幌馬車を引くこと5時間ほど――。

目の前に見えてきたのは、青く澄んだ広大な湖。

「アリス、到着したぞ」

「……えっと……、カズトさんは寝ていたんじゃないんですか?」

「いや、夜の方が涼しいから動くのは日が沈んでからの方が楽だな」

「でも、魔物とかは夜に活発に活動しますし……、薪が無いと魔物が襲ってくる可能性も……」

「――まあ、たしかにな……、だが、俺が使う桂木神滅流には半径2キロまでの地形や生物を感知する技もあるから、戦闘面ではとくに不便は感じないんだよな」

「まあ、たしかに……」

アリスが渇いた声で頷く。

まぁ、彼女の神代文明の遺跡で俺が戦っていた様子を間近で見ていたのだ。

それを思い出せば無理に引き留めるようなことはしないだろう。

「そろそろ日が昇るから、用意でもするか――」

まずは、青く澄んだ湖の近くに3メートルほどの深い穴を掘る。

次に、中央に近くに転がっていた木の残骸をで櫓を組んでいく。

そして櫓の上に空の樽を置いたあと、堀った穴の中に塩湖の水を入れていく。

最後に幌馬車の幌を剥がし穴を覆う。

「カズトさん、これは?」

「簡単に言えば塩湖の塩水を温めると、水蒸気が発生する。そして、その水蒸気が現在、蓋をしている幌に付着すると中央の樽に集まってきて液体として貯まる――、それが水となるんだが……、このままだと時間がかかるからな」

「――え?」

「ちょっと裏技を使わせてもらおう」

俺は穴を蓋していた幌をズラすと中に入り幌を張りなおす。

「アリス、風の魔法は使えるんだよな?」

「は、はい。多少は……」

「なら幌の上に微風を流しておいてくれ。その方が水蒸気は冷えて液体になりやすいからな」

「わかりました」

アリスが頷いたあと、俺は何トンも入っている塩湖の水に手を突っ込む。

そして体内のミトコンドリアに命じて電気エネルギーを作らせ体内を掛け巡らせると同時に、熱を手の平から放射する。

生体電流が作り出した爆内な熱量は4000℃弱。

一瞬で塩を含んだ数トンもの塩湖の水が煮え、水蒸気と化していく。

その温度と、湿度は常人なら耐えられないレベルであったが、細胞増殖を命じている俺は、それに耐えられる。

――それから30分後。

「まぁ、こんなもんだな」

樽一個分の水の確保が出来た。

「本当に、こんなので出来るんですね……」

「まぁな」

水が200リットル近く入っている樽を馬車の中に積み込む。

そして空の樽を利用して次々と塩湖の水から、飲料水として利用できる水を作っていく。

すると3時間ほどで水の樽が5樽出来上がった。

「アリス大丈夫か?」

「はい。魔力が尽きました……」

肩で息をしているアリスはが答えてきたが、顔色から察するに色濃く疲れが見える。

「今日は、風呂でも作るか」

「お風呂ですか!?」

「ああ、一週間ぶりの風呂もいいもんだからな」

せっかく目の前には塩湖があるのだ。

蒸留すれば、いくらでも水は作れる。

多少の贅沢は必要だろうな。