Alchemist Yuki's Strategy

Palm Tales Red Knight, Coming Three

燃え盛る炎は、純粋な意思。

燃えろと。燃え尽きろと。燃やし尽くしてやると叫ぶ声には、何の悪意も無く、ただただ純粋な熱意があった。

立ち上がる火柱は天を突き、迫り来る巨人に炎が踊る。

ーー笑い声が響いた。

ただ楽しそうに。ただ嬉しそうに。

迸る紅蓮は舞い踊り、炎の化身が拳を振るう。

燃えよ燃えよ。

もっともっと。

世界の全てよ紅蓮に変われーー

◇◆◇

『う、ぐ、おぉぉーっっ!!』

炎を抑えつける。

今にも暴発しそうな、いや、常に暴発し続けている火の魔力を、無理矢理に抑え、纏め、支配する。

舞い踊り、徐々に人型を形成し始めていた紅の炎を引っ張り、剣の中へと押し込む。

『ぅんにゅぉぉーっ、離、せぇっ! もっと、もっと炎をーー』

『ーーだぁぁーっ!』

『ぐにぐぐぐっ。ちくしょうっ! ようやく出られたのにっ!!』

『はぁ、はぁ……』

どうにか炎の全てを剣へ押し込むことに成功した。

今のところ辛うじて押さえ込んでいられるが、そう長くは保たないぞっ。

『レティ、話が、したいっ』

『うぉぉおっ! 俺様を、離せぇっ! もっと、もっと、燃やさせろぉ!!』

『くそっ、話を聞けっ、レティッ!!』

『俺様の、邪魔をっ、するなぁーっ!!』

『ぐぅ……!?』

レティの叫びに同調する様に、押さえ込んでいた火の力が暴れ出す。

なんつぅ力だっ、練気が間に合わんっ。

『……どうやら、ここまでの様ですね』

『くっ』

『っ、その声はっ!? くそぉっ、俺様の力がっ。ちくしょうっ! ばーか、ばーかっ! 燃えちーー』

『ーー黙りなさい』

『ぐ、うぅ……ばか、覚えて、やがれ……次は…………』

ヒヒイロカネの特性、あらゆる火の吸収と放出の力が使われているんだろう。

セラの持つ力が緻密に編まれ、レティの爆発的な火の力を喰らい、封印していくのを感じる。

程なくして、レティは完全に鎮静化された。

『ふぅ……アルフさん』

『あぁ、すまん。レティの説得ーー』

『ちょっと剣先をあちらに』

『え? あ、あぁ』

言われた通り、此方に迫り来る生き残った巨人の方へ剣先を向ける。

次の瞬間ーー

『ーー炎よ……!』

ーー爆炎が放たれた。

轟々と燃え盛る紅の炎が、そこにいた巨人達を飲み込む。

鎮火した後にはドロップ品だけが残り、それもユキの元へと転送されて消えた。

……まぁ、レティの攻撃でちょっと弱ってたしな。ってかなんだ今のっ!?

『えぇと、セラさん?』

『はぁっ……ふふ。スッキリしました』

『左様で』

見た感じ、今の炎はレティとセラの両方の物だったと思う。

多分吸収したレティの炎の封印に使わなかった余りを纏めて放出したんだろう。

しかし……流石はレティを封印できるだけの制御力だな……ヒヒイロカネだからか? 俺の全力と同じくらいの出力は出せそうだな。

……それすらも超えて強くなれって事、か。

『……セラ、俺は諦めない』

『……そうですか』

レティを使役出来れば強くなれるってのもあるが……セラとレティが仲良く一緒にいれれば良いと思うから。

差し当たって、ユキに習い、確認と考察をしておこう。

レティを解放してみた感じ、基礎スペックはレティの方が上だ。

確認する程でもない様な事だが、レティはやはり俺より強い。

練成される火力は、俺の常態と比べると2〜3段階上。

アトランティスと比べると一歩二歩劣るくらいだろう。

ただし、一見した感じだと、レティは気を練る事が出来ない。または上手くない。

だから、凄まじいまでの量(・)を俺が練り上げた質(・)で上回り、抑え込む事が出来た。

ならば、今後やる事は簡単だ。

ひたすらに練気を磨き、俺の中に存在する火の宝珠にそれを溜め込み宝珠の進化を促す。

白雪ちゃんがやったのと同じ事を再現するんだ。

ユキの話によると、武装や道具は馴染ませれば進化し、共にあり続ければその身と1つになる事があるらしい。

やがては宝珠もモノにする。

そうすれば、強過ぎるレティの力と対等以上にやりあえる様になる筈だ。

その上でやるべき事は……そうだなーー

『セラ、少し休むわ』

『そうですね、休息は必要です。……思えば、上位迷宮に入ってから貴方は戦い過ぎですよ』

休んで瞑想するなりして、そんでもって練気を循環させて宝珠を馴染ませて、と。

まぁ、しばらくは戦わないで自己鍛錬に励むとしよう。

夜。

しっかりと休息しつつ、気を練り体内に循環させる。

『……凄まじい、ですね』

『だろ? これが俺達がいる戦場だ』

映像を見ていたセラは一時言葉を失っていたが、ようやく再起動したらしい。

戦慄した様な呟きに、さも当然である様に取り繕って言葉を返す。

いやまぁ、敵も凄まじいが、何より味方が凄まじい。

機神ニルバーナの鉄壁と、それを打ち破る味方の頼もしさ。

そして最後の白い終末の光景と、それを粉砕した三首竜の同輩。

際限無く魔法を連射するティルナノグは、全ての魔法にしっかりと気が練り込まれており、それを吸収し続ける味方の戦いは中々参考になる所も多く、面白かった。

……まぁ、玄人好みな戦いで、セラにはイマイチ状況が掴めなかった様だが。

そして、つい先程終わったアルカディア戦は……素人も玄人もはっきりとやばいと分かる戦いの連続だった。

初撃の猛攻からの魔物の大援軍。

それを殲滅したかと思ったら、アルカディアの力が膨れ上がり、俺より強い強大な精霊帝達が苦戦する様な強敵となって味方の前に立ち塞がった。

セラは時に悲鳴の様な声を上げつつ、固唾を飲んで戦線を見守り、その横で俺は手に汗握り、傍らのセラを握ったり離したりと忙しなく動いていた。

人の身体だったら間違いなく汗を流していただろう。

どうやら森系の上位迷宮が解放された様だし、俺にも声がかかるかもな。