Alchemist Yuki's Strategy
Episode 44: Dori no U-Tan
振り返る。
見えたのは、白虹色の髪と瞳。
長い髪は癖っ毛でもさもさ広がっており、瞳はぱっちりと開かれている。
そして、頭の左右に生えた二本の巻角。
そこには、シュクラムことしゅーたんがいた。
「やっぱり、ママだ」
「……そっか、夢を見てるのか」
「そうだよー、ママー」
しゅーたんは嬉しそうに抱き付いて来た。
いや、そうだよーとか言う物では無く。……つまり、ここは夢の迷宮の中にある場所では無く、夢の迷宮に入り口があっただけで、正真正銘本物の夢の中なのかな?
いやいや……まてよ……夢の中と言う解釈自体は間違いでは無いだろうが……もしかしてこの世界、夢属性信仰の集積場所なのでは?
火の神権には火の信仰の集積場所が何処かに存在する。
それと同じで、ここは夢の神権の信仰が集まっている場所なのかもしれない。
成る程。夢の旅人とは、即ち一定以上の強者で尚且つ普段から眠りこけている存在の事を指すのか。
それらが夢を通じてこの世界にやって来る事が出来る、と。
じゃあ……さっきの兎、メロットか。
突然出て来たのは、メロットなりに僕の存在を感知したからだろう。
「しゅーたん、メロットは知らない?」
「んー? たまにね、見かけるよー? あんまりね、あんてい? してないみたいでねー、明日も遊ぼうって言ってるのにね、忘れちゃうのー」
ふむ。
「ここでの事は忘れるのかな?」
「んんー? しゅーたんは忘れないよー?」
……うーん……多分、普通に夢を見るのと同じなのだろう。
夢を直ぐ忘れてしまうのと同じく、この世界の事も忘れてしまうし、夢の中で自由に動けないのと同じで……いや、他者の夢に関わる以上更に動けないか。
まぁ概ね夢と同じと言った所だろう。
取り敢えず、夢しゅーたんを撫でて置く。欠伸が加速する。
嬉しそうに懐くレアしゅーたんをパシャリとしつつ撫でていると、しゅーたんは何かを思い出した様に耳を立てた。
「あ! ……あのねーお姉ちゃん(・・・・・)がママに会いたいって言ってたよ」
「お姉ちゃん?」
「うん」
にこやかにしゅーたんは笑った。
「しゅーたんと同じ名前の(・・・・・)お姉ちゃん(・・・・・)!」
同じ名前…………まさか、オリジナル……?
……いやいや、一千年以上前だよ? もし生きているとしたら、その脅威度はおそらく……最低でも五大賢者のザイエや爺様を越えている筈。
しゅーたんは一応転生者で、その魂には膨大な量のエネルギーが入っていた。
それを全て十全に使ったとして、順当に行けばアルネアやレーベクラスの化け物になっている可能性が高い。
……あ、ちょっと意識飛びそう。
「んんー? ママおねむなの?」
「ちょっとフラッと来ただけだよ」
ぐぬぬ、環境に不慣れな所為でまともな思考すらも上手く出来ない……まぁ、しゅーたんが無事なら大丈夫だと思おう。
どのみちそんなに長くは保たない。
「ふわ……お姉ちゃんに会う前に、夢から覚める方法を教えて欲しいな」
「んんん? 簡単だよー? 起きれば良いの!」
……どうやって起きるのよ。いや、そもそも寝てないし。これはお姉ちゃんとやらに頼るしか無いのかな? ……もし無理でも最後まで足掻くぞ。
「じゃあママ、行こー?」
「うん、行こっか……ふあ……」
ニコニコしてるレアなしゅーたんの写真を撮りつつ、僕は連れられるまま白虹の世界を歩き始めた。
◇
数歩歩いた所で、しゅーたんは首を傾げた。
「あれー? んんー?」
「……どうしたの?」
「んとねー……なんかね、知らない所に来ちゃったみたい?」
しゅーたんが分からない事は僕にも分からないな。
無意味とは思いつつも、辺りをぐるりと見渡した所で、気付いた。
僕の足元に、熊っぽい謎の生物がいる事に。
「……いつのまに」
「わぁ、クマちゃん久しぶりー」
その生物は、モサッとしたフクロウの様な寸胴体型であり、そしてどう見ても熊であり、よく見ると手足には鋭い爪が収納されている。
その熊には、しゅーたんと同じ様に頭に巻角が付いていて、背中に黒い翼の様な物があった。
そのクマもどきは、じっと僕の目を覗き込み——女性の声が聞こえた。
『……まだ早い。早く帰る』
てしてしと僕の足を叩き、そう告げた熊もどきは、僕が何かを言う前に一瞬で消滅した。
「……早いってのは納得」
「クマさんねーしんしつきぼー? なのー。直ぐどっか行っちゃう」
寝室希望なのか。それは直ぐどっか行っちゃうな…………あれ? なんか僕ちょっと思考力落ちて来てない? ヤバイ。のに眠い。
「じゃあ、今度こそお姉ちゃんの所に行くねー」
「うん、そうして……」
早くしないと眠っちゃう。