Alchemist Yuki's Strategy

Episode 44: Grasp the Power of the Enemy

6日目。

単独での威力偵察である。

念の為皆がいる南側からでは無く、北側から攻め入って、少しだけ確認したら撤退する。

ヒドラ・亜種 LV?

遠目からもチラチラと見えていたが、実際に対峙するとその巨大さが良く分かる。

体の太さはディヴァロアと同じくらい。

そんな巨大な蛇頭が7つ(・・)ある。

漆黒の鱗は大精霊金属にも劣らない強度があり、吐く毒液は容易く大地を溶解させていた。

「ふむ……」

事前にディヴァロアから聞いていた情報によると、ヒドラの頭は3つ。

その後にティオロアから聞いた情報だと、5つ。

しかし、実際にある首の数は7つ。

これはつまり、短い期間で進化したと言う事に他ならない。

更に、ヒドラの大きな気配の中に悍ましい気配、負属性を感知した。

ヒドラと言う強大な存在に対して量は少ない様だが、邪悪な力は確かにその体を蝕んでいる様だった。

成る程確かに、負属性は間違い無く災厄の芽と言えるだろう。

早めに討たねば大陸の危機となる事は間違い無い。

ヒドラの首は7つの内6つがそれぞれ別々の方向に向けられ、1つが山頂にある門の中に首を突っ込み、何かをしている様だった。

ざっと考察してみる。

先ず第一に、魔力量。

遠距離からの魔法攻撃は確実にヒドラの肉体にダメージを与えられていた。

下級や中級の魔法では外皮に傷を付けるのが精一杯だが、それでも間違い無くダメージは与え、ヒドラの魔力を削る事が出来た。

ーー問題はヒドラの圧倒的な魔力量だ。

おそらく、山頂の門の中にいるヒドラは、迷宮核(メイズコア)から魔力を吸収しているのだろう。

即ち、ヒドラの魔力はほぼ無限と言って差し支え無い。

第二に、ヒドラの再生力の高さ。

此方は、意図して再生させない限り問題にならない程度でしか無い。

ーー問題はヒドラの演算力だ。

無尽蔵の魔力と魔力吸収係以外の6つの頭による演算で、何処か一方の首を切断しても直ぐに再生が始まってしまう。

単体でレベル300にも匹敵する首を6方向から同時に破壊する必要があるのだ。

第三に、増援の存在。

これは、おそらくこのヒドラが亜種たる所以であろう。

ヒドラに対して斬撃系の魔法攻撃を行い、その硬い外皮を切り裂いて血を流させる事に成功した。

しかし、その血液は大地に落ちると、数匹の大蛇に変化したのだ。

ジャイアントソイルバイパー・亜種 LV50

ジャイアントウッドバイパー・亜種 LV52

ジャイアントブラットバイパー・亜種 LV58

更に連中を倒すと、撒き散らされた肉片が下級の蛇に変じ、最後には無数の小さな蛇が僕に向かって襲い掛かって来た。

最悪なのは経験値が全く入らない所だ。

倒す労力と割に合わないし、ヒドラが無尽蔵だから蛇も無尽蔵。

全くもって厄介な相手である。

ただし、倒す方法は分かりやすい。

六方向から同時に進軍し、6つの首全てを破壊する。

撒き散らされる増援も、血一滴骨一欠残さずその全てを殲滅するのだ。

6日目の午後。

戦闘に参加するメンバーとヒドラを相対させた。

その脅威を見せ、情報と戦法を説明する。

戦法と言っても、大した事をする訳では無い。

先ず第一に、僕の合図と共に四方で調整した制御核(コントロールコア)を起動する。

制御核(コントロールコア)は一時的に迷宮核(メイズコア)の魔力供給を阻害するので、その間に6つの首全てを切り落とす。

そして最後に、山頂の首を僕が破壊するのだ。

樹海エリアに向いている首に当たるのは、天殻樹(スカラフ)の分霊体と先鋭ドール36体。

森エリアに向いている首に当たるのは、オートマタとスライム付きドール100体。

草原エリアに向いている首に当たるのは、2鬼とゴーレム30体に調節した巨人、壁、沼の巨大ゴーレム3体。

洞窟エリアに向いている首に当たるのは、プチジェムゴーレム6体とクレヴィドラグ50体。

沼地エリアに向いている首に当たるのは、ディヴァロア&ティオロアとクレヴィドラグ70体。

そして北側に向いている首に当たるのが、僕と妖狐火。

これでヒドラを確実に倒せる筈だ。

決戦はこれ以上ヒドラが強くならない様、予定通り明日行う。

合図は僕が山全体を覆う程に巨大な浄化結界を発動させた時。

6日目の夜は、飛び切り美味しいご飯を前に、皆口数も食事量も少なく更けていった。