Alchemist Yuki's Strategy

Episode 112 Yuki, Succubus

そもそも鈴守は身を守る為に味方を増やす。魅力を磨き、魅了して従えるのは鈴守の家訓でもある。

その為、私、もとい僕やアヤ、リナは一動作一動作全てを可能な限り他者から好印象を抱かれる物になる様意識する修行をつけられており、最早それは無意識で行えるレベルである。

その結果、僕の魅了、魅力スキルは他のスキルよりも早くレベルが上がっているのである。

如何に強い魅了耐性を持つサキュバスクイーンと言えども、それから完全に抗う事は容易では無いのだろう。

「あ、貴女何処の隊? 私が知らないって事は下っ端でしょ? 仮面を付けてたのは命令されたからよね。きっと嫉妬されたのね」

何やら誤解が突き進んで行くが、丁度いい。

上手い事魅了されてくれてるみたいだし、このままがっつり洗脳してしまおう。

桃髪の美少女、ツァーリムは、そっと私の事を抱きしめた。

身長差で口元がデカイクッションに埋もれるが、声を発さなくとも会話は出来る。

私もそっとツァーリムの背中に手を回した。

「ふ、ふひ……コホン。大丈夫よ、これからは私の専属夜伽に任命してあげるから」

溢れかけた欲望を咳払いで誤魔化したツァーリムは、若干声音に統率者の気品を乗せつつ、私の頭を撫でて来た。

「あ、貴女、私よりも年下よね? ほ、ほら、私って高貴な立場じゃない? じ、実戦経験は無いんだけど……全部(ぜーんぶ)私が教えてあげるわ! え、えーと……そう! 貴女がサキュバスとして恥ずかしく無い様に! こ、これは教育(きょーいく)という物よ!!」

「……」

「……あ、そう、名前! 貴女の名前は?」

準備は整った。

流石にレベル差があるけど、まぁ大丈夫だろう。

◇◆◇

抱き寄せた凄く可愛い子は、私にキュッとしがみ付いて来た。

ああー! 何て可愛いの? ちっちゃくて真っ白で弱々しくて……まるで雪みたい……。

この子とする(・・)のを考えると……凄く……背徳的で、頭がどうにかなってしまいそう。

「あ、貴女、私よりも年下よね? ほ、ほら、私って高貴な立場じゃない? じ、実戦経験は無いんだけど……全部(ぜーんぶ)私が教えてあげるわ! え、えーと……そう! 貴女がサキュバスとして恥ずかしく無い様に! こ、これは教育(きょーいく)という物よ!!」

「……」

慌てて取り繕ったけど、少女は俯いたまま何も言わない。

……あ、そう言えば私、この子の名前、知らない……。

「……あ、そう。名前! 貴女の名前は?」

「……」

そう聞いても、少女は何も答えない。

……もしかして、喋れない程辛い目にあったのかしら? 私が選別した子達にそんな酷い事をする様な子はいないと思ってたのに……。

少女の痛みを想像して胸を痛めていると、少女は小さな、しかし甘く蕩ける様な声で呟いた。

「ねぇ、リムぅ。僕、見て欲しい物があるんだぁ……」

い、いきなり呼び捨て……それに僕って、男の子みたいな……でも……悪くないかも……!

「な、何かしら? 何でも見るわよ!」

虐められてる現場を抑えるとか? ……も、もしかして……か、体、とか……?

「わぁい。ありがとー!」

か、可愛い……! 存在が可愛い! 呼吸が辛い!

「はぁはぁ、何を見るの!? ち、小さくても、全然、良いのよ?」

「うん? ……それはねぇー……」

少女はパッと顔を上げた。

其処には、澄んだ青い瞳があった。

「僕の目ぇ、見て欲しいなぁ」

その瞳は宝石よりも美しく、何処までも深い、深い、深く、深く、まるで水底へ沈み込む様に、引き込まれてーー

「ーーぁ」

気付いた。

これは魅了の魔眼。

それも並大抵のサキュバスでは扱えない程に強力な。

そうと気付いてももう遅い。

その瞳から目を離す事は出来ないし。そう思考する頭の中も、甘い桃色の霧に覆われて行く。

野良の……サキュバス・クイーン……?

いや……あり得ない……だって、魔界には……クイーンは……1人……。

「……なんてね。上手くいったかな?」

最後に聞こえたその声は、蕩ける様なそれとは違い、何処か無機質だったけど……これはこれで良いかもしれない。