Alchemist Yuki's Strategy

Lesson 81 vs. Black Dragon

都合4度の高威力魔法を放ち、黒竜の体を削り取った。

どうやら奴は見た目にこそ大した変化は無いが、攻撃する毎に体積が減っている様で、最初と比べると3割くらいは縮んだ様に見える。

一番小さな黒蜥蜴は、倒すと黒い靄になり、その黒い靄は宙に溶けて消える。

この事から、ひたすらに黒竜を削り取り、霧散させて行く事で邪神の断片を撃破出来るかもしれないと言う事が分かる。

しかし、化け物同士の戦いは、見れば見る程俺達では介入出来ないと分かってしまう。

ーー轟音が鳴り響く。

ぶつかり合う黒竜の爪と元悪魔の脈打つ剣。

衝突と同時に黒竜の体から靄が飛び散り、悪魔の剣がごっそりと抉れる。

黒い靄は蜥蜴へと姿を変じ、抉れた剣は悪魔が魔力を押し込む事で再生する。

辛うじて続いているその拮抗は、悪魔の敗北という形で決着しようとしていた。

「全員、対SB(ステージボス)基本Aで行く!」

悪魔があれを抑えている内に、少しでも多く取り巻きを撃破するしかない。

これは非情の決断だ。

ーー悪魔は見捨てる。

助ける手立てはあった。

マシロさんに貰った切り札の1つ。

ラッキーセブンにあやかってセブンと呼んでいる手札は、マシロさん曰く悪魔も癒せる治療薬。

だからと言って、悪魔を治療したが為に仲間の命を失う様な事はあってはならない。

傷だらけの悪魔を一瞥すると、魔法符(スクロール)を開いた。

『身体強化(フィジカルブースト)』

『聖属性付与(エンチャント・ホーリー)』

力が込み上げて来る。

だが、それでも黒竜と悪魔の戦いに介入出来る程ではない。

「行くぞ!」

『応!』

皆の応じる声を合図に、黒蜥蜴の群れとの戦いが始まった。

「はっ!」

ティアーネの斬鉄が巨大黒蜥蜴を両断する。

マシロさんのアイテムとティアーネの才能、武器の質、大剣のリーチがあっての両断だ。

俺やタダトじゃこうはいかない。

体を上下に分断された巨大黒蜥蜴は、大黒蜥蜴を 2体と黒蜥蜴の群れに分かれた。

其処へ炸裂玉が降り注ぐ。

黒蜥蜴の殆どが炸裂玉で殲滅され、後に残った大黒蜥蜴に俺とタダトが斬りかかる。

分かたれた黒蜥蜴を再度炸裂玉で殲滅した。

「次っ!」

戦いは順調に見えて、その実は薄氷の上でワルツを踊っているに等しい。

ーー奴は遊んでいる。

異形の悪魔は強い。

前に相対した竜よりも強い。

しかし、黒竜は更にその上を行く。

現状は此方へと襲い掛かって来ている黒蜥蜴を狩るので精一杯。

その殆どは悪魔を襲っている。

一部は真珠のゴーレムと戦っているが、それも焼き石に水。

もはや状況を打開するには最後の切り札を切るしか無い、か……。

「対SB(ステージボス)基本Cに移行する! ジョーカーを切って一気呵成に終わらせるぞ!」

正直言ってこれは部の悪い賭けだ。

だが、これ以外に手は無い。

『限界突破(リミットブレイク)!』

瞬間ーー景色が変わった。

ーー覚醒。

それは正に目が覚めた様な感覚だった。

ーー限界突破(リミットブレイク)はその名の通り、対象の潜在能力を引き出し、それを無理矢理超越させる能力だーー

マシロさんはそう言った。

言葉の意味は理解していた。

だが、限界突破の本当の意味は、今、ようやく理解した。

これは身体強化の様に単に強くなるだけでは無い。

マシロさんは言っていた。

ーー限界突破は『物質体(マテリアル)』『星辰体(アストラル)』『精神体(スピリチュアル)』に存在する全てを引き出す。それは幾星霜の輪廻の果てに立つ君達本来の姿なのさーー

周囲に立つ仲間達の現状を、瞬きするよりも早く理解した。

マシロさんの言葉通り、それぞれが別々の力に覚醒しているのが分かる。

これが一握りの強者達が見ている世界なのだ。

ーー良いかい。物質も星辰も精神も、常に全力で活動して良い様には出来ていないーー

分かる。

初めて身体性能強化を使用した時も、加減が分からずに酷い目にあったもんだ。

これを長時間続けると、間違い無く寿命が減る。

ーー3分。それが精神生命体以下の生物の限界、魂魄の摩耗が起こらないギリギリの時間だ。一度発動したのなら、死なない為にーー

生きる為にーー

ーー3分でケリをつけるんだ。

「3分で終わらせるぞっ!!」

『応!!』