Alchemist Yuki's Strategy

Episode 4: Girl and Seite

「うん、取り敢えずみれる様になったね」

「はぁ、はぁ、はぁ……お、終わった、の……?」

「ほんっと……色々と容赦ねぇよなぁ」

何と言う事も無い。出来てないのを出来る様にしただけである。

大剣向けの手の振り方、足の使い方、腰の据え方。

言葉だけでも上手く伝える事は出来たが、更に細かい微調整を加える為に強く密着して動き方を体に覚えこませる。

タクやセンリなら見るだけでやり方を理解してくれるが、ミサキは何処を見れば良いのかを分かっていない。

基礎が無いからだ。

なので、今回は徹底的に基礎の立ち回りを教え込んだ。

「おにぇちゃん、お疲れ〜」

「み、ミサキっ、大丈夫なのか!?」

訓練を終えると、アヤが水を差し出して来た。

思えば、空腹度はあるが、必要水分量のメーターは無い。

僕は汗をかいていないが、ミサキは汗だくである。

肉を切れば血も流れるし、頰を涙が伝う事もある。

この水分は一体何処から来ているのだろうか?

地面に倒れこんで肩で息をするミサキと、それを介抱するケイ。

取り敢えず全員集まっている様なので、分からない疑問は置いて朝食とブリーフィングを行おう。

「ーーと、今日はこんな所。何か質問は?」

朝食後、帰って来ていたウルル達から洞窟の殲滅が完了した旨の報告を受け、たっぷりと労ってから皆に今日の予定を説明した。

内容は、ギルドの事と午前中に王都へ向かうと言う事の再確認。

特に質問は出てこなかった。

これは

ギルドに向かう道すがらに起きた

事件である。

「なぁ、ユキ。ギルドってのは随分と暗い所にあるんだな」

タクの言いたい事は何となくわかる。

ギルドは表通りにドンと構えている物と思っているのだろう。

何せプレイヤーはアナザー内では定職に就けない。

必然的に魔物を狩ってお金を稼ぐ事になる。

王都では常に市場が賑わっているから、プレイヤーはそれぞれの商人と交渉して売買をしている様だが、ギルドがあれば全てそこで済ませる事が出来る。と思っているのだろう。

実際は、一万ものプレイヤー達が王都のギルドに押し掛けたら黒字倒産待った無しである。

それだけ、闇との大戦でギルドと言う組織は大きなダメージを受けている。

上手く調節して資金繰りをさせないといけない。

裏の方にあるのは土地代が安いからだろう。

「ええ……ギルドにも事情があると言う事です」

「お、おう、そうか……」

僕はギルドへ行く時はスノーモードである、でないとギルドカードが反応しないからだ。

勿論、服装もメイド服にチェンジしている。

それぞれがばらけて街の中を見回し、さながら観光客の様に歩いている。

この街は広さの割に空き地が多いので閑散とした印象を受けるが、僕達が今いる南側は鍛冶屋が多く、皆は武器を既に持っているが興味は惹かれるのだろう。

ざっと見た所、王都の武器に比べれば純度が高い分まだマシである。

そんな中、路地からふらりと少女が出て来たのが目に付いた。

子供があまり近付かない様な通りなので、ふと気になっただけである。

少女は痩せており僕より少し身長が低い、服も、孤児院の子供達より少しボロい。

言わば貧民の子、と言った様相である。

容姿も特に優れていると言う訳ではなく、しかし悪い訳でもない。日に焼けた肌は埃や土で少々薄汚れて見える。

少女はふらりとセイトに近付くと、その手を掴んだ。

それに気が付いたセイトは少し驚いた顔をしたが、少女に手を引かれるまま路地に連れて行かれる。

それに気が付いているのは僕とタクとアラン。

女子メンバーは全員がそれぞれ集まって店を見ていたので、気付いたのは目敏いアヤと保護者っぽいマガネだけである。

四人に軽く目配せしてギルドの位置がマーキングしてある地図の画像を送信した。

僕はセイトを追い掛けよう。

暗く寂れた路地裏へと歩みを進めた。

「あ、あの! お、お花を買ってくれませんか?」

吸血姫の服にチェンジし、気配を辿っていると鋭敏になった聴覚がそんな声を拾った。

角から顔を出してやりとりを伺うと、少女は一抱えもある籠(かご)をセイトへ差し出している。

籠の中には空き地で偶に見かける黄色い花、プァリボルと言う名前の食用花が詰まっていた。

図鑑によると、シャキシャキとしていて仄かに甘く、栄養もそれなりにあるとの事。

手に入りやすく見た目にも華やかなので屋台などで添えられていたりするらしい。

セイトは困惑している様だが、少女の姿をパッと見回して買う事に決めた様だ。

「……うん、買うよ。幾らかな?」

セイトがそう声を掛けると、少女は困った様な顔をして少し考えてから応えた。

「え、えっと…………だ、大銀貨一枚です!」

この値段、はっきり言ってただ花を買うだけなら破格と言える。

あの籠に花が百輪入っていても、せいぜい一輪で小鉄貨1〜3枚くらい。百輪で小銅貨1〜3枚程、労力を加味しても銅貨一枚に行かない程度だろう。

花を買うだけ(・・・・・・)なら随分と吹っ掛けられた物だ。

まぁ、セイトは額面通り花を買うつもりらしいが。

「これで良いかな?」

セイトがインベントリから大銀貨を取り出すと、少女は途端に笑顔を見せたが、直ぐに視線を下ろし、何かを覚悟する様にゴクリと喉を鳴らした。

「は、はい……その……」

「……大丈夫?」

「は、はい! は、初めてなので至らぬ事もあると思いますが、せ、精一杯おちゅとめさせていただきましゅ!!」

「?」

うん、まぁ、ねぇ……そろそろネタばらしに行こうか。

困惑しているセイトと、人通りが無いに等しいとは言え、こんな所でおっ始めようとスカートをたくし上げる少女の隙を突いて、セイトの背後に忍び寄る。

セイトの背中に飛び乗り声を掛け様としたが、急遽変更、その目を両手で塞ぎにかかる。

「うわ!? うわ!?? な、なにが!?」

「セイトのロ・リ・コ・ン……見た?」

「ユキさん!? ロリコンじゃないから! そ、それと……み、見えなかったよ、ありがとう……」

「え!? あの……?」

驚く少女、僕も少し驚いたよ。

セイトはパンツの影が見えなくて安心していた様だが……。

そもそも、ちゃんとした下着を持っているのは貴族や商人くらいの物で、一般家庭は布を巻くのが普通だ。貧民となると、布を買う様なお金も碌に無いらしく……。

まぁ、良いか。

「さて……少し話しを聞こうか」

「あ、あの! お姉さん、ありがとうございます!」

「良いよ、お大事に」

少女の話によると、母親が病気になって中級ポーションを買う為のお金を稼ぎに来たらしい。

なので、花を籠ごと大銀貨で買って、おまけで上級ポーションをプレゼントした。

僕とセイトを見て酷く困惑したり蒼褪めたりしていた少女を落ち着かせて話しを聞き、次は酷く恐縮する少女に大銀貨とポーションを押し付けて追い払った。

これで多分万事解決である。

「ほら、セイト行くよ」

「う、うん…………ねぇユキさん……この世界って本当に……いや、何でも無い」

そう言って何か考え事を始めたセイト。言わんとする事はわかるが、確かに僕はその答えを知らない。

ただ、一笑に付す事は出来ないだろう。

「……セイト、行くよ」

「うん……」

この籠、うさーずを入れて鷲君に持たせて飛行させれば無差別爆撃出来そう。