Alchemist Yuki's Strategy
Episode 51: The Big Cage Has A Hundred Nights Death
——ギュピーー!!?
「悲鳴デース!」
「え? 今の悲鳴なの?」
「悲鳴にござる」
「悲鳴っぽくないけどねー」
「だが悲鳴なのだ」
「じゃあ、一応行こうか」
悲鳴らしいので、その声がした方に向かう。
すると、見えて来たのは、羽が生えた小人とそれを襲う白い塊。
小人は羽をぶんぶん振り回して頭を抱え、身を守っている。
大きな白い塊は、手を……と言うか触手を振り上げた。
「危ないデース!」
言うや、ヒメは竹の刀から月光属性の光を放ち、白い塊を蒸発させた。
それにグンハが続き、白い塊を両断。
これで終わりかと思いきや、白い塊は切られたのもお構いなしに触手を伸ばし、それぞれがグンハと小人に襲い掛かる。
「喰らえ!」
「はっ!」
金剛丸と桃花が踏み込み、白い塊を更に両断する。
四散しても尚、白い塊は動きを止めない。
ノタリボッチ LV500
ふむ……名前からは良く分からないが……夢の力に混じって不浄の気配を感じる。アンデットの類いだな。
「膿が垂れるでのたりデスヨー」
「成る程」
「疫病の禍神の一種だ。他ではあまり居ないが、夢郷ではそう言ったモノが具現化しやすい」
「なるほどど」
つまり疫病の属性を持つ精霊の変種か。
見た所、切られた部分は属性を断たれて相応の消耗をしているし、切りまくれば倒せるだろう。
比較的スライムに近い生物だが……触れたら碌でもない事になりそうだな。
「そーですネー……触れたらぶつぶつと腐り始めマース!」
「やっぱり碌でもない」
「行き所の無い病が具現化する故に、奴が現れる付近では病が無くなるらしい」
それは確かにそうだな。少なくとも病の類いが信仰的な強化を受けなくなる事は間違いないだろう。
それにしても……。
「膿なのに真っ白なのはなんで?」
「綺麗だからデース!」
「混じり物が無いからだろうな、本物はもっと悍しく汚らしい姿をしている。臭いも相当だ」
それは良かった。作り物で本当に良かった。
「レベルは100ちょっとが相場デス。超大物デスネ」
だろうね。その危険な性質と生存能力を持ってレベル500で発生するんだったら、普通に国家が滅ぶレベルだし。
僕等がそんな会話をしている内に、膿垂法師はズタズタに斬り裂かれ、消滅した。
飛散した部分が桃花に着くヒヤリとさせられた場面もあったが、そもそも桃花は精霊なので、基本的に腐らない。
毒属性の様なダメージこそあったが、それだけだった。
改めて羽の生えた小人と向かい合う。
「あぁ、旅のお方、ありがとうございます」
「何の、これしきどうと言う事でもござらん」
「そうよ、お礼を言われる程の事じゃないわ」
「困った時はお互い様デース」
畏る羽小人。
見た感じ、その羽は……スズメかな? 若干派手だしツグミかもしれない。いやスズメだろうが。
はっきり分かる事は、小人が女の子だと言う事と、種族は所謂鳥獣人の小人版の類いだと言う事。
同じ小人のまめちゃんが代表して前に出る。
「お嬢さん、この様な場所で如何なされた」
まめちゃんにそう聞かれるや、スズメの小人はヨヨヨっと泣き崩れた。
「旅のお方々、どうか哀れな我々をお救いください」
「分かったわ!」
「あぁ…………あぁ、ありがとうございます」
桃花の即決に若干戸惑いながらも、スズメの小人は軌道修正を図った。
……桃花は元来こう言う感じだが、此処ではそれに輪をかけている様に見える。
まぁ、シナリオ通りだし、困ってるならやろうかな。と言った感じだろう。
スズメの小人の話によると、何でも大きな葛籠に封じていた妖怪が、先程あった鬼達の襲撃で解放されてしまったらしい。
それをどうにかして欲しいと言うのが、今回のクエストだ。
森をしらみつぶしにして戦う必要があるだろう。
そう思っていたが、どうやら違うらしい。
「奴らは禍封じの巫女である私を狙っています。社に戻って周辺へ気を放てば、此方に気付いて襲い掛かかってくるでしょう」
「つまり、貴女を守って戦えば良いのね!」
正確には、社までの護衛と社での防衛戦と言う事だろう。
どうやら、不思議の世界北西部のコンセプトは、英雄達と協力して鬼が原因の災禍を鎮めると言う物らしい。
仲間を集めて戦うあたり、実にゲームっぽいシナリオである。
脚本は誰だろう。
◇
程なくして、社に辿り着いた。
道中色々な妖怪や餓鬼、アンデットに襲われたが、最低でもレベル550からなる手練れが6人もいれば容易い物で、難なく撃退した。
一々切って捨てるあたり、圧倒的な力を感じさせない匠の演技と脚本である。
桃花は何となくそれに従ってる感じか。
また、小人組とちょっと話をした際に聞いたが、エヴァがすっ飛ばして気絶した花の小人の子は、クエスト結果が微妙でちょっとへこんでいたらしい。
本来なら僕には関係の無い話だが、好感度が微減したであろう事は少し残念だ。
そんなこんなで社である。
森に開けた花園に、赤い屋根の小人サイズ社が建っている。
そこへ、スズメの小人改め千結子(ちゅんこ)姫を下ろす。
「ありがとうございます……今すぐ始めますか? それとも準備をしますか?」
「勿論、いつでも行けるわ! そうよね、ハニー!」
「余裕ではあるね」
展開早いけどね。余裕だから大丈夫だろう。
「では……始めます!」
言うや、千結子姫は……地脈の様な物と土地の神性にアクセスし、力を増幅、それを周辺へ放った。
何気にちゃっかり凄い事してるんだけど……まぁ巫女と言うからにはそう言う事も出来るか。
果たして——森は騒めいた。
溢れ出る光は僕等を包み、何らかの補助魔法が施される。
木陰、茂み、木の洞、暗がりが濃くなる様な異質な気配が膨れ上がる。
次の瞬間——
「——来るぞ!」
グンハの声が響き、音もなく異形の群れが押し寄せた。
◇
《【運命(ディスティニー)クエスト】『小さな箱には大きな光。大きな箱には……?』をクリアしました》
出てきたのは、カッパや土蜘蛛、抜け首等の無数の妖怪。
それに混じって上位種の蛟や牛鬼と、最初に遭遇した禍神の一種と同じ存在と目される、苦誰法師(くたりぼっち)、哭詈法師(こっくりぼっち)等が現れた。
憎しみに繋がる感情、怨念の集合体の現れ方としては、中々珍しい形だ。
夢郷特有のアンデットなのだろう。
ペコペコ感謝する千結子姫と社が消滅するのを見送った。
入手アイテムは道中確認するとして、早速海辺の村へと出発する。