Alchemist Yuki's Strategy

Episode 125: Expensive Taste

「あかいの……おいし」

クラウが器用に箸で刺身を摘み上げ、顔色こそ変えないものの嬉しそうに口へ運ぶ。

そんなクラウの言葉を聞き、白い奴がニヤリと笑った。

「ふへっ! 大トロの方が美味しいに決まってるさね!」

自信満々に無い胸を張り、ニヤニヤと嗤いながらクラウを見下す白いのこと白夜は、今日はおちょくられる前に噛み付く事にしたらしい。

対するクラウは、マグロもどきの赤身を咀嚼し、たっぷり3秒程白夜を無視してから溜息をついた。

「……はぁ……ぎもん。なんで?」

たったそれだけで少し怯んだ様子を見せた白夜。

「ふ、ふふ、それは……高いからなのさ!」

怯みつつも胸を張る白夜へ、クラウの鋭い刃が突き立てられる。

「ふーん……しつもん。びゃくやはおかねをたべてるの?」

「ふぇ?」

「びゃくやはたかいものしかおいしくないの?」

「い、いや、違うし……」

「おいしいものをおいしいって、言えないの?」

「う……」

「……りかい。かわいそうなこ」

「うぅ…………こ、子供じゃないもん……」

しょんぼりと下を向く白夜の横で、無表情に言葉の剣を振るっていたクラウの口元が僅かに歪んだのを、私は見逃さなかった。

このまま彼女等を放っておくと、クラウのSっ気と白夜のMっ気が化学反応を起こして一言では語れない様な事案が発生する危険性があるが……まぁ、本人達の自主性に任せる。

私も好きに生きるから君達も好きにしてくれれば良い。

本日の朝食は、昨晩と同じく海鮮だ。

基本的にリクエストが無い場合はアトランダムに子供が好きそうなのを作ってあげるよう黒霧に言ってあるが、今回は珍しく悪魔王のテリオヌスことテリーからリクエストが出た。

最近は紅花も肉肉言わず美味しい物と言う様になったし、白夜やクラウは好き嫌い無くなんでも食べる、連続で海鮮でも誰も文句は言わない。

まぁ、今回に関して言えば、テリーの部下である所の悪魔達が優先教育を終え、食事に初参加したからリクエストしたのだろう。

テリーは食事の魔力に取り憑かれてしまったのだ。

特に醤油が気に入った様子である。

人型の姿を取る様になった悪魔達複数の男女が賑やかに食事をしている一方で、数名の男女が静かに朝食を取っている所もある。

新たに生成したオートマタ達だ。

彼等彼女等はドールから進化したばかりの為強い感情を有しておらず、終始無言のままフォークを動かしていた。

性別、体格、得意な能力に装備品。

そんな要素の集まりが、やがては彼等に性格を生み出してくれる事だろう。

色々な事を経験させてあげる一環として、今日から食事参加させている。

他方では、睡蓮が茉莉花に箸の使い方を教えており、また別の場所ではルメールが相変わらず豪快にアルコールを摂取していた。

大陸中で戦火が燃え上がっている今日日、我が方は平和である。

リベリオンを戦場へと送り出した。

『転生者覚醒計画(プロジェクト・レヴナント)』はモンデシウル攻略後に一気に進めてしまおう。

それまではゼナード君やメナ、クラディあたりを弄ってデータ取りをしておく。

クランゼル王国を手中に収めた今となってはクラディやゼーレは用済みなので、煮るなり焼くなり好きに弄くれると言うものだ。

諸々の指示を出し終え、向かったのはナイオニス大清流の上流、ナイオニスの瞳。

本来なら私自身が出向く必要はあまり無いが、一応は神と名の付くモノがある場所に行くのだ。念の為一番強い私が行くべきだろう。

そんな訳で、砦から清流を遡り、道中で中流のヌシと思わしき触手の生えた岩の様な亀を捕獲して、上流へと到着した。

ここからは合流してくる支流が多く、一見するとどれが正解の道か分からない……しかし、魔覚で見ればそれも一目瞭然だ。

ーー最も水属性が濃い道を行く。

その先に水に関する強力な何かがあるのは間違いない。

『こんにちは〜』

「こんにちは」

主流から少し西に外れた場所。

そこには、中々に大きな泉があった。

泉の中央には、綺麗ながらも年代を感じさせる小さな祠がある。

その観音開きの扉の前に……幼女が座っていた。

幼女と言っても小さい幼女だ……具体的には私の手の平くらい。

ニコニコと微笑み此方を見上げている人形の様な水色の幼女。

その魂の気配を、私は知っている。

『綺麗なお姉さん、つかぬ事を伺いますが〜……ここってどこでしょう?』

「山奥だよ」

『まぁまぁ〜。そんな所にいたんですねぇ……』

何より、このニコニコと笑みを絶やさない感じ……。

ーー水精三姉妹の長女さんだな。

間違いない。

一応鑑定してみる。

ブルーフェメレット LV21 状態:放心

放心してるのに微笑んでるのか……と言うツッコミは置いといて……ちょっと話を聞いてみよう。