Alchemist Yuki's Strategy
Episode 44: Grasp the Power of the Enemy
6日目。
単独での威力偵察である。
念の為皆がいる南側からでは無く、北側から攻め入って、少しだけ確認したら撤退する。
◇
ヒドラ・亜種 LV?
遠目からもチラチラと見えていたが、実際に対峙するとその巨大さが良く分かる。
体の太さはディヴァロアと同じくらい。
そんな巨大な蛇頭が7つ(・・)ある。
漆黒の鱗は大精霊金属にも劣らない強度があり、吐く毒液は容易く大地を溶解させていた。
「ふむ……」
事前にディヴァロアから聞いていた情報によると、ヒドラの頭は3つ。
その後にティオロアから聞いた情報だと、5つ。
しかし、実際にある首の数は7つ。
これはつまり、短い期間で進化したと言う事に他ならない。
更に、ヒドラの大きな気配の中に悍ましい気配、負属性を感知した。
ヒドラと言う強大な存在に対して量は少ない様だが、邪悪な力は確かにその体を蝕んでいる様だった。
成る程確かに、負属性は間違い無く災厄の芽と言えるだろう。
早めに討たねば大陸の危機となる事は間違い無い。
ヒドラの首は7つの内6つがそれぞれ別々の方向に向けられ、1つが山頂にある門の中に首を突っ込み、何かをしている様だった。
ざっと考察してみる。
先ず第一に、魔力量。
遠距離からの魔法攻撃は確実にヒドラの肉体にダメージを与えられていた。
下級や中級の魔法では外皮に傷を付けるのが精一杯だが、それでも間違い無くダメージは与え、ヒドラの魔力を削る事が出来た。
ーー問題はヒドラの圧倒的な魔力量だ。
おそらく、山頂の門の中にいるヒドラは、迷宮核(メイズコア)から魔力を吸収しているのだろう。
即ち、ヒドラの魔力はほぼ無限と言って差し支え無い。
第二に、ヒドラの再生力の高さ。
此方は、意図して再生させない限り問題にならない程度でしか無い。
ーー問題はヒドラの演算力だ。
無尽蔵の魔力と魔力吸収係以外の6つの頭による演算で、何処か一方の首を切断しても直ぐに再生が始まってしまう。
単体でレベル300にも匹敵する首を6方向から同時に破壊する必要があるのだ。
第三に、増援の存在。
これは、おそらくこのヒドラが亜種たる所以であろう。
ヒドラに対して斬撃系の魔法攻撃を行い、その硬い外皮を切り裂いて血を流させる事に成功した。
しかし、その血液は大地に落ちると、数匹の大蛇に変化したのだ。
ジャイアントソイルバイパー・亜種 LV50
ジャイアントウッドバイパー・亜種 LV52
ジャイアントブラットバイパー・亜種 LV58
更に連中を倒すと、撒き散らされた肉片が下級の蛇に変じ、最後には無数の小さな蛇が僕に向かって襲い掛かって来た。
最悪なのは経験値が全く入らない所だ。
倒す労力と割に合わないし、ヒドラが無尽蔵だから蛇も無尽蔵。
全くもって厄介な相手である。
ただし、倒す方法は分かりやすい。
六方向から同時に進軍し、6つの首全てを破壊する。
撒き散らされる増援も、血一滴骨一欠残さずその全てを殲滅するのだ。
◇
6日目の午後。
戦闘に参加するメンバーとヒドラを相対させた。
その脅威を見せ、情報と戦法を説明する。
戦法と言っても、大した事をする訳では無い。
先ず第一に、僕の合図と共に四方で調整した制御核(コントロールコア)を起動する。
制御核(コントロールコア)は一時的に迷宮核(メイズコア)の魔力供給を阻害するので、その間に6つの首全てを切り落とす。
そして最後に、山頂の首を僕が破壊するのだ。
樹海エリアに向いている首に当たるのは、天殻樹(スカラフ)の分霊体と先鋭ドール36体。
森エリアに向いている首に当たるのは、オートマタとスライム付きドール100体。
草原エリアに向いている首に当たるのは、2鬼とゴーレム30体に調節した巨人、壁、沼の巨大ゴーレム3体。
洞窟エリアに向いている首に当たるのは、プチジェムゴーレム6体とクレヴィドラグ50体。
沼地エリアに向いている首に当たるのは、ディヴァロア&ティオロアとクレヴィドラグ70体。
そして北側に向いている首に当たるのが、僕と妖狐火。
これでヒドラを確実に倒せる筈だ。
決戦はこれ以上ヒドラが強くならない様、予定通り明日行う。
合図は僕が山全体を覆う程に巨大な浄化結界を発動させた時。
6日目の夜は、飛び切り美味しいご飯を前に、皆口数も食事量も少なく更けていった。