Alchemist Yuki's Strategy

Episode 170: Mijinko is a Crustacean

『天使アシュリアはユキ様と是非会いたいと言っています』

十二分の休息を取った日の夜。

定期的に行われるイヴとの通話を行なっていた。

「仕事がひと段落したらと向かうと伝えて」

『承りました』

「他に何か懸念はあるかな?」

『……5日後大陸中央南方に嵐が到着予定です。除去しますか?』

「……良いよ、特に邪魔になる訳でも無さそうだ。天気予報は黒霧に送っておいて」

『承りました』

さて、今のところ聞きたい事ももう無いし、今日はここまでにしておこうかな。

「それじゃあイヴ、また明日」

『……はい、ユキ、また明日の夜に』

通話を終えて一息つくと、窓から仮初めの月を見上げた。

そのまま少し考え事をしていると、形ばかりの執務机にコトリとティーカップが置かれた。黒霧だ。

「私の主人(・・・・)、ユキ様。どうぞ」

「……黒霧」

見下ろしたティーカップの中身は……ボコボコと煮えたぎっていた。

「冷めないうちにどうぞ」

「……」

「さぁ、お早く」

通話の後はいつもこうだ。

力の質が似通っているイヴに嫉妬し、イヴの方を使う僕に憤慨しているのである。

これは黒霧の些細な意趣返しなのだ。

「……あちゅい」

煮えたぎる紅茶の様なモノを飲み下すと、黒霧はニコッと微笑んだ。

黒霧が人間らしくなって僕は嬉しいよ。

「それではユキ様、報告の続きをしますよ」

「ん」

「それではユキ様、報告の続きをしますよ」

「うん、ろうろ(どうぞ)」

若干反抗期なので後でお仕置き。

本日の成果は、人間領域西方を支配下に置いた事。

共和国のやや東南東に位置する帝国最西端の領地、ターザハルダ伯爵が治める辺境の地。

今は無数の魔物が領内を徘徊し、切り取った国境には三聖獣とそれに跨るベイラーダ達三騎士を筆頭とした大戦力が一片の隙間無く配置されている。

ターザハルダ領の捜索は今夜中にも終わるだろう。

公国の東、ナイオニス大清流を越えた先にある王国、エヴァンスタ。

此方は、防衛戦力がほぼ絶無と言って差し支え無い程に弱体化していた。

理由は明快。

先の西方戦線により、ただでさえ余裕の無い兵力を徴収されてしまったからだ。

エヴァンスタ王国は、地形が平坦で外敵の少ない西方の中でも特に外敵となる魔物が多い国であり、帝国本土に匹敵する程の広大な領地はその半分が未開拓の森や小山で覆われている。

今は各地点在する村や町を守る為、数少ない兵力を更に分割して対応しているのが現状だった。

彼等にとって幸いだったのは、いくつかの森の魔物が減少している事だ。

帝国がこれ幸いと森の魔物を戦力として回収したのである。

エヴァンスタに恩を売れて兵力をどんどん増やす事も出来る、実に両国にとって都合の良い関係が維持されていた。……帝国が敗北さえしなければ。

まぁ、過去の話はどうでも良い。

エヴァンスタを落して入手したモノを纏めよう。

先ずは迷宮。

他国と比べて自然豊かだったからか、エヴァンスタ王国には他よりも多くの迷宮が存在した。

小迷宮42個、中迷宮3個、大迷宮1個。その内負の化身は9体。

各迷宮を侵略し、スキルポイント72P。神子結晶62個。ゴミ箱の山。モニターアイテムの絵画『恵の森』を入手した。

因みに、恵の森という割に描かれているのは草すら生えない荒野である。

生物資源は、騎士や兵士含む王国軍人1万。特に強力な魔物とその配下合計300。

中でも目立った力を持つ者は、5体。

『聖剣ユクスカルナ』とか言うのを持つ女騎士パルルナと『聖剣ユクスカスタ』とか言うのを持つ騎士オズルダ。

名前の語感がヤカルナ達と似ているのは、エヴァンスタがヤカルナ達の故郷と言う事なのだろう。

両聖剣は、元々一つの剣『聖剣ユクスカノーク』であったとされているらしい。

続いて残り3体。

内1体は、モンデシウルの庇護下から出て行った黒い大狼。

曰く、他が白いのに自分だけ黒いのに負い目を感じて。出て行ったらしい。

2体目は、エヴァンスタ南の小山周辺を縄張りとする亜竜。

響針獣・ボーサ。本名トト。

簡単に言えば、大きなヤマアラシだ。

そして彼の背中には『聖剣ユクスカグル』が刺さっていた。

多分聖剣は3本で『聖剣ユクスカノーク』になるのだろう。

そして最後の1体は、巨大ミジンコ『ノノ』。

本名にナガクラノノとあり、その記憶はほぼ全てが失われていたが、間違いなく転生者(フォーリナー)だ。

彼女はヤマアラシのボーサが水飲み場にしている泉にいた。

僕の頭に匹敵する大きさのそれは、タマミジンコの形をしているが透明では無く、白味がかった甲殻を纏っている。

そう、ミジンコはあれで甲殻類なのだ。

彼女はやたらと強力な氷属性魔法の使い手で、どうやらトトの友達らしい。

エヴァンスタ王国での収穫はこんな所。

国を制覇したスノーブラックの兵士達はそのまま東へと進み、帝国に隷属した小国群の侵略を始めている。

明日までには新たな兵士や魔物達の教育も終わるので、3日程で小国群の完全制覇は成るだろう。

迷宮核も続々と回収しているし、黒霧の総合演算力はみるみる上昇して行っている。

差し当たって金属などの生産量を増加する様命令し、本日の業務を終えた。