Alchemist Yuki's Strategy
Episode 11: Of the Giants
広大なフローリングの廊下を右の壁に沿って進む事しばらく。
左へ曲がる曲がり角に到着した。
突き当たりには半開きの扉があるので、低空飛行でささっと左側の壁により、角の先を覗き込む。
「……」
人影は無い。角の先には半開きの扉が手前、真ん中、奥と3つあり、うち1つの真ん中から物音がしている。
最奥の突き当たりは、まだ左へ続いている様だ。
取り敢えず敵影は無いので、突き当たりの部屋に入ってみよう。
僕はつぃーっと高速移動し部屋へ滑り込んだ。
「ふむ」
そこは寝室。
夫婦の寝室なのだろう、山そのもののダブルベットやら化粧台やらタンス、クローゼットがあった。
「むむ?」
気配を探りつつ中を確認すると、妙な気配を放つ物が3つある事に気付く。
内2つは、ベットに下げられた2つの靴下から。もう一つは、化粧台の上からだ。
差し当たって、遠隔から念力の手を伸ばし、3つのアイテムを回収する。
入手したのは、2枚のメダルとハープ。詳しく確認しておこう。
先ずメダルは、サンタ帽の様な物を被った美少女が象られた巨大なメダル。
それぞれ絵柄が異なり、ウィンクしてたりピースしてたりする。
夢属性の濃い魔力が込められているが、特に何かが付与されている訳では無い様だ。
そうこう確認していると、メダルは僕の手のひらと同じサイズに縮んだ。
サイズ以外は変化無いので、所持者によって変わる様になっているのだろう。
アイテム名は『ニコラメダル』。描かれた美少女がニコラと言う名前なのだと思われる。
尚、靴下ごと回収しようとしたが靴下は他者の所有物だと判定された為、インベントリでの回収は出来なかった。
次に、ハープ。
『魔法のハープ』と言う名前のこのアイテムは……僕の身長の2倍以上もある巨大ハープで、重量はざっと7トン。化け物ハープである。
十分に魔力を補給し、『歌え』や『奏でよ』または『歌おう』等と唱えると、自動で音楽を奏でるらしいこの魔法のハープ。
重量や性質から見て、おそらく神珍鐡製、またはそれを含む合金だ。
浮遊して付いてくる機能は無いが、操音魔法の類いで使うアイテムとしては中々、結構、大分優れている。
総評、中々良い拾い物をした。……ただの泥棒と言えなくも無いが、所有権がフリーだったので貰っても良い物だったのだろうと自己弁護しておく。
そんなこんなで寝室を後にし、次の扉へと向かった。
フローリングを滑る様に移動し角を曲がって手前、半開きのドアを潜った、その先には…………超巨大な犬がいた。
ギガント・ドッグ LV400
その部屋は安楽椅子やソファ、机が並ぶ、いわゆるリビングルーム。
犬は部屋中央の暖炉の前に寝転がり、ぶぉーぶぉーと寝息を立てていた。
僕は直ぐに透明化、無臭、無音等のスキルを起動し、気配を断つと、こそこそモードで部屋内を探る。
感じ取れた強力な気配は、ニコラメダルの物。
犬の寝床の靴下の中にあったメダルをささっと回収した。
そして、リビングに雌鶏はやっぱりいなかった。
僕はリビングを後にした。
フローリングをつつーっと移動して物音がする真ん中の部屋。
半開きの扉から中を覗き込むと、そこには巨大幼女がいた。
それも3人。
どうやら子供部屋らしい。3つのベットやタンス、おもちゃの山が見える。
そんなお子様ルームで、おおよそ4〜5歳程に見える巨大幼女達は遊ぶでも無く、おしゃべりする事も無く、それぞれがそれぞれ何かよく分からない事をしていた。
顔や髪質から見て、おそらく彼女等は3つ子だろう。
可愛らしい赤のエプロンドレスを纏う赤幼女は、キリッとした顔でシャドーボクシングをしていた。
青のエプロンドレスを纏う青幼女は、クールな無表情で薪を素振りしていた。その様はまるで職人の如し。
緑のエプロンドレスの緑幼女は、満面の笑みで……割と大きなビンを振り回し、蓋を高速で閉めたり開けたりしていた。
……何やってるんだろうか。特に緑。
何はともあれ、こそこそモードで内部の気配を探ってみる。
見つかったのは、ベットの上に下げられた靴下、もといニコラメダル3個。
ありがたく頂戴し、次の部屋へ。
一番奥の部屋は、バスルーム。
「……」
巨大なお風呂のアヒルがこそこそモードの僕をじっと見つめていた。
……帰ったら作ろう。
バスルームには、アヒルちゃん以外に大した物は無かった。
部屋を出て、目の前の曲がり角、石で出来た地下への階段を見下ろす。
埃っぽく冷たい空気が流れもせず淀んでいる。
崖と言っても過言では無い階段を、飛び降りた。
◇
地下は倉庫だった。
そこには、中に入れた金や銀の塊がゆっくり増殖する『財宝袋』と言うアイテムがあった。
他にも色々と強い気配を放つ物が置いてあったが、所有権的に回収は出来なかった。
勿論、魔力吸収、中和、付与を行う事で他者の所有物を回収する事は出来るが、消耗を考慮すると……特に欲しいって程でも無い。
大した物でも無いし、何より全部デカイから面倒くさい。
その後、引き返してダイニングキッチンからアイテム『金の雌鶏』を回収し、ジャックが待つ玄関に戻った。