学園長、ラッセル、エルカが驚いてくる。

俺は3人を見ながら説得するために、言葉を紡ぐ。

「3人とも驚くのは当然だと思う。ただ、ラッセルから受け取った資料では相手の実力を測る事が極めて困難だ。そして負けたら学園長とラッセルは社会的に貴族達から刺客が送り込まれて死ぬかもしれない」

まぁ勝っても、対面を重んじる貴族達は刺客を送り込んでくるだろうが、俺には関係ない話だしな。

とりあえずは生徒達が自分達で身を守れるくらい強くなる事が前提だ。

そのためには学園長とラッセルが人柱になるくらいは許容の範囲としておこう。

「次に、俺が学園内で修行をつけた場合、相手にこちらの訓練風景がバレバレになる。つまり対策を取られてしまう可能性が非常に高い。だからこそ、深淵の森での修行が必要になる。深淵の森なら間者が追ってくるのはまず無理だからな」

「で、ですが! それはこちらも危険なのでは?」

エルカが顔を真っ青にして問いかけてくるが、俺は否定的な意味合いを込めて頭を振る。

そして、俺の様子を見た学園長は眉根をひそめる。

「つまり、カズト先生には深淵の森でも生きていける術があると?」

「ああ、問題無く暮らす方法を俺は知っている」

俺の言葉に今度は、ラッセルが驚いた表情を見せてくる。

まぁラッセルは放置しておいていいだろう。

問題は、エルカだな。

「分かりました。カズト先生にお任せします」

「ふむ。エルカなら断ると思っていたが?」

「あの模擬戦の様子を見て、ダメだと思う人間はいないと思いますが?」

そんなものなのか……。

まぁエルカがいいのなら学園長とラッセルは問題なく許可を出すだろう。

「学園長。生徒が剣魔会で負けたら大変な事になりますから、修行ではなく課外授業と言う事で深淵の森に行くと言う事に対して許可をください」

「もちろんだとも! ラッセル先生も問題ないな?」

「は、はい!」

俺の言葉にラッセルと学園長は二つ返事で許可を出してくれた。

これで問題があるとしたら生徒達との話になる。

俺は、廊下に出るとそのままFランククラスに向かう。

昨日の痛みによる後遺症が酷いのか生徒達の大半は登校してきてはいないようだ。

おかげで人の気配というのがまったく廊下には感じられない。

俺は小さく溜息をつきながら、戦時下においては指揮官にもなりうる貴族の子弟が痛みに弱いというのは些か問題なのではないだろうかと思い至った。

教室に入るとすでに5人の女子生徒は集まって居た。

そして――。

「先生! たった一人で貴族の私兵と衛兵を倒したのはすごかったです」とエリルが話しかけてきた。その態度には尊敬していますという様子が見て取れる。

もちろん他の生徒達、スピカやアルエル、ハンナまでもが俺を褒めてきている。

ただし、ナルルだけは。

「先生、貴族をあそこまで叩いておいて何も問題は起きていないんですか?」

と、聞いてきた。

俺はナルルの言葉を聞きながら頷く。

「ああ、貴族達はイスペリア貴族学院の運営方針に疑問を抱いてるようだ、そこで貴族達は剣魔会でイスペリア貴族学院の生徒達を叩くことで自分達の都合のいいような弱者を虐げる学校を作ろうとしている。だが! 学園長は、学院の自主性は自分にあると言っていてな……」

まぁかなりブラフだが、学園長は基本、相手に巻かれろというスタンスだからな。

こんなかっこいいセリフは言わないだろう。

さて……。

「そこで、貴族達から要求があった! 平民のみの生徒達と貴族達が集めた人間同士で戦おうと!」

「先生! 相手は強いんですか?」

スピカが俺に話しかけてくる。

「ああ、そこそこ強いな」

俺の言葉に、5人の女子生徒がどうしよう?という顔を見せてきた。

そして俺は彼女らを元気付けるために提案を出す。

「まずお前達が剣魔会で優勝すれば、イスペリア貴族学院に講師として就職できるようになる」

俺の言葉に彼女らは困惑した表情を見せた。