Alchemist Yuki's Strategy

Episode 31: Before the War

決戦場への移動は直ぐに済んだ。

鍛錬島は既に多くのプレイヤーが来ているが、その殆どは基本の四属性迷宮を攻略中か、昼食を取っている様だ。

人通りの無い道を見下ろしながら空を移動し、火山の迷宮に入った。

無数の火属性精霊達が活性化している火山の迷宮は、溢れ出す溶岩から陽炎が立ち昇り、所々歪んで見える。

普通に攻略するのなら、そうと分かり辛い様に用意されたいくつかの道を通り、行き止まったり合流したりを繰り返して進んで行くのだろう。

道中は何度か中ボスの様な魔物が道を塞いでおり、それらを全て迂回して進むと普通に攻略するのの3倍程時間が掛かるだろう。

軽く鉱脈や魔物の生息域、用意された安全地帯の位置を上から調べ、直ぐに火口へと飛び込んだ。

決戦場は火山エリアを真っ平らにした様な広大な溶岩地帯だ。

異界の壁を隔てた遥か遠くには、火山エリアの火山よりも更に巨大な山が存在し、絶え間無く噴煙をあげている。

そこから噴き出した溶岩は決戦場に流れ込み、流動する赤と足場となる黒のコントラストが陽炎と合わさり、禍々しさを演出している。

そんな決戦場の中央には、赤黒い大火山を背景に赤く巨大な天使が仁王立ちしていた。

取り敢えず観戦用の設備を整え、皆を召喚する。

やる事は単純。

リッドの上に半球の結界によって守られた円盤を置いただけだ。

これで高さを稼げるし移動もできる。

この他に、円盤に入れない子を溶岩の暑さから守る為、軽く周辺一帯を凍りつかせた。

入れない子とは具体的にはクリカやモルド、蜘蛛さんの事だ。特に蜘蛛さんは火属性に弱いので、氷柱を何百本も生やして氷属性精霊を増やしておく。

これで決戦の準備は完了。

最後に今ここにいる戦力を把握しておく。

先ずいないのは、リェニとルェルァ含む妖精達。

インヴェルノを守っている群体スライム君。

ミュリアとルーベルを除く犬型や狼型の子達。

レイーニャ以外の猫ちゃん達。

トップ三人を除く吸血鬼メイド達。

五大賢者3人、七聖賢1人、シスターとティア。

水精三姉妹。

姉妹(シスターズ)とその護衛の小動物。

アルナン。

戦う子達は、100体のアーミーゴーレム。

50体のワーカーゴーレム。

30体のソルジャーゴーレム。

紅騎士と白騎士。

三巨像さん。

冬将軍。

イェガ。

総勢187体の機兵団だ。

そして観戦するのが、その他の子達全員。

特に強い戦力を列挙するとしたら、先ずは僕。

続いて白羅と桃花の侍2人。

次にレーベとリオンの獅子親子。

吸血鬼のトップ3人とレミア。

アルネア。

レイーニャ。

ルカナ。

転生組のミルちゃんとミュリア。

アンデット組。

白雪と氷白の姉妹?

人型のメロット、レイエル、ラース、ザッハーク君、ニュイゼ、ルーベル。

パフィ子軍団。

古参のリッド、クリカ、モルド、蜘蛛さん、サンディア。

などなど、合計212名。

トップをレベル順に並べると、LV743、LV713、LV697、となっている。

彼等を当てれば間違い無く機神に勝てるだろうが、それだと弱い子が弱いままなので、あくまでも観戦……と、場合によってはちょっとだけ補助をするだけだ。

念の為の補助役は、メロット、レイーニャ、レイエル、ザッハーク君など、遠距離攻撃が出来る者達。

最上位のメンバーは、万が一機兵団が壊滅した時にアトランティスを撃滅するのが仕事だ。

という訳で、機兵達を送り出すとしよう。

◆◇◆

「頑張ってねー」

熱波が押し寄せる灼熱地獄の中、ユキはのんびりとした声で手を振り、ゴーレムの集団を送り出した。

ゴーレム達が向かう先にあるのは、膨大な火の力を秘めた巨人像。

一目見て分かった。

帝王級に進化した悪魔である私でも、決して勝てない化け物なのだと。

「……さて」

ユキが小さな呟きを零した瞬間、ユキを中心にふわりと風が吹いた。

正確には風が吹いたのでは無く、周辺にいた小さな火の精霊達がユキによって押しやられた……らしい。

……何がしかの存在を感知する事自体は出来るが、それを完璧に操るなんて、この私ですらどうやっているのか皆目見当もつかない。

私は改めて、燃え盛る業火を背に立つ巨大な天使像を見上げた。

ユキ曰く、あれは機械の神、機神であると言う。

私が機神を見たのはこれで2回目だけど、どちらも神の名が相応しい程に膨大な魔力を持っているのがわかった。

神滅機神・アトランティス。

それがあの機神の名前。

正真正銘の絶対強者。

神を滅する機械の神。

だがしかし、それに刃向かう者達もまた、それと同じくらいの化け物達だった。

先ず第一に、イェガとやら。

ユキが何か恐ろしい事をやっていたのは認識していたが、実際に何をやっているのかは分からない。

ただ一つだけ分かる事は、その膨大に過ぎる魔力量。

何がどうなっているのか分からないのだけれど、少なく見積もっても機神に匹敵する程の魔力を持っている。

残念ながらゴーレムは私もまだ未研究なので、一体全体何をしたらああなるのか全く分からない。

赤や白の騎士型ゴーレムにしたっておかしい。

ユキの話を信じるなら、赤い騎士には宝珠(オーブ)が埋め込まれている。

ーー宝珠(オーブ)とは。

私の知識が正しければ、古き神々の力の欠片だった筈。

ただ野を駆けるだけの兎ですら、宝珠(オーブ)を得れば竜王と対等に戦えると言う。

悪魔が持てば魔界を統べる事が出来ると言われる至宝。

それが宝珠(オーブ)。

……それを赤い騎士型ゴーレムに埋め込んだ? ……もはや言葉も出ないわね。

白い騎士型ゴーレムは最上級天使だと言う事を表す6枚翼を持ってるし。

青白い氷の武士型ゴーレムは氷獄の宝珠(コキュートスオーブ)とか言う名前の宝珠(オーブ)を持ってるらしいし。

数百体のゴーレム達は殆どが伝説に唄われる様な竜の武具を持ってるし。

三体の騎士巨像に至っては、神話に語られる金属の一つである『神珍鐡』と同じ、伸縮する能力を備えている。

……こんな物を見せられると、一研究者としてゴーレムを研究したくなるわ……。

私の研究欲はともかくとして……この戦い、もし表で起きれば間違い無く伝説として語られる一戦になるでしょう。

たった一度切りの大戦。

折角ユキが場所を整えてくれたんだから、しっかりとそれを目に収めなくちゃね。

「録画結晶は……うん、良く撮れてる」

「?」