Alchemist Yuki's Strategy

Chapter 20: Ghost

うむ、無理。

元々僕は目が良いので、かなり遠くに見えるゴブリン軍の全戦力を把握する事が出来た。

それによると、

・ゴブリンおよそ10,000

・上位種ゴブリンおよそ5,000

・ハイゴブリンおよそ3,000

・上位種ハイゴブリンおよそ1,000

・ホブゴブリンおよそ1,000

・上位種ホブゴブリンおよそ100

・ゴブリンジェネラル10

・ゴブリンキング3

そしてーー

妖鬼 LV?

霊鬼 LV?

ーー鬼。

妖鬼はオーガに似た姿をしているが、その実腕力ではオーガを容易く越え、知能も人並みに高い。

霊鬼は人とほぼ変わらない姿をしており、最上級の魔法を使う。

どうやらその2体が迷宮か遊技神のどちらかに操られ、怒りの形相で此方を見ているのである。

おそらくはこれがゴブリン軍の全戦力だろう。

精々キング1体くらいと考えていたが、大いなる誤算であった。

レベルに換算してみると、

ゴブリンは1〜8。一番多いのは1〜4。

上位種ゴブリンは6〜17。一番多いのは8〜10。

ハイゴブリンは1〜16。一番多いのは1〜6。

上位種ハイゴブリンは15〜23。一番多いのは16。

ホブゴブリンは1〜25。一番多いのは1〜10。

上位種ホブゴブリンは21〜32。一番多いのは24。

ゴブリンジェネラルはおおよそ30〜50以内。

ゴブリンキングは60〜70程。

鬼に至っては80〜90である。

これ程までに数が増えた理由は、彼等に飢えが無いからだろう。

迷宮の強制力は低いものの、迷宮から供給されるエネルギーは顕在なのだ。

更に付け足すと、極低頻度でキングやジェネラルが生み出される仕様な上、その統率種ゴブリンがスキル『小悪鬼使役』を使って8層から戦力を集めていた可能性が高い。

質が高い理由は、元々高レベルでゴブリンが生み出される他、岩山の中で別の魔物が生み出されたのを狩ったり、或いはゴブリン同士で殺し合いをしていた可能性がある。

ともあれ、この大戦力を前にしては多少の防衛施設など無意味。

ディヴァロアも驚いているので、完全なる想定外である。

何か手を打たないと、防衛戦では(・・・・・)最悪住居核(ホームコア)やら何やらを全てインベントリに回収し、家を放棄して何処か遠い所へ逃げなければ行けなくなるだろう。

《レベルが上がりました》

と言う訳で、急遽無差別爆撃を行った。

やり方は簡単だ。

一日掛けて集めた魔力の2割弱を使い、ディヴァロアと協力して森の木々を伐採。

ディヴァロアにはそのまま彼の仲間を集めに行って貰い、僕は空を飛んでゴブリン軍の上空に行く。

念力の手を空いっぱいに広げ、木々をインベントリから取り出す。

以上。

ゴブリン軍はキングを筆頭に3つの大部隊に分かれており、その先頭には肉壁となる最も弱い連中がいた。

そこを狙って木々を放った為、全体のおよそ3割を削る事に成功したのである。

「むむ」

木々やドロップアイテムを回収しようとすると、霊鬼が此方へ杖を向けた事に気付いた。

次の瞬間、霊鬼の魔法は放たれた。

ーー閃光。

ーー轟音。

空へ飛来した小さな赤い塊は、アークエクスプロージョンの魔法。

咄嗟に展開したのは、同じく最上級相当の魔法を2つ(・・)。

濃霧を発生させる魔法と、大量の水を発生させる魔法である。

結果、アークエクスプロージョンは何ら僕に影響を及ぼす事も無く収束した。

……流石にこれを簡易拠点に打ち込まれると、ドールやゴーレムでは蒸発してしまいかねない。

「むむむ?」

どうしたものか。と熱湯となった水をゴブリン達に降り注がせつつ霊鬼を見るとーー

ーー霊鬼は死んでいた。

いや、死んではいない。ただ杖やローブからプスプスと煙が上がり、力尽きて地に伏しているだけ。

どうやら、レベル90程度が最上級魔法を無詠唱で放つのは無理があったらしい。

通りで爆心地が僕から大分離れていた訳である。

圧倒的脅威の一つと数えていた霊鬼は、自らが放った魔法の反動を抑えきれず、自爆で力尽きたのだった。

……まぁ、僕に最上級の魔法を2つも使わせて、魔力を3割強、僕の保有限界量まで消費し尽くさせたのだから、十分凄いけどね。

集めた魔力の残量は、残り2割強。

削った敵の数はーー

《レベルが上がりました》

ーー3割強。

このままアークエクスプロージョンをお返ししても良いが、削れる数は2割と少しくらいだろう。

残り半分のゴブリン軍と魔力1割で戦うのは、かなり厳しいと言わざるを得ない。此処は撤退するべきだ。

僕は僅かに残された濃霧に潜り込むと、飛来してきた無数の矢と弱い魔法、木(・)を回避して、アイテムを回収してから撤退するのだった。

……妖鬼の筋力凄いな。