Alchemist Yuki's Strategy

Episode 20: Visit of the Dark Land Two Nights

黒い靄の正体は直ぐに分かった。

どうやら、単純な闇属性らしい。

不浄の放つ瘴気は触れるのも憚られる様な気持ち悪い代物であり、負属性が持つ黒い靄は世界に相反する異質の物だ。

今回の黒い靄は、物陰の暗がりがそのまま現出した様な闇の魔力の塊で、夜目スキルがあっても遠くを見通す事が出来ない代物であった。

これが発生した原因も、直ぐに理解出来た。

そもそもこの遺跡は、遥か昔、このアルバ大陸がまだまだ未開拓だった頃に建てられた物で、時の大賢者が此処に建てるべしと言って作られた、アルバ大陸最初期のルベリオン王国の拠点である。

時の大賢者とはグリエル氏の事であろう、そして、拠点を此処にした理由は、此処が一種のパワースポットだからだと推測出来る。

この崖は、おそらく地震か何かで地盤がずれて出来たのだろう、その天災の影響か、地脈からその力がほんの僅かに溢れて来ている。

それが今起きている問題とどう繋がるのかと言うと……簡単な話、地脈の魔力が不浄と混ざり合って不浄の力が大きく増したのが原因だ。

もっと詳しく纏めると、根本的な問題は、何故か魔力が溢れるこの地に地下墓地(カタコンベ)を作ってしまったのが原因である。

地下墓地(カタコンベ)を作った事で、地上に溢れ、その殆どが海に注がれていた地脈の魔力が、地下墓地(カタコンベ)のみに集められ、留まる形になってしまった。

その結果、死者の怨念が活性化され魔力を得て動き出し、その存在が常に不浄を放って更に不浄が増加し、蓋がされている物だからその不浄が外に流れる事なく熟成され、長い時を掛けて、埋葬された大賢者をすら蝕み操る程に膨れ上がった。

その多くの不浄は以前の戦いで浄化し、遺跡を覆っていた不浄の全てを祓ったが、地下墓地(カタコンベ)深部に貯まった最も濃い不浄はそのままになっていた。

そんな折、地脈が活性化するとある事件が起きたのである。

即ちーーマレビト(僕)による転移門の解放。

地脈に接続された転移門が起動し、地脈が活性化。

地下墓地(カタコンベ)に大量の魔力が流入。

減少した不浄と大量の魔力がぶつかり合い中和。

不浄は消滅を恐れてより濃く固まり、中和して発生した大量の闇属性魔力が地上に噴出、僕が施した浄化結界を粉砕。

現在の異常に繋がる。

つまり、遺跡の異変の原因は、ぼーー昔地下墓地(カタコンベ)を作る様に命じた輩だ。

まったく、迷惑千万な話である。

うむ。

ーーそして、現在の遺跡は、吸血鬼、不浄、純粋な闇属性、の三つ巴の戦いが繰り広げられていた。

フェイリュア・ヴァンパイア LV35 状態:服従 警戒

下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア) LV42 状態:服従 警戒

マギクラフト・シャドーバット LV34 状態:潜伏

マギクラフト・ブラッドバット LV36 状態:隠密

マギクラフト・サンダーバット LV46 状態:

吸血鬼勢の主な戦力は以上の通りである。

おそらく、『下位吸血鬼』は『フェイリュア・ヴァンパイア』が進化してしまった物だろう。

バット系は、名前からして魔法で発生した生物の類だろう、インスタントやフェイクライフと同じ原理、『魔法生物』である。

製作者にも心当たりがある。

雷だけ突出してレベルが高いのは製作者が突出して魔法の扱いに慣れているからだろう。

それらに対するは、

レッサーリーパー LV48 状態:服従 潜伏

リーパー LV79 状態:服従 潜伏

グレーターリーパー LV108 状態:服従 潜伏

リーパー・クリッター LV15 状態:観察

ーー死神達だ。

何かに使役されていると言う事は、これらを操る親玉がいると言う事。

更に、この死神達は、どうやら黒い靄がある環境ではその能力が大幅に強化されるらしく、黒い靄を伝って消えたり現れたりする上に、一撃で斃さないと一瞬で離脱して黒い靄を吸って回復する。

面倒極まる連中であった。

そして最後が、

呪われし財宝の使者(カースドトレジャー・)・銀(シルバー) LV22 状態:

呪われし財宝の使者(カースドトレジャー・)・金(ゴールド) LV36 状態:

強欲な財宝の使者(グリードトレジャー・)・銀(シルバー) LV49 状態:

強欲な財宝の使者(グリードトレジャー・)・金(ゴールド) LV61 状態:

ダモスの欲望片 LV92 状態:

ダモスの強欲片 LV122 状態:

どうやらこちらの親玉はダモスと言うらしい。

この魔物は、不浄を纏った財宝を中心に据え、その周りを土や石、骨粉で固め、人型に成形した様な見た目の魔物だ。

ゴーレム精製の技術とまったく同じ原理であるが、不浄の力で作られている為、種族的には不死者(アンデット)に分類される。

強さは、中に小さな銀貨が入っている土製の呪われし財宝の使者(カースドトレジャー)が最弱で、土、石、骨粉、の順番に強くなる。

その次が、中に小さな金貨が入っている土製の呪われし財宝の使者(カースドトレジャー)、此方も、土、石、骨粉、の順番に強くなる。

続いて、中に銀の延べ棒や装飾品が入っている強欲な財宝の使者(グリードトレジャー)、此方も、土、石、骨粉、の順番に強くなるが、その振り幅は小さい。

金の方も銀と同じで、金の延べ棒や装飾品が入っている。

見た感じで言うと、財宝の大きさで個体の強さが決まるのだろう。

欲望片と強欲片は、大型のゴーレムで、中にはちょっとした量の財宝が入っていた。

斃して回収した財宝は、かなりの不浄で汚染されている上に、異常な程に不浄、と言うよりも何者かの意思が纏わり付き、一つ一つを浄化するのに一々聖なる光(ホーリーレイ)を使う必要があった。

これらの親玉の形状も何と無く想像がつく。

きっと、地下墓地(カタコンベ)深部にあった大量の財宝の塊であろう。

財宝巨人が親玉だ。

……僕の為に財宝を集めてくれたと思おう。

100レベル以上の魔物は一度遭遇しただけな上、矢鱈と逃げ足が速いせいで全てに逃げられてしまった。

死神は真っ二つにした瞬間に闇に溶けて逃げ出し、財宝は小さい物が一瞬で土製の呪われし(カースド)や強欲な(グリード)に変わり、足止めされ、大きいお宝は脱兎の如く逃げ出した。

……まぁ、後で全部斃して回収するのだ、逃げたければ逃げれば良い。

今優先すべきは、吸血鬼達との合流、そして共同戦線である。

「ユキ様、お待ちしておりました」

塔の真下の広場には、メイド服に身を包み、武装した少女達が整列していた。

皆、早々見掛けない程の美少女揃いであり、実力も貴種(ノーブル)クラスの強者達である。

その全員が全員、僕を見て頰を朱に染め喉を鳴らすと言う恐怖。

まぁ、それは置いておいて、一番前にいるセバスチャンに声をかける。

その少し後ろには食いしん坊メイドさんが涎を垂らしており、その横に、金髪赤目の美人さんが立っている。

「ご苦労、早速戦況を聞こうか」

「はっ、現在我々のーー」

「……じゅるり」

「……じゅるーーいや、はしたないぞ、リアラ」

「…………お嬢様、お口元を失礼します」

「…………じゅるり」

……美人が台無しだよ。