Alchemist Yuki's Strategy
Episode 21 Yuki Style, Evolutionary Theory of Life
西の迷宮に着いた。
早速二層の改造、と言うかゴブリンの研究を始めよう。
迷宮転移の指輪を使って迷宮核があるゴブリン部屋に移動する。
「……うわぁ」
そこにいたのはゴブリンの大群。
師団と言うだけあり、その総数は2万近い。
広間の其処彼処にゴブリン達が立っていた。
さて、研究に取り掛かろう。
◇
先ず最初に、近場のゴブリンに魔力を注ぎ込んでみる。
魔力保持容量の限界を超えて魔力を込めたらどうなるのかの実験だ。
保持容量の十倍程の魔力を一気に込める。
すると……。
ゴブリンが悲鳴を上げながら光り輝き、進化した。
肉鬼人 LV50 状態:狂乱 崩壊(小)
ーー肉の塊に。
人の形をした肉の塊。
ドロッとしている部分や半透明な部分、筋肉の様な繊維状になっている部分が露出して、何やら油っぽい液体が垂れている。
頭部には角の様に尖った骨が出ており、生臭い臭気が漂っている。
見た目はアレだが焼いたら美味しいかもしれない。
ともあれ、ゴブリンは魔力を込めると進化すると言う事が分かった。
そもそも、全ての生物は敵を倒して魔力と何か(・・)を吸い取るとレベルが上がり、進化する。
要するに、命ある物を倒さなくともその分のエネルギーを供給してやれば進化出来ると言う事だ。
何か(・・)が何なのかは分からないが、魔力を過剰に補給してやれば一応進化するらしい。
液体を撒き散らして暴れ始めたので念力で取り押さえた。
進化と言うと、レベルアップで出来るイメージがあるが、思えば吸血鬼に血を吸われて吸血鬼化するのも一種の進化と言えるだろう。
それに、キュリナとジーナの2人も吸血鬼と僕の魔力の影響を受けて進化した。
アイは毒を摂取して毒のスライムに進化した。
進化の条件と言うのは案外容易くクリア出来る物なのだろう。
先ず進化の条件の一つと考えられるのは、大きなエネルギーを保有する事。
方法は何でも良い。
レベルアップでも良いし、地脈から魔力を吸収するのでも良い、はたまた強力な魔力を保有する道具をその身に取り込むのもありだろう。
と言うか、エネルギーを取得するのは絶対条件と言えるだろうね。
続いて、経験。
例えば、ゴブリンやスケルトンなんかの魔物は、剣を学んでいれば剣士型に進化出来る様になる。
或いは、狼や鹿、蛇などの魔物は、森に住んでいればフォレスト系に進化出来るし、湖に住んでいればスワンプ系に進化出来る。
はたまた、所謂(いわゆる)属性別の進化と言うのは、強い属性魔力を浴びた事があれば進化する様である。
つまり、良く鍛えて剣術を学んだゴブリンに魔力を供給してやれば、ゴブリンソードマンに進化する可能性がある。と推測出来る。
とりあえず、肉鬼人は抑えたまま、次のゴブリンに取り掛かる。
次は、一気に供給するのではなく少しずつ内部に浸透させてみよう。
怯えるゴブリンを念力で抑えて魔力を供給する。
しばらく注いでいると、保持容量の3倍程でゴブリンが進化した。
ハイゴブリン LV20 状態:混乱
今度は上手く進化出来たらしい。
さっきのは、供給過多で進化を制御出来なかったのだろう。
進化進化と言っているが、それに近い事を魔法で起こす事が出来るのを僕は知っている。
変化系のスキルや術は、極論魔法で進化している状態と言えるだろう。
或いは、身体能力強化系のスキルや術も、飛躍はしないもののちょっとした進化と言える。
属性を付与するのも一種の進化だ。
問題は、それが定着しているか否かでしかない。
つまり、進化と言うのは強化の定着ないし適応を表しているのだろう。
それはつまり……魂が大量のエネルギーを供給され、望む形に肉体を強化、変質させる。
例えば、生き残る為に肉体を環境に適応進化させる。
例えば、外敵と戦う為に肉体を強化させ進化する。
それらは仙術に通ずる物がある様に思う。
研ぎ澄まされた精神と膨大な魔力で望む現象を引き起こす。
そして仙術は魔法にも通じている。
魔術と言う工程を得る事で魔力で超常現象を起こすのだから。
要するに、己が望む形に肉体を変質させる魔法。
それが進化なのだろう。
おそらく進化とレベルアップには限界がある。
僕は死神と戦う際に、魔法の使い過ぎで精神力を消耗した。
レイーニャは強すぎる魔法を行使して反動を抑えられずに死亡した。
精神力の及ばない領域まで力を行使すると、先の肉鬼人の様に力が暴走し、おかしな進化を遂げてしまうのだ。
そのおかしな進化を止めるのが、魔力と一緒に入手出来る何かなのだろう。
それが無い場合は、ゆっくりと精神を鍛え、ゆっくりと上質な魔力を魂に供給する必要がある。
つまり、ここにいるゴブリン達はレベル50分まで魔力を供給され進化すると、精神力の処理が不足して暴走し、レベル20分くらいまでだとどうにか抑える事が出来る程度の素質があると言う事。
……進化の部分の処理を僕がやれば暴走させずに進化させる事が出来るかもしれない。
例えばそう、錬金術の生命創造(クリエイトライフ)。
或いは、錬金術の合成。
取り敢えず、肉鬼人を良くみて、その内部で暴走している魔力を合成で肉体に馴染ませて行く。
しっかり定着したら、クリエイトライフーー
オーガ LV50 状態:混乱
ーー上手く行った様だ。
クリエイトライフなどの魔法は、魂を創造、強化する魔法と考えて間違い無い。
やや暴走気味の魔力を再度馴染ませると、混乱も治って静かになった。
と言うか、これ……やってる事がゴーレム作りと同じである。
ゴーレムも、アイアンゴーレムの鉄に魔力を馴染ませて魔鋼、マジックメタルゴーレムにし、それを変形させてクリエイトライフを掛け、特殊なゴーレムに仕上げる。
合成獣の作成、魔物の進化、ゴーレムの作成。
それぞれ難易度が違うだけで、全ては等しく生命の創造。
今の僕ならレベル150程度の生物を自在に誕生させる事が出来るだろう。
まぁ、錬金術の解析がまったく出来ていないので、所詮は借り物の力でしか無いが。
特に即席生命(インスタントライフ)、偽装生命(フェイクライフ)、生命創造(クリエイトライフ)の魔法による魂の強化、創造は必須スキルだ。
魂の無い者は生命と言えず、あっても弱い者は進化出来ない。
合成獣研究施設に失敗作や半端者しかいなかったのは、求めるスペックに対して作られた魂が弱すぎるのが主な原因なのだろう。
ルェルァを使った精霊化の実験が上手く行っていたのは、ルェルァが精霊化と言う小細工を許容出来るだけの魂魄限界値と精神力を保持していたからだ。
纏めると、
魂、魂魄を肥大化させる物が魔力。
精神力、処理能力を増加させる物が、己の精神と倒した命から吸い取れる何か。
それら2つが十分にあれば、肉体はより高次の物へ進化する。
今僕がやっている事は、根本的には以前にスライムの生成でやった事と同じであり、違うのはその難易度のみ。
研究成果は、爺様に貰った無限にページが増える本に書き、画像を撮って保存しておく。
さて……ゴブリン達には練習がてら犠牲になって貰おう。