Alchemist Yuki's Strategy
Episode 56: Showdown! Higashima!
計画通り、ルムは潮汐童子と仙鬼や高位鬼人に囲まれ、ついに本気を出した。
まぁ、本気を出したと言うより、生き残る為に凡ゆる手を尽くす中で、自分に何故か光属性の高い適性がある事に気付いたと言うだけの話だが。
そも潮汐童子とは潮汐の権能を持つ鬼と言う事だ。
潮汐とは潮の満ち引きの事で、主に月の重力によって生じる現象だ。それ故、潮汐童子には月と闇の属性魔力に耐性がある。
その上、元々鬼と言う種族は悪魔の近似種でもあり、闇属性には適性があるのだ。
それでもルムと潮汐童子ならほぼ互角だが、潮汐童子には援軍があり、ルムにはそれが無い。
いよいよ持ってルムは追い詰められ、そして秘めたる力を見つけた訳だ。
だがしかし、それでも尚劣勢なのは変わらず、闇と光の属性魔力を用いて必死に応戦し、僕もそれとなく誘導したり援護したりした結果、最後には潮汐童子と相打ちの様に力尽きた。
敢闘賞だね。
リムと八雲童子の戦いは、此方も同格の相手とあって激戦だった。
保有魔力量ではほぼ互角、装備では最低限しか無いリムと十分な準備のある八雲では八雲が上。
アイテムにしても八雲童子は幾らかのスクロールを持っている様だし、地力は互角でも装備とアイテムで劣っている。
ただし、此方は騎士団、ジョブスキル、クラン補助効果で多少のブーストがなされ、その差を少し埋めている他、出来る妹を持った宿命か、リムも幾らかの接近戦闘が出来る。
遠距離型の八雲と違って遠近両方に対応出来た為、引き出しの差、出来る事の差によって、辛うじて勝利を掴んだ。
後は桃花だが……桃花はそもそも普通に強い。
物理的な攻撃に強い精霊の身でありながら肉体制御において達人の域であり、精霊であり尚且つ仙気を鍛えられたからか緻密な魔力操作が可能。
更に意図的に信仰を与えられた事で神権を持っており、精霊故にその神力を他種よりもほんの少し上手く使えてしまう。
一見精霊の変わり種だが、その実精霊の王たる六精帝と同じ様な力を持っている、絶対的な高位者の1人だ。
ポテンシャルで言うなら現状最強クラスの白羅をも越えている。……と思う。
そんな桃花の相手は、北東エリア中盤から中ボス的な役で出る様になったっぽい、白波童子。
白波と言えば盗賊の事だが、白波童子は山賊っぽい見た目をしている。
まぁ、山賊も海賊も盗賊の内なのであくまでも語感と言う話だが、それだけガタイのいい鬼と言う訳だ。
敢えて誰かと比較するなら……オートマタ鬼のセロは身長高いけどスラッとしてるから違うし、レーベの悪魔形態と比較すると2回り程小さい……まぁ、一般的な人と比べると一回り以上大きい怪物なのである。
その技量は、肉厚の曲刀を全身の力で振るうか、近付いた敵をその剛力で殴るか蹴るくらい。
端的に言って、小さく素早い桃花とは相性が悪いのである。
それでも戦いになっているのは、鬼神候補は伊達じゃないと言う事か。
結果的には、どちらかと言うと白波童子の方が成長した戦いになった。
僕は、倒れ伏して悔しがる白波君に、ニコリと微笑み手を振ってあげた。
……ただ挑発したんじゃなくて、これでもっとやる気出してくれるかなぁ? と言うサービス精神である。
他の戦いは見る程の物ではない。
石熊童子と金剛丸は、お互いの小柄な体で組み合い、剛力のぶつかり合いをしていた。
渦童子と沫童子は、水中では敵なしのシャオロンやそれを援護するかなり強い釣竿法師に翻弄されていた。
他仙鬼はグンハとまめちゃんに殲滅され、それ以外の雑魚はヒメと白羅に殲滅され、前哨戦は僕の配下2人の離脱のみと言う結果で終わった。
さて、次が本戦だ。
◇
蒼凪童子 LV550
飛燕童子 LV550
星熊童子 LV550
劫火童子 LV550
宵虎童子 LV550
茨木童子 LV600
酒呑童子 LV650
童子多過ぎない?
そんな問いを抱きつつヒメを見る。
「そうデスネー。まぁ酒呑童子デスカラ!」
「酒呑童子は一種の『原典(エピック)』を持っていてな、俺ら『原典保持者(エピック・アクター)』とはまた違うのだが、酒呑童子は複数の童子を従える鬼の総大将なのだ」
「付け足すしマスト、酒呑童子ある所に茨木童子ありデス。酒呑1人いたら必ず茨木童子もいますから、気を付けてくださいネ?」
と、そう言う事らしい。
最終決戦と目されるこの戦場は、敵の数も今までで最大規模。
奮発したリヨンよりも規模がデカいぞ。
「あ、それはデスネ、鬼さん達が予算を大分出してくださいマシテ、数十年に一度の大祭りだぁー! って言ってマシタ!」
「成る程」
つまり神々が出した予算以上に盛り上げる為に自腹を切って来たと。
即ち、喧嘩祭り。ありがたい話である。
多分リヨンも評価点を上げる為に自腹を切ったのだろうが……見栄えと言う点ではグンハ一行に劣ると評価せざるを得ないだろう。
残念だったね、リヨン。
差し当たって、此方もちょうど良い戦力を召喚する。
……ちょうど良い戦力と言うより、なけなしの戦力と言うべきだが……。
先ずは、クラディ&ゼーレ。
肉の体にも戻れるが、今回は金属の体で頑張って貰う。
次に、プリエール姉妹と章君。
研究者と元病弱とあって、戦闘向きでは無いが、仕方ない。
最後に、バーチス。
此方も研究者だが、まぁ仕方ない。
頭数こそ5人+αだが、精々童子2体が限度だろう。
白羅に頼ればどうにかなりそうだが、それを無い物として考えると……童子達の相手はともかく、他の群れている鬼達と戦える者がいない。
と言う訳で、仕方ないので彼を召喚する。