Alchemist Yuki's Strategy

Episode 20: Blood Struggle Engraving

次に注目するのは、メィミー。

「えい! えぇいっ!」

彼女が相対するのは、一匹のゴブリンナイト。

……いや、相対すると言うのは語弊があるか。

何せゴブリン、地面に転がってるし。

「ふんっ、ふんぬぅ!」

メィミーは今、ピクリとも動かず地面に転がっているゴブリンに、ひたすらナイフを振り下ろしている。

別に死体を傷付けている訳では無い。

ゴブリンナイトは生きており、尚且つ意識もちゃんとある……体が動かないだけで。

ゴブリンナイト LV20 状態:麻痺(大)

これがメィミーの魔眼の力だ。

対象を麻痺させる能力である。

1度に使う魔力の量は、そう多くは無い様だ。

もしかすると対象との力量差が影響しているのかもしれない。

メィミーの魔眼は発動すると、右の赤い目に不可思議な紋様が浮かび上がる。

そしてちょっと光る。

その紋様は、見た所精霊刻印(スティグマ)の一種だ。

しかし、僕の使う魔眼系スキルは眼球に精霊刻印(スティグマ)が浮かぶ訳では無く、ただ光るだけだ。

かと言って、眼球に精霊刻印(スティグマ)を刻んだ訳でもなさそうである。

おそらく、必要に応じて精霊刻印(スティグマ)を出したり消したりしているのだろう。

つまり、通常の魔法詠唱と同じである。

……でも、失礼ながらメィミーがそんな器用な事を出来るとは思えない。

何か面白いカラクリがある筈だ。

「ふむふむ……」

発動状態を良く観察すると、やはり面白いカラクリがあった。

どうやらメィミー、魔導核(マギステルコア)の様な物を持っているらしい。

マントの裏地に縫い付けられた隠しポケットに、それが入っている。

……どうやらメィミー、気付いて無い?

何故魔眼が使える様になったか知らない様だ。

血闘刻印核(スティグマータコア)・竜の目 品質A レア度6 耐久力A

備考:血闘刻印(スティグマータ)を発生させる核(コア)。霊獣級(サークレッド)。

鑑定して見た所、魔導鎧(マギステル・アーマー)の亜種の様な物だと言う事が判明した。

魔導鎧(マギステル・アーマー)と違う点は核(コア)の重要度か。

魔導鎧(マギステル・アーマー)は核(コア)に様々な機能が盛り込まれているが、最悪核(コア)が無くても鎧を動かす事は出来る。

しかし、血闘刻印(スティグマータ)とやらは、全機能を核(コア)に依存している様だ。

利点は、触媒が不要な点だろう。

魔導鎧(マギステル・アーマー)で強力な魔法を発動するには、強力な魔力の発動に耐えられる素材に魔法機構を刻む必要がある。

強力な素材は入手も困難だが、それに魔法機構を刻むのもまた困難。

魔導論者(マギステル・ロジカリスト)のスキルでは、魔導核(マギステルコア)に魔法機構を刻む事が出来ても、魔導外装(マギパーツ)を作る事は出来ないのだ。

ただ、どちらが優れているかと言うと、それは何方とも言えない。

同格の魔導核(マギステルコア)と血闘刻印核(スティグマータコア)ならば、外装(パーツ)に魔法機構を刻める分魔導核(マギステルコア)の方が有利だ。

これは、1度作ってみる必要があるだろう。

纏めると、

・血闘刻印核(スティグマータコア)は、魔力を大量に使用して複雑な精霊刻印(スティグマ)、血闘刻印(スティグマータ)を描く事が出来る。

・血闘刻印核(スティグマータコア)は、魔導核(マギステルコア)とは違い、核(コア)に全ての情報が入っている。

・血闘刻印核(スティグマータコア)は、魔力がある限り幾らでも強力な魔法を使う事が出来る。魔法使用の上限は核(コア)の強度による。

これらの事を纏め、血闘刻印(スティグマータ)と魔導鎧(マギステルアーマー)の違いは、

・血闘刻印(スティグマータ)は外装がいらない。

・血闘刻印(スティグマータ)は瞬間的な出力が高い。

・血闘刻印(スティグマータ)は魔力の消費量がバカみたいに多い。

・血闘刻印(スティグマータ)はその性質上、精霊を消費(・・・・・)して稼働する。

最後の一つは、既存の血闘刻印核(スティグマータコア)を解析してみないと何とも言えない。

しかし、その構想は正に、大気に漂う精霊を消費(ころ)して膨大なエネルギー得る物だろう。

魔力の消費量が膨大なのも、設計思想がそれであるからだと考えられる。

故に、宝珠(オーブ)クラスの核(コア)が無くとも、同程度の出力を出す事は出来るだろう。

……まぁ、そんな事をすれば大いに環境を破壊する事になり兼ねないが。

上手い事調整すれば、精霊を消費せずに膨大な魔力を得る事が出来るだろう。

今後の事を考えると、なるべく早めに研究、作成した方が良い。

尚、メィミーの使っている血闘刻印(スティグマータ)は、周辺の精霊を消費せず、搾取するだけに留まっている。

理由は単純に、メィミーが血闘刻印核(スティグマータコア)を完全に扱えていないからだ。

何故メィミーが少しでもその力を使えるのかと言うと、それはマントのおかげである。

マントの裏地には精霊刻印(スティグマ)では無い魔法機構が描かれており、血闘刻印核(スティグマータコア)の力をほんの少しだけ引き出す事が出来る様になっている。

ともあれ、血闘刻印(スティグマータ)の研究は戦い(これ)が終わってからだ。

次は誰を見ようかな?