Alchemist Yuki's Strategy

Episode 147: Holiday? ~ Day 2 · AM: Hiho, I Don't Need It ~

精神生命体と言うのは、此方が清らかなら案外御しやすいモノだ。

より純粋な魔力の塊である精霊なら、高位の者であれば私を見ただけでその心内の清らかさを見抜く事が出来る。

低位であったとしても、触れ合えば直ぐに理解する。

魂の交感に嘘はつけない。

本能的に理解出来るのだ。相手が本気かどうかを。

ただし、それには例外がある。

精神力に圧倒的な差があれば、強者の嘘は弱者にとっての本当になる。

遊技神がひたすらにうざいのも、対峙した神々の思考が読めないのもこれが原因だ。

死神は精神力は神の領域などと言っていたが、所詮は幼神。

産まれたての神と同じくらいの精神力とか、そんなのはただ強いだけでしかないのだろう。

ともあれ、そんな例外は神の領域でしか起こらない事、地上に棲むあらゆる生きとし生けるもの達にとって、精神感応で得られる情報は絶対の真実なのだ。

だからこそ、最初の内に立場を分からせてあげる必要がある。

ついでに成長を促す意味でも、見込みのある子は少し強めに虐めるのである。

ルムには、姉妹(シスターズ)と同じ規格の制服を用意した。

色はルムが好きだと言った青。

魅了封印と魅了耐性、清浄化などを優先的に組み込んであるので、通常より布地多目となっている。

この装備はサキュバス達全員に配布済みだ。

これでそうそう発情する事もないだろう。

きっちり制服を着込んだルムを引き連れ食堂に向かうと、初期からいるメンバーが既に各々の席について談笑しているところだった。

ルムには好きな席に座る様指示を出し、私は今日用の特別席に向かう。

今日は各団体リーダーとの会食と言う体を取っている。

めーたんとうーたんが私の左右に着くのは、幼い内に色々と仕込む教育の一環である。

「ゆーねーたん、うーたんね、ちゃんとおせきで待ってたよ!」

「うんうん、うーたんは偉いね」

「うーたんえらいえらいなの?」

「うーたん偉い偉いだね」

「にへへ〜」

掴みは良し。おめかししてニヘニヘ笑ううーたんは今日も元気である。

対するめーたんは、おしゃれして一目で特別と分かる席に座っている為か落ち着かない様子だ。

「めーたんは恥ずかしいのかな?」

「うっ、だ、だってここ……視線が……」

桃色の耳はピコピコ動いているのに、やや朱色がさした顔は下に向けられている。

中身を切り替えれば堂々としたれーたんになるが、ここはめーたんのままでいいだろう。

恥ずかしがり屋の彼女をひょいっと持ち上げると、膝の上に乗せてみた。

「わわっ、だ、駄目です! あうぅ……」

「うーたんもっ、うーたんもおひざ!」

「良いよ、おいで」

とてとてと寄ってきたうーたんも膝に乗せた、桃兎姉妹くらいのちびっ子なら、一番大人の形態になれば余裕で乗せられる。

大きめの形態を取ると下限値が上昇して一定以上小さくする事が出来ないが、ちょうどちびっ子達の後頭部に当たるので、クッション代わりに多少あっても良いだろう。……何がとは言わないが。

『れーたんは悪いけど後で、ね』

『っ!? い、いや……レリミラはうーたんとめーたんが幸せで嬉しいので、ゆーねーさまに可愛がって貰ったら幸せで死んでしまいます。2人を優先して欲しい、です』

『そう、じゃあまた後でね』

『ゆーねーさまぁ……』

甘い匂いを漂わせている2人を撫で回し、さり気無く感覚共有をしていたれーたんには気付かないふりをしてご褒美2倍の確約をしてあげた。

特にれーたんは普段から体を動かす事が出来ないので、溜まった物を吐き出させる機会は定期的に用意した方が良いだろう。

まぁ、義体を用意して操作させるのも不可能ではないが、ここはノリヒコ君を参考にして義体を自由に生成出来る様にするのが最良だ。

皆が来るまでの短い間に桃兎三姉妹の好感度稼ぎをしている一方、新入りのルムが問題を起こそうとしていた。

ルムは最初、キョロキョロと辺りを見回していたが、白夜(・・)を見つけるとニタリと嗤い、堂々と胸を張りつつ近付いていった。

それに気付いた人見知りな白夜は訝しげにルムを見ると、立て掛けられていた愛用の杖に指を添えた。

「お前がビャクヤです?」

「そ、そうだけど……」

突然お前などと言われた白夜は、地味にプライドが高いのでほんの少し不快気だ。

そんな白夜をルムはーー

「ふっ」

ーー嘲笑った。

かなり不快気に眉根を寄せた白夜に対し、ルムは自信満々に言葉を紡ぐ。

「お前は馬鹿なのです」

「はぁ? 突然なにさねっ」

「鬼人は生命力と腕力が強い種族なのです。それが魔法を使うなんて馬鹿の証拠なのです」

「……そ、そんなの個人の勝手だし、言われる筋合いはないのさ!」

ルムの合理的な決め付けに対し一理あると思ったらしい白夜は、機先を制する様に、そして威嚇する様に大声を出した。

ヤバイと思ったら取り敢えず怒るのが白夜である。

それに対し、ルムは更に嘲笑う。

「ふっ、そうなのです。個人の勝手なのです。そんな勝手なお前に良い事を教えてあげるのです」

「な、なにさ」

「ルムはサキュバスなのです。それも飛びっきり優秀なのです」

「そ、それが何なのさっ」

「ここまで言って分からないのです? はぁ、これだから馬鹿は……仕方ないから教えてあげるのです」

ルムはニヤリと笑うと、腰に手を添え白夜を指差してのたまった。

「ーーお前はもう用済みなのです!」

ふふんとキメ顔のルムに対し、白夜は大きく目を見開いた。

「なっ!?」

突然のいらない子宣言に色んな意味でびっくりしている白夜に対し、ルムは得意気に自分理論を振りかざす。

「ルムが来たからにはユキ様はお前じゃなくてルムを使うのです。お前みたいな半端者はもうユキ様には不要なのです」

「な、なななっ」

……どうやらルムはご褒美の獲得量を増やす為に、仕事が被るであろう同じ魔法使いタイプの白夜にマウンティングを仕掛けたらしい。

そして、プライドは高いが臆病者であり押しに弱い白夜は、ルムの理不尽な物言いに納得出来る何かを見出してしまった様で……涙目でプルプル震え出した。

白夜が震えたせいで、立て掛けてある愛杖がカタカタと揺れーーそれにルムが目を付けた。

「お前、良い物持ってるのです。レヴィークェに金貨なのです。お前には勿体無いからルムに寄越すのです」

「う、ううーっ!」

白夜が唸りながら愛杖を抱き締める事しか出来ないのは、ルムが正しい事を言っていると思ってしまったからだろう。

ルムは手を伸ばしーー

「早く寄越すのでーーにゅ?」

その手が不自然に停止した。

よく見ると、その腕には魔力の糸(・・・・)が絡まっている。

「……お前、何のつもりです?」

ルムは鬱陶しそうに腕へ魔力を纏わせるが、糸を断ち切る事が出来ず、忌々し気に彼女を睨んだ。

対する彼女、クラウは何時もの半開きな目を更に細め、珍しくもかなり怒っている様な顔で呟いた。

「……なんのつもりはこちらのせりふ」

「はっ、雑魚が邪魔するななのです。ルムはこいつと話してるのです」

糸を破壊出来ない事に警戒心を抱いたのか、或いはクラウの雰囲気に未来の危険を察知したのか? ルム本人は気付いていないだろうが、自信満々に伸ばされていた背筋が僅かに曲がっている。

そんなルムに対し、クラウは得意の演技を見せる。

「……ちょうしょう、かわいそうなこ」

「っ……ル、ルムの何が可愛そうなのか聞いてやるのです」

僅かに首を逸らし、ほんの僅かに口角を上げたその顔は、先のルムの嘲笑が児戯に等しいと言い切れる程の威力があった。

瞬間沸騰しかけたルムはしかし、そこはサキュバス一優秀と言うだけあって冷静を装って微笑みを浮かべて見せたが、それもクラウの計算の内である。

「……しんぱい、むちなあなたにいったらないちゃうからいわない」

「ほ、ほう………………む、無知なルムに教えて欲しいのです。まぁどうせ大した事じゃないのは分かっているのです」

本気で心配している様な顔を作るタチの悪いクラウに対し、ルムは徐々にビャクヤ化が進行している。

そう、クラウからは逃げられないのだ。

「はぁ……しかたないからおしえてあげる(・・・)」

「ふ、ふふ、は、早く言うのです」

クラウは優雅に、ルムを煽りながら立ち上がると、ルムとついでに白夜を見下ろせる様に回り込んだ。

既に白夜は来たる衝撃に備えて涙腺待機中である。

そして、その事実はクラウの口から語られる。

「ーーひほう、そもそもますたはまほうつかいなんていらない」

「「……は!?」」

うん。まぁ、いらないっちゃいらない。

前に白夜に渡した試作品の大規模氷結魔法を発動出来る杖だって、やろうと思えば何の修行もしていない人間でも使えるように出来る。

それに新しく見つけた技術の『神血機装(ゼネリコルス)』は使用者が何も出来ない事を前提に設計されている。

ただし、あって損という事でもない。そもそも兵隊にしてもドールを量産すれば良いだけなのだから。

「ユキぃ!」

「ユキ様ぁ!」

2人は涙目で此方へ振り返り、クラウは満足気に小さく頷く。

……これは私に慰めろと言うのか。