Alchemist Yuki's Strategy

Lesson 6: To the Mansion of the Synthetic Beast

「それじゃあ、今日は此処まで、解散!」

頰に掛かる髪を払いながら、そう伝えると皆は西の森へ入って行った。

まぁ、物資の補給とかを考えると、王都の品質が悪くて高い薬よりも、元遺跡の品質が普通で高い薬の方が良いだろう。

武器のメンテナンスも、良し悪しが分からない王都の鍛冶屋より、能力が一定の元遺跡のワーカーゴーレムに任せた方が良い。

タク達は『鑑定』を持っているからそれが分かるが、他のプレイヤーは分からないので、今は皆王都を拠点にしている。

情報が知れ渡れば、元遺跡の街や鍛錬島に拠点を移すプレイヤーも多くなるだろう。

ともあれ、タク達の目的は物資の補給、それから、鍛錬島の攻略と言ったところか。

「……じゃあ行こうか」

「なの」

「うむ」

僕達は、先に王城の方へ行って雑事をこなしてから転移門に向かおう。

尚、人形とぬいぐるみはいつの間にか夢の星珠(ドリームスフィア)に戻っており、今は僕のスカートの中に浮いている。

ゴーレムや兵士さん達を労って、サイズ変更が可能になったウルルが引くリッド便(高級狼車風)で王城へ向かった。

城の大きな門を通り、そのまま王の執務室に向かう。

道中は兵士さんに案内されたのだが……外壁の兵士さんも城壁の兵士さんも警邏中の兵士さんも、皆状態が疲労であった。

見かける度に『疲労回復』の魔法を使っているが、やはり兵士の絶対数が少ないと言うのは大きな問題である。

これも何れどうにかせねばなるまい。

思考を巡らしつつ歩いていると、執務室に到着した。

コンコーーバタンッ!

リェニがノックをしてアルネアが開いた音である。

返事来てないよ。

「何奴っ!!」

「アルネアなの」

中にいた王様じゃないお爺さんが立ち上がり、それを庇う様に前に出たが、残念。アルネアである。

警戒するだけ損のアルネアである。

「イスタル、来たぞ……む、随分と老けたな」

「っ!? 妖精女王様……!?」

「はぁ……おおよそ40年振りですかな、リェニ殿」

「もうそんなに経つか……時間が経つのは早い物だな」

かくかくしかじか説明し、功績やら報酬やらの話を終わらせた。

王様と一緒にいたお爺さんは宰相の人らしく、丁度今、僕の功績、『大悪魔討滅』『クラーケン撃破』に付いて話し合っていた所だったらしい。

遺跡を貰うと言う話しは直ぐに片が付き、ついでに街の防衛にゴーレムを設置している旨の報告を事細かにしておいた。

結果、外壁を守る兵士さんを減らし、その分を街や畑の警邏に回す事になったのである。

そんなこんなで、王様との短い話は終わり、続いて王城地下、審判の間の様子を見に向かった。

審判の間に入るや否や、ルカナが僕に向かって踏ん反り返って見せた。

「ふ、ふふ、来たわね、ユキ」

「……」

「聞いて驚きなさい……高貴な私はついに、悪魔帝に進化したわっ!!」

「ふーん」

「ふふっ! さぁ讃え……え?」

「知ってる」

「え? ……な、なんで?」

ルカナの次にやって来たのは桃花。

「ハニーっ! 会いたかった」

「よしよーし」

「あ……えへへ」

飛び付いて来た桃花を撫でる。

嬉しそうにはにかむ桃花からは、甘い桃の香りが漂って来ている。

白雪は、進化して魔力が幾らか補充された様で、少し大きくなっていた。

如何してか遠慮していたので抱き寄せ、尻尾を振って近付いて来たレミナも含めて四人纏めて褒めて労った。

ザイエやビャクラ、爺様とシスターアルメリアに挨拶し、ルカナだけを連れ出してその場を後にした。

王都での最後の目的地は、合成獣がいた屋敷。

道すがらアルネア達には合成獣の話をしてあり、戦闘があるかも知れない旨を伝えておいた。

来るか来ないかの質問は愚問である、何故なら二人は当然の様に僕に付いて来ているからだ。

取り敢えず最初に獣亜人とレリアのいる場所に向かい、洗濯をしていた彼等に食料の補充をした。

服も数が少ないし、色々と調達する必要があるだろう。

洗濯をしていた理由は聞かなくても子供達が応えてくれた。

なんでも、今日はクレイドルが近くに来ているから風が吹き続けるので、洗濯物が早く乾くのだとか。

クレイドルについてはルカナが教えてくれた。

ルカナが指差したのは、遠い東の海の上、そこにある巨大な入道雲。

それを何故かクレイドルと言うらしい。

クレイドルと言えば揺り籠の事だが、彼女らはその語源を知らないらしい。

とても気にはなるが、ともあれ、特に傷病者もいない様で、皆楽しげにはしゃいでいる。

それを確認し終えると、早速、脅威となるやも知れない合成獣の屋敷に向かうのであった。

「何かありげな館なの、暗いの」

「ふむ、普通に古びた屋敷ではないのか?」

「結構古い建物ね、それに僅かだけど奇妙な気配を感じる……」

屋敷に着くと三人はそんな感想を零した。

どうやらアルネアは雰囲気を指して感想を言ったらしく、リェニは屋敷だけを指して感想を言った様である。

ルカナの言葉通り、より良く気配を探ると屋敷の地下に何かがある事が分かる。

屋敷の中を探ってみれば、何かしら手掛かりを掴む事が出来るだろう。