Alchemist Yuki's Strategy

Episode 24 – Theoretically –

続いてボグゴーレム。

彼等は、求められる物が防御力では無い以上弄るのは少し難しいので、ゴブリンジェネラルの骨を使って作った骨板を泥の底に設置した。

ジェネラルの骨は素材としてはそこそこ質が高く、刻める魔法もより強力なので、これをボグゴーレムに装備(・・)させてみたのだ。

刻んだ魔法は下級の中でも上位に分類される『マジックランス』。

正面から使った場合はジェネラルどころかホブゴブリンの上位種でも防げるかもしれないが、足元からならジェネラルでさえ大ダメージは必至である。

魔力源はボグゴーレムからなので連射は出来ないが、ジェネラル級をボグゴーレムが始末できるかもしれないと言うのは大きい。

窒息や足止め以外に攻撃手段を得たと言うのがポイントだ。

次、アームゴーレムは、全て撤去して合体させた。

設置したアームゴーレム全20基のコアを使用して作ったのは、一つの巨人。

質の高いホブゴブリンの骨や革と迷宮の木材で作られた鎧を着込み、木材を芯に余った金属を刃として取り付け、希少なキングの骨を成形して作った針をその峰に取り付けた大剣を装備した巨人。

その実力は、ディヴァロアとの力比べで勝てる程。

ディヴァロアの全力突進を受ければ大破するのは免れないが、それはつまりディヴァロアが全力を出さなければいけない程の力量であるとも言える。

彼等には一応搭乗可能であり、そこに設置してある魔水晶を通じてタイムラグ無しの命令を送る事が出来る。

まぁ、僕なら乗らなくても命令を送る事が出来るのであまり意味は無い。

その上、命令を受諾するかどうかは彼等の頭が判断する事なので、普段は自由に活動して貰うつもりだ。

これでゴーレム達の強化はおしまい。

次はティオロアの確認。

ティオロアは、力の要たる角の構造がグラビティディアーのそれと全く同じになっている。

違うのは、二又の角の中にある小さな角の数だ。

僕の配下であるグラビティディアーが5本なのに対し、ティオロアは3本。

魔法発動時の魔力の流れを見ると、理論上小さな角の数だけ引力を高める事が出来る様である。

試しに1本分の力で重力を発生させてみてと頼んだが、そんな器用な事は出来ないと言われてしまった。

仕方がないので段階的に力を強くする様頼み、その力を僕に掛けて貰い、計測してみた。

結果、角1本につき2倍程の重力を発生させる事が出来ると分かった。

角が増える毎に二乗三乗されていき、3本ではおおよそ8倍の重力を発生させる事が出来る。

更に言うと、この力場を発生させる能力は片角と本体の力で発生させる事が可能な能力であり、もう片方の角が余る。

角だけの力で生成させる事が出来る魔法は2種類。

当たった対象に元から存在する重力に作用して反重力を発生させる白い球か、当たった対象に最大8倍の重力を掛ける黒い球のどちらか。

また、黒い球や白い球の重力変化量は、魔法を放った本体が感じている重力が関係している様だ。

つまり、黒い球を当ててから超重力を発生させると8倍+8倍で16倍の重力が。超重力を発生させてから黒い球を当てると8倍×8倍で64倍の重力が発生する計算になる。

しかし、黒い球や白い球はスピードが遅めなので、超重力下で戦闘不能にならない輩なら回避は可能だろう。

薄々感じてはいたが、ここに来てしっかりと判明した。

どうやら僕の配下の中では理論上グラビティディアー君が最強と言う事になる。

何せ彼には小さな角が5本あり、理論上では最大″1,024倍″の重力を発生させる事が出来るのだから。

まぁ当然黒い球や白い球……仮称重力球や反重力球には効果範囲があるはずだ。

巨大な魔物に当てても一部分にしか作用しないだろうし、アイやリッドならグラビティディアー君の魔力切れまで粘れるかもしれない。

更に言うと、強い力を動かすには相応の消耗がある。

理論上片角で32倍の重力を発生させる事が出来ると言っても、それを実際に発動させるとしたら、或いは制御しきれずに反動が来て……火山の迷宮の隠しボスみたいにクシャッとなり兼ねない。

実験するにしてもしっかりと準備してからにしよう。

これで取り敢えずの確認は終了。

後は鬼達が目覚めるまで色々と時間を潰して待つとしよう。

「ーーさて、白鬼君、現状は分かって貰えたかな?」

「は、はひ」

起きた鬼2人と、テイムを通した念話による面接を行った。

周囲を強力な敵に囲まれた白鬼は、青白い表情でコクコクと頷き、赤鬼は白鬼に合わせてコクコクと首を動かした。

「それじゃあ改めて、僕の配下になるか死ぬか選ーー」

「ーーなりますともっ! ほらっ、赤もっ!」

「おう? なる? ん? 何ーー」

「この通りさ!」

大慌てで白鬼が頭を下げ、赤鬼の頭を下げさせようとした様だが、肉体性能の差で下げさせる事が出来ていない。

「(ほらっ、赤も頭を下げるんだよ!)」

「ぁん? なんで、下げるんだ?」

「(ばあかっ! 声が大きいっ! なんでも良いから下げるよ!)」

「んん? 仲間に、なるん、だろ? 仲間は、対等だって、白がーー」

「こそこそ(ーー仲間じゃない! 隙を…いて逃……よ。不壊の…壁…空……穴…ら真の大地…行…んだ! 今の赤……通…る筈…だよ!)」

「でもーー」

「ーーしっ! ……あはは、ちょっとこいつに言い聞かせるから少し待っててくださいね」

引き攣った顔で此方を見た白鬼は、赤鬼の顔を引っ張りこそこそと会話をし始めた。

所々聞こえ辛いのは、白鬼が念話を隠そうとする意思が関与しているからだろう。

隠し事をしていると言うのは配下として今一信用に欠けるが、何となく何をしようとしているかは伝わって来るので、面白いから放置する事にした。

「(でも)」

「こそこそ(…は見た目…変…っ……頭は何も………てないみた……少し安心。じゃなくて!)」

「(……)」

「こそこそ(私が言……事で間違……事があったか?)」

「(……出口ーー)」

「こそこそ(ーー何の事…ね? そんな過去…事は知らない。私の言う事はタダシイコト。イイネ?)」

「(……う、うん)」

「こそこそ(全く、おま……バカなん……ら、私…言葉…従……いれ………んだよ)」

「(ごめん)」

「こそこそ(分…れば良……だ。話……すけど、折角……くなった………ら、…れ以上こ……狭い場所に……必要……い。あん…危……幼女……かと一緒…居……命が…つあっ……足……い。隙を……て…げる……よ)」

「(でも、仲間……)」

「(あーもうっ! 仲間で良いから今は兎に角頭を下げるよ!)」

「(うん……!)」

かくして、怪しい白鬼と頭の弱い赤鬼が僕の配下に加わる事になった。

今は時間的にも資材的にも余裕が無いので、白鬼の説得は迷宮の支配が終わってからにしよう。