Alchemist Yuki's Strategy

Episode 14: Cleaning Up the Miscellaneous Things Before the Feast

ログインすると、早速バルコニーへ向かった。

右手側にはワイルドドックの森が、左手側には霧の森があり、進行方向には、遠くに以前僕が登った大岩が見える。

王都までは、あと四半刻掛からずに到着するだろう。

それまではウルルと戯れていようか。

ウルルを撫でながら待つ事暫く。

王都近辺の草原に入る頃には皆ログインしており、城壁に近付く際は壁の上で見張りをしている兵士に手を振っておくのは忘れない。

草原では複数のプレイヤーが狩りをしており、キャタピラで進むリッドを見上げて驚愕の表情を浮かべていた。

ともあれ、到着である。

「それじゃあ皆、2日間お疲れ様」

王都の西門前で皆に労いの言葉を掛ける。

実際、此処2日は結構大変だったと思う。特に初日。

当然の事だが、アンデットのゾンビは気持ち悪い。女子メンバーを中心に精神的に大きく疲労したのは間違い無いのだ。

それが終わった次の日は洞窟探索で、巨大ゴキブリに遭遇すると言う凶事もあり、そもそも暗い場所にしか行ってない。

各地で進展があったとは言え、あんまりと言えばあんまりだ。

皆には明日の祝宴までしっかり休んでいて欲しい所。

暫く、お互いの健闘を讃えあったりする皆を見た後、最後の締め括りに、解散! と声を掛けた。まぁ、集合! と言ったら集まってくれそうな程には引き込めた事だろう。

各人が各パーティー毎に街へ入って行く中、アランに声を掛けられた。

「なぁ、ユキ……あのスライム貸してくれないか?」

急に改まって声を掛けてきたから、何事かと思ったが、何という事もない。リッドを貸して欲しいと言う事だった。

まぁ、確かにリッドは便利だ。僕の知らない内にアランに色々と仕込まれていたし、貸すのは吝かに無い。

……いつの間にミキサー何て教えられていたのか……。

「僕は構わないけど……リッドが良いって言うなら良いよ」

勿論僕としては、ソロ活動のアランにパーティーメンバーを貸し出してレベリングの手助けをする、と言うのは賛成である。

リッドは配下の子達の中ではおそらく一番汎用性が高い。

もし僕がリッドだったら、腐竜王だったミルちゃんと一騎打ちで対等に戦える自身がある。

ともあれ、本スライムの意向を蔑ろにして良い訳でも無いだろう。

小型化して僕の足元に来たリッドを抱(だ)き抱(かか)え、アランに差し出して見る。

「分かった……リッド、俺の手伝いをしてくれないか?」

どこと無く緊張した様子で言ったアランに、リッドはプルリと震えて、更に小型化しながらアランの肩に飛び乗った。

「良かったねアラン」

「おう、リッド、よろしくな!」

リッドだけでも十分だとは思うが、おまけでネロも付けておこう。

ネロを召喚する。アランはネロと相性が良い様なので付いて行ってくれるだろう。

「ネロ、アランの手助けをしてやってくれないかな?」

「グォン! ハッハッ」

「おっと……良いのか?」

「勿論。美味しいご飯を期待しておくよ」

「……おう! 任せとけ!」

リッドとネロは、地下水路組、アンデット組と同じレギオンに所属しながら、アランのパーティーにも入っている状態となっている。

こう言う事も出来るんだね。

街の中へ消えて行くアランを見届け、地下水路組へ連絡を取る。

入り口へ来る様に命令し、ウルルに跨った。

白雪が僕を抱き締めしっかりと掴まったのを確認してから出発である。

少し急ごうか。

「ウルル、地下水路へ。少し早めでね?」

「ウォン!」

ウルルの背に乗りつつ、背後の森を見る。

森の入り口に見えるのは数十人の兵士と思わしき集団、その後ろには以前王都のギルドで見た呑んだくれ冒険者達。

一応隠密性のあるうさーずに追跡と援護を任せたが、下手に藪を突いて鬼でも出て来たらうさーずだけでは荷が重いだろう。

地下水路の入り口に着くと、配下の皆は既に到着して居た。

取り敢えず全員を労ってから纏めて送還し、小型化したアイを抱えて森へ向かう。

尚、召喚、送還は距離が離れている程消費魔力が多くなる様子。

他にも、召喚、送還する魔物が強ければ強い程消費魔力が多くなる様だ。

なので、本当に急ぎの時は配下の状況がどうであれ送還してから召喚し直す。

今回の場合は、兵士さん達が藪を突きに行った訳では無い可能性もあるので、わざわざ魔力を無駄に消費してまで急ぐ必要は感じない。

だが、万が一藪に飛び込みに行ったのだとしたら、あの戦力では全滅待った無しだ。ウルルに少し早く走って貰うだけの事はしよう。

街を抜け、プレイヤーが狩りをする草原を抜け、森の中へと入って行った。

道中はアイのインベントリから魔石やレア物だけ移し替えておいた。

迷宮核(メイズ・コア) 品質? レア度? 耐久力?

備考:?

迷宮核(メイズ・コア) 品質? レア度? 耐久力?

備考:?

アイが入手した迷宮核(メイズ・コア)は二つ。何を生み出す物かは知らないが、願わくばゴキブリ以外であって欲しい。

どう使えば良いのか分からないので取り敢えずインベントリにしまっておく。後で拠点に行って調べてみようか。

森の中を進む事暫く、元遺跡の街の入り口に若い男の兵士が二人佇んでいた。

僕が近付いて来るのに気付いたらしく……何故か敬礼された。……取り敢えず挨拶をしてみようか。

「こんにちは」

「は、はいっ! じゅ、従士様が何故この様な場所へお越しに?」

「ま、まさかゴブリンの大群とは貴女様が動く程の大事なのですか!?」

…………ふむ? 従士。従士とは供侍の事、供侍とは言わばお供、主人に従う侍の事だ。

そしてこの驚きよう、もしやアンデット襲来のおり外壁の上に居た兵士ではなかろうか?

となると従士とはティアの侍女の通称だろうか?

……取り敢えずそれっぽく振舞っておこう。

「何故あなた方は此処に?」

「は、はい、実はーー」

兵士二人に詳しく話しを聞いた所、マレビトが西の森でゴブリンの大群に負けたらしいと言う話が大商人から兵士の詰所に伝わり、大量のゴブリン素材を検分してから一大事やも知れぬと調査隊が派遣されたらしい。

二人は隊長から日暮れまで此処で待機する様に言われ、万が一隊長含む小隊とCランク冒険者達が戻って来なかった場合はその旨を王都へ報告する様に命令されたのだとか。

だから残されたのが若い兵士だったんだろう。

隊長とやらは決死隊のつもりでこの先に進んだと見て間違い無い。

「分かりました、ではこの先に生存者が居た場合は保護しましょう」

「せ、生存者……」

「そんな……隊長……!」

どうやら隊長さんは部下から信頼されているらしい。

生存者なんて言い方をしたが、僕は誰も死んでいないと思っている。

「では私はこれで、くれぐれも森の奥へ向かわない様にしてください」

「は、はい! ご武運を!!」

「どうか隊長を、皆をお願いします!」

軽く手を振って了承の意を示し、ウルルを森の奥へと走らせた。

因みに、白雪は見事に人見知りを発動させて僕の背中にしがみ付いていた。

物問いたげな兵士さん達の視線は全て無視しておいたが、白雪にはもっと社交的になって欲しい所だ。