Alchemist Yuki's Strategy
Episode 34: Common Sense Man Lucana III
ユキの支配下には人型以外でも、強力な魔物は多い。
今此処にいる戦力だと、その筆頭は巨大スライム。
リッドと言う名前のこのスライムは……はっきり言って私よりも強い。
ユキが何かした巨大ゴーレムを除けば、総合魔力量では悪魔や精霊を差し置いてかなり高位に至っている。
そして、核が無いこのスライムを殺しきるには、全ての魔力を削り切る必要がある。
巨大スライムの魔力保持容量は巨体故に非常に多く、私の魔力量の3倍以上もの魔力量を誇っている。
つまり、仙気が使えない私では逆立ちしてもリッドには勝てないと言う事になる。
私は一応仙気の一段階下、闘気を生み出す事は出来るが……ユキ曰く『圧縮』と言う力を使う事で、巨大スライムは擬似的に仙気を再現出来る。
要約すると……私は魔法に弱い筈のスライムにどう足掻いても勝てないのよ……。
更に言うと、リッドはメタモルスライムと言う希少な種族であり、一度取り込んだ事がある物なら何でも再現出来ると言う特異な力を持っている。
勿論『危険そうな魔物トップ10』よ。
結界の外で特に目立つのは、キラキラと光る七色の精霊結晶を背負った精霊蟹。
ユキが何も手を加えていないユキの支配下の中では、魔力保持容量が一番多い。
精霊蟹と言うと、今はなきベルツ大陸の西方にあったと言う高温の湿地帯、灼海に住んでいたらしい。
このクリカと言う名前の精霊蟹は、上位種である精霊結晶蟹……の上位種だと思う。
背甲には高密度の精霊結晶を背負い、剣状の鋏と鎚状の鋏を振り回す、金属の殻に守られた巨獣。
魔力保持容量で見れば化け物だし、甲殻の硬さで見ても化け物だ、武器である両鋏には仙気を宿している。
危険度で言うと邪竜王にも匹敵する、正真正銘の化け物ね。
『危険そうな魔物トップ10』入りは当然。
今は平然と溶岩を飲んでいるんだけど……美味しいのかしら?
精霊蟹の隣には、同じく巨体を誇る白銀色のドレイクがいる。
このドレイクは……感覚から言うと『白竜皇』と同じ様な気配を感じる。
『危険そうな魔物トップ10』には入っていないけど、それでもかなり危険なのは間違いない。
特に目立つ三体目は、『奈落に潜む者』と同じ種族と思わしき巨大な黒い蜘蛛。
今はまだ、私の種族柄特に脅威は感じないけど……ユキの配下なんだから。直ぐに奈落に潜む者と同格になると思う。
……ただし、流石の私でもこれが巣を構えた所に入って行けば死は免れない。
ユキの支配下の中では、上手く運用すれば最も死に難い魔物だと思う。
続いて、戦力と言う点以外で私が気になっている魔物達。
先ずはグラビティディアー。又の名を『圧壊獣』。
文献によると、圧壊獣は皆一様に二又の角を持っている。
圧壊獣の操圧能力は、二又の角の内側に存在する『操圧角(グラビスホーン)』の数と質で決まり、多い程強い操圧能力を持つ。
神話(エピック)にもその存在は描かれていた。
内容を簡略化すると、とある山で生まれた『グラビティベアー』には操圧角(グラビスホーン)が4本もあり、最後は古竜(エルダードラゴン)と相打ちになって果てたらしい。
通常は1〜2本なので4本と言うのは破格の値、その角を使った杖は、名前を『崩圧杖・グラベツェールァ』と言い、そちらもそちらで神話(エピック)がある。
そして、ユキの配下のグラビティディアーはその操圧角(グラビスホーン)が5本もある。
きっと古竜(エルダードラゴン)よりも強いんでしょうね。
次は鬼獄熊。
彼の種族は『獄卒獣』と言い、獄卒獣とは獄界で亡者を浄化していると言う魔物の事だ。
獄界への門はベルツ大陸北方の何処かにあるらしいのだけど、詳しい事は分からない。
獄卒獣は非常に強力な闇属性魔力を扱う事が可能で、性質は悪魔に近い。
続いてアダマスーー
『ーーそろそろだよ』
「っ」
唐突にユキから思念が送られて来た。
いつもいつもそうだけど、魂の内側から響く様なユキの声は心に悪い。
思念と同時に何か魅了系の力が流れ込んで来ている様な気がする。
実際にはユキの魔力の断片が流れ込んで来ているだけなのよね……。
「?」
どうしてかポカポカとする体を軽くさすった後、改めてゴーレム達へ視線を向けると、ゴーレム達はまだ機神から大分離れた場所にいた。
まだじゃなーー
「……っと」
「っ!?」
ユキが何かを呟いた瞬間、機神が赤い光を放った。
……いよいよ戦いが始まるのね。