Alchemist Yuki's Strategy

Episode 36: Things You See Ahead of Glass

戦闘は、概ね予想通りに推移した。

想定とやや異なった点が1つ。

雷わんこ達の攻撃力だ。

戦闘開始直後、雷わんこ達は1本の矢、いや、弾丸に変わり、閃光となってガラスの騎士へ襲い掛かった。

——衝突。

その瞬間起きたのは、雷わんこ達の収束の力と屈折の加護とのぶつかり合い。

結果的に生じた現象は、中和。

そして——蒸発。

ガラスの騎士は煙となって消滅した。

これが普通の攻撃だったなら、そう上手くは行かなかっただろう。

本来であれば、屈折の力によってエネルギーが瞬時に分散され、透過の力によってその殆どが突き抜けて消える。

わんこ達の場合は、収束と屈折がぶつかり合い、小さな鏃の様になっていたわんこ達が元の体の半分くらいまで、鏃の大きさの10倍以上にまで分散された。

そして、本来であれば透過によって自動的に突き抜ける筈のエネルギーの殆どが、わんこ達の抵抗により騎士の中に残った。

その結果、一瞬で絶縁破壊に至ったガラスの騎士達が一瞬で蒸発する事となった。瞬きする暇も無い。

わんこ達に透過が殆ど効かなかった理由は、おそらく彼等が一種の精霊、精神生命体の類いだったからだと考えられる。

屈折と透過の力は、単純な指向性を持つエネルギーに対して無類の強さを発揮するが、自由意志を持つエネルギーには弱いのだろう。

まぁ、それにしてもわんこ達が神気を宿す加護にどれほど抗えたのかは分からないが、騎士達自体の防御力は精々レベル相応より硬いくらいしか無いので、一瞬抗えればそれで十分なダメージを与えられた訳である。

これが、騎士達のレベルが同格だったなら、そう簡単には行かなかった筈だ。

その後、41の兵士を煙に変えた雷わんこ達は、意外と残った余力を1つに纏め上げ、1匹の巨大雷わんこに変身。

すかさず一本の矢……ではなく槍に変じるや、自在に動く閃雷となり、残り19名の兵士を蒸発させて、勢いそのまま僕の方に飛来、ドバーッと41匹のわんこに分かれてくてりと地面に転がった。

その様、一言で表すなら、わんこスライム。否、わんこすらいむ(・・・・)。

立ち上がる元気も無い様であった。

さて、後方で雷わんこがスライム化した所で、次の戦闘は始まった。

大聖天狗が撹乱し、メイド隊が拳打で騎士を押しやり、1つに纏めた所で魔法師隊の全力攻撃が降り注ぐ。

流石の加護を宿す騎士達も、レベル600相当の魔法使い50人による極大儀式魔法に加え大聖天狗達の光の槍、吸血鬼メイド達の血と影の槍、そして鹿君達の重力と雷、白夜の爆裂魔法、夫妻のブレスを受けては一溜りも無かった様だ。

ある者はネロのそれと同じ様な闇の炎に溶かされ、またある者は闇に抗う中飛来した槍に穿たれ砕け散る。

アンデット達は魔力を出し切って力尽き、余力を残した犬とメイド、他数名は、既に始まっていた重騎士の戦場へと向かった。

戦力過多に見えるが、その実大聖天狗とメイド達は重騎士に対して有効なダメージを殆ど与えられていない。

それを理解してか、彼等彼女等は他より地力で劣るワンワン七天王とアスフィンの補助に回った。

具体的には、8名の強者の攻撃に合わせて攻撃する事で、騎士の処理能力の限界を越えさせ、少しでもダメージを重ねる方法だ。

他方、ネロとルクス君と重騎士の戦いは、片や派手に、片や地味に行われていた。

ネロはその巨体にモノを言わせ、見た目相応の怪力で重騎士を捻じ伏せると、三つの顎門を開いて黒炎を吐き出した。

燃え盛る黒き業火は、ガラスの騎士を覆い尽くす。

ネロの剛力で押さえつけられた騎士は一切の抵抗を許されず、ただ消え去るのを待つのみであった。

一方ルクス君は、ヴァルゴ一式による圧倒的な防御力を利用してガラスの騎士の攻撃を完全に無効化、その堅固な拳や断罪剣で騎士へダメージを蓄積している。

地味だしなんの修行にもなっていない……様に見えるが、ヴァルゴ一式の力を十全に引き出す訓練にはなっているだろうし、ルクス君に関してはコレで良いだろう。

そして最後、アルフ君だが……アルフ君はどうやらレヴァンティンとセラナトゥスの信頼を勝ち取った様だ。

アルフ君自身の力と愛剣愛鞘の力とが重ね合わされる事で、レベルにして700を優に越える火力を得るに至っている。

後は、絆を深め、レティはもう少し大人に、セラはもう少し積極的になれば、更なる強化が見込めるだろう。

戦闘の結果は、言わずもがな。

ガラスの騎士達は凄まじい防御能力を誇るが、熱変動や精霊に弱い様であった。

入手したのは、ガラスのティアラ。

またもや9割前後の脱落者を出し、次の戦場へ向かった。

まぁ、今回撤退した子達、主にメイドと大聖天狗達は、多少の余力を残しての撤退だが。

連れてきたのは、白雪。アルフ君。ルクス君。ネロ。氷白。ミスティ。レーベ。の6人。

その内、ほぼ完全に無傷なのは白雪、アルフ君、ルクス君の3名のみ。

レーベは裸王との激戦で6割弱消耗しているので、平気そうな顔をしているが決して万全では無い。

氷白とミスティの急造コンビも、連戦で大分消耗している。

さて、では次の戦場の敵を数えてみよう。

先ず、ガラスの城と城壁が見える。

次に、その城壁の上に立ち並ぶ30体の守護騎士が見える。

最後に、その守護騎士等に何らかの強力な補助魔法を掛けている者の気配が城の奥から感じられる。

そしておまけに、城自体からも何となく生き物の様な、迷宮の様な気配を感じる。

それはつまり……単純計算先の戦場の10倍以上の戦力が立ち塞がっていると言う事だ。

「……思ったんだけどさぁ、リヨン」

「何? コユキは怖気付いたのかしら? ぷぷぷ」

やっぱりリヨンは神だね。敵でも無いのに僕をイラッとさせられるのは神くらいの物だ。

仕方ないので僕はニコリと微笑んだ。

本当は、クリアさせる気あるの? と問いたい所だったが……折角の美味しい獲物の群れだ、喰らい尽くしてくれよう。

「……ふふ、これ、最高だよ」

「はえ?」

リヨンは意味分からんとばかりに首を傾げるのだった。