」

「隙だらけですよー」

「「ぐはっ!?」」

外で遊んでる二人を懲らしめたり。

「ウォン! ワフ!」

「ふふ、よしよし」

「バウバウ!」

「おっと、よしよし」

「クゥーン、ワン!」

「ふふふ、いいこいいこ」

「ユキ、あたしも……その」

「白雪もいいこ」

配下と戯れたりした。

サボりでは無く必要な事です。

かくして料理の下準備が終わったので、各自ログアウト。

集合時間からバーベキューを開始し、終わったら肝試し……夜戦である。

何だか夏休みっぽくなって来たなと思うこの頃。