Divine Costume Holy Sword Fafnir
Buried History (30)
地下街を出口のほうへ向かい階段を昇っていく。
広い階段を数分歩くと、外へと繋がる出口が視界に入ってきた。
「カズトさん、やっぱり……」
フェンネルが、後ろから語りかけてくる。
「どうして、そんなに危険な遺跡内で休みを取りたい?」
俺は疑問を口にする。
遺跡内では、魔物や俺が倒したような神代文明時代の遺物がいくつも眠っている可能性がある。
しかも、神代文明時代の遺物に至っては、生体電流を感知できないことから桂木神滅流:神眼も意味を成さない。
つまり、文字通り視界に入るか、動きだすまでは、こちらから対処が出来ないのだ。
「それは……」
フェンネルが、何やら言いにくそうにしている。
「理由をきちんと言ってくれないと……」
俺が理由を聞こうとしたところで、フローラが小さな声で「カズトさん」と話かけてきた。
彼女が気を利かせて小さく語りかけてきたのは分かった。
「どうした?」
「いえ、実は……フェンネルはあれなんです」
「あれ?」
「はい」
フローラの言っている言葉が抽象的すぎてまったく分からない。
「おい、ミント。二人は何を言って――」
「カズト、生物学的なこと。男女の差だから仕方ない」
ミントに聞こうとしたところで、これ以上、この話題を振るな! といった感じで話かけられた。
生物学的……。
そして男女の差――。
さらに言えば異性の人間には言いにくい問題。
「なるほど、フェンネルは、せ……い、いえ、なんでもありません……」
首皮一枚の位置で止められたフェンネルのブロードソードを見ながら、追求することをやめた。
「それじゃ、あれだな……俺とミントは、外に出て馬に草を食べさせる仕事だな。フローラとフェンネルは店が並んでいた地下街にテントでも張っておいてくれ」
二人は、頷くと階段を下りていく。
俺は二人の遠ざかっていく背中を見送ったあと、地上に出る。
すると――。
「ミント、下がれ」
俺は入り口から頭だけを出して馬が居る方向へと視線を向ける。
「ずいぶんと上等な馬だな。こんなところに馬がいるってことは何かあるのか?」
「別にいいのでは? 高く売れればいいのだし――」
「この馬なら金貨200枚くらいにはなりそうだな!」
女たちが馬を見て言葉を交わしている。
「カズト、彼女たちも冒険者」
「そうなのか?」
「うん、間違いない」
ミントは、俺の隣にくると冒険者と言った女たちに人差し指を向ける。
すると彼女たちの腰には、鎖のついたエンブレムが揺れていることに気がついた。
エンブレムは盾を背景に2本の剣が交わった形になっており、色は銀色。
「カズト、たぶんだけど、かなり厄介な相手」
「厄介? そんなに強そうには見えないが?」
「強いというより厄介、シルバーソードのギルド」
「シルバーソード? 聞いたことがないな……」
「カズトは聞いたことがないよりも、冒険者ギルドに興味がない。違う?」
「何も言い返せないのがきついな……」
「カズトも、冒険者ギルドを使っている。有力ギルドは覚えておくべき――」
「ふむ……」
ミントの言葉に、俺は相槌を打ちながら木に巻かれていた馬の手綱を外す女たちを見ながらミントに語りかける。
「――というか、俺は、てっきり冒険者ギルドっていうのは、国が運営しているってイメージがあったが……」
「基本的に、そのイメージで間違いない、ただ、彼女たちの所属している冒険者ギルドは国が経営してない独立採算制のギルド」
「……ん? 国が経営してない? 一個人が軍隊を持ったらダメだろう?」
「だから貴族が母体として運用している」
「――なるほど……。つまり有事の際には軍隊として徴兵するが、それ以外の時は、個人で活動してくれってことか……」
「その考えでいい」
つまり、あれか?
俺が祖父に教えられた遥か昔の戦の作法。
たしか……屯田兵と言ったけっか?
普段は農家として田畑を耕して、戦争が起きたら兵士として徴用されると言っていたな。
形としてはそれに近いのだろうな。
「つまり貴族が後ろ盾にいるからメンドクサイってことか?」
「そう。国が母体としている方が本当は、立場は強い。だけど、貴族のほうは予算をつけて運営しているから、動きが迅速。稼ぎは貴族の資金になるから」
「ということは、下手に俺達が出ていって、ここに遺跡があることが知られると……」
「シルバーソードのギルドがハイエナしにくる」
「面倒くさいな……それじゃ馬くらいあげたほうがいいな」
「入り口もふさいでおく」
俺はミントの言葉に無言で頷く。
ここで入り口を放置したまま相手に気づかれるなど愚の骨頂。
入り口を塞いでおけば、馬が居た理由など分からないだろう。
帆馬車をアイテムボックスの中に格納しておいてよかった。
ミントの魔法で、入り口を土で塞いだあと俺達は地下街へと降りていく。