Alchemist Yuki's Strategy
AS Double Swordsman Tak Struggle [Episode.1] Beta Island Struggle Twenty-five
三層はマングローブ林……の様な地形だった。
空からは太陽光が降り注ぎ、吹く風には磯の香りが含まれている。
水深は膝丈程以上あり、更に深い所も多そうだ。
「此処で中ボスか……」
「厄介だな」
「水がいっぱいありますねぇ〜」
ただ歩くだけでも体力を使う。本当に厄介だな……。
「……行くぞ」
「おう」
「はい!」
◇
進む事しばらく、他の迷宮同様次の階層への扉は直ぐに見えて来た。
水深は既に腰程まで来ており、直ぐとは言え少し疲労感がある。
水色の金属で出来た扉は固く閉ざされており、中ボスを倒さなければ開く事は無い。
「探さなきゃならんのか……」
「此処を? 冗談だろ……」
「?」
広さはそう大きくも無いが隠れる場所が多過ぎる、流石に面倒だ。
男二人で呆然としている中、セナは呑気に首を傾げている。
「虱潰(しらみつぶ)しに探すしか無いか」
「あの〜……」
「ん?」
仕方ない、と動き始めようとした所でセナに引き止められた。
「中ボスですよね……あそこにいます」
そう言って、セナが指差したのは何も無い水辺。
何も見えないからと言って油断したりはしない。何せセナがいると断言したのだから。
アランも俺も武器を抜き放ち、構えた。
次の瞬間ーー
「っ!」
「はっ!」
ーー水中から水弾が飛来した。
バスケットボール大の水弾は立て続けに複数放たれ、それをアランと共に風刃で迎撃する。
「らっ!」
「おらっ! っ!?」
全弾迎撃し終わった瞬間、アランが水中に倒れ込んだ。
引き込まれたかっ!
水弾の迎撃で海水が濁っており、今はバッと広がった赤い血の色が敵とアランを隠してしまっている。
メニューからアランのHPバーを確認すると、今の交錯でHPが二割弱減少し今もじわじわと減っている。
アランが何処にいるかを見極めるべく、物音立てず剣を構えていると、背後でもザバッと何かが水中に没する音が聞こえた。
セナも引き込まれたのか? 敵は複数いるのか?
僅かな焦りと共にセナが没っした辺りを観察すると、ぶくぶくと泡が浮き上がりセナが浮上して来た。
「ぷはっ」
「セナ! 無事だったか」
直ぐさまセナの周囲に視線を向け敵を探すも、特に濁りの無い水中に敵の姿は見えない。
一体何処に行った? っ!?
唐突に背後で大きな音が響いた。
振り向いた先に居たのはアラン。
そしてアランに巻き付いている巨大な青い蛇のモンスター。
アランは緑の風を纏っており、大きな蛇はアランの足に噛み付いていた。
周囲の水は緑の風によって押し退けられ、地面が露出している。
「アラン! 助けは……要らないか?」
「おう、ちょっと待ってな」
そう言うとアランは足に噛み付いている蛇の頭を両腕でムンズッと鷲掴みし、血が流れるのもそのままに無理やり引き剥がした。
周囲の海がアランの血で赤く染まり、メニューの端にあるアランのHPバーが五割を下回る。
そしてーー
「う、らぁっ!」
ーー掛け声と同時に蛇の頭を挟み潰した。
「ふわー……凄いですねぇ」
「凄いっつうか……やばい?」
今のは腕の力だけでは無理だ。
おそらく迅斬術に似た技を使ったのだろう。
筋肉を断続的にうごかすのが迅斬術、すなわち迅術なら、今のは差し詰め剛術と言った所か?
全身の筋肉を同時に、瞬間的に行使して両腕と胸の三面で圧縮していた。
おそらく、大剣を振るう時も同じ様に剛術を行使しているんだろう。
今回は嵐(テンペスト)の身体能力強化が織り込まれてパワーが格段に上がり、容易く中ボスを圧殺出来たのだろう。
「ほらよ」
「おう、サンキュー」
アランに補充したばかりの下級ポーションを投げ渡した。
これで三層突破だな。
「お疲れさん」
「ほんとに疲れたぜー……引き込まれた時は死んだかと思ったわ、サンキューなセナ」
「いえいえ〜」
照れた様にはにかんだセナ、何と無く察したが、おそらくセナは水中でアランに呼びかけたんだろう。
凄い奴らだな。
◇
水流の装飾が施された水色の扉を潜った先は……
「……海か」
「此処にさっきのが出てくる訳だ」
「これが海ですか……広いですね!」
ほんと、広いな……。