Meet Beast Tamer, the mightiest species of cat ear girl banished from the brave party
Twenty-four stories, Tania's thoughts.
依頼を終えて……
あたしたちは街に戻り、ギルドに報告をした。
その後、宿で食事をして、部屋に戻る。
あたしたちは同じ部屋で寝起きをしてる。
レインが言うには、ここ以外に部屋が空いてないらしい。
最初は、カナデはともかく、男のレインと一緒なんて……
と思ったけど、今はそうでもない。
一緒に過ごすうちに、レインに慣れたっていうのもあるけど……
それだけじゃなくて、レインを信じるようになっていた。
「……」
ごろりと寝返りを打つ。
レインは床で寝ていた。
元々、ここは二人部屋らしい。
そこにあたしが転がり込んだから、ベッドの数が足りなくなった。
するとレインは、あたしにベッドを譲り、自分は床で寝た。
あたしが追い出したようなものだ。
それなのに、レインはまるで気にした様子がない。
もっと、文句を言ってもいいのに……
「……ホント、お人好しなんだから」
昼間のことを思い返した。
痛恨のミス。
油断していた故の失敗。
そのせいで、レインが怪我をしてしまった。
あたしは最強種だ。
その中でも特に強い力を持っていると言われている、竜族だ。
レッドドラゴンのタニア。
それがあたしだ。
人間よりも遥かに強く、遥かに賢く、圧倒的な力を持つ存在。
それ故に、プライドが高い種族だった。
他者を見下すとまでは言わないが、自身が最強の種族であると信じて疑っていない。
あたしも、今までは竜族こそが世界最強と疑っていなかった。
人間もある程度、力を持っているものの、敵じゃないと思っていた。
そんな人間に……
レインに、あたしは守られた。
正直なところを告白すると、悔しかった。
自分より劣る人間に守られた。
あたしが守ることはあるとしても、その逆はありえないと思っていた。
だけど、実際にあたしはレインに守られた。
立場が逆転した。
最強種の面子が丸つぶれだ。
でも……
その時のあたしは、悔しくもあったけど……それ以上に、怖かった。
竜族のプライドなんてどうでもよくて……
血を流すレインを見て、恐怖した。
あたしのせいだ。
あたしのせいだ。
あたしのせいだ。
もしも、このままレインが死んだら……?
そう思うと、今まで感じたことのない寒気が全身を襲った。
悔しいとか考えている場合じゃなかった。
幸い、レインの怪我は魔法で治った。
後遺症が残るということもない。
でも……あたしがミスをしたという事実は消えない。
あたしがレインを傷つけた。
あたしのつまらないプライドが、レインを傷つけた。
楔となって、あたしの心に食い込む。
そんな呪縛を解いてくれたのは……レインだった。
ミスをしたあたしを責めるわけじゃなくて……
心配すると、なぜか、逆にお礼を言われて……
あたしが傷つかなくてよかった、と笑う。
すごく温かい笑顔だった。
レインの笑顔を見ていると、不安や恐怖や、その他暗い感情が全部吹き飛んで……
心が安らぎで満たされた。
「……ホント、レインって不思議な人」
最初は、猫霊族と一緒に行動してる変な男がいるという、ただの好奇心しか持ってなかった。
レインと一緒に行くことに決めたのも、その方が面白そうだから、というどうでもいい理由だ。
一緒に行動して、レインの人柄に惹かれていった。
レインの優しさに、安らぎを覚えるようになった。
まだ出会って間もないんだけど……
それでも、信頼を寄せてもいいと思うくらいに、レインのことを好ましく思っていた。
そこに、ダメ押しとなるような昼間の事件だ。
あたしのことを助けてくれた。
あたしのことを心配してくれた。
あたしに温かい顔で笑いかけてくれた。
それは、他の人から見たら、取るに足らないことなのかもしれない。
でも、あたしからしたら、世界がひっくり返るほどの衝撃的な出来事だった。
ただの人間があたしを助けてくれるなんて……
しかも、自らを犠牲にしてまで守ってくれるなんて……
今までの価値観が一気に崩れて、人間に対する見方が変わった。
ううん。
正確に言うと、人間じゃなくて『レイン』に対する思いが変わった。
最初は、ただのおもしろそうな人間。
途中で、好ましい人間にランクアップ。
そして今は……
あたしを助けてくれた、『とても大事な存在』……だ。
「……レイン……」
あたしの主の名前を、そっと口にする。
それだけで、胸がどくんと跳ねた。
なんでだろ……
妙な感じがする。
胸がぽかぽかするような、不思議な感じだ。
「こんなの、初めてなんだけど……」
まだ言葉にできない想い。
それは、あたしの中に芽生えて……
少しずつ成長していた。
「って……あたし、何を考えてるのかしら? これじゃあ、まるで、あたしがレインのことを……」
レインの笑顔が脳裏から離れない。
忘れることができない。
心の奥深いところに焼き付いている。
自然と頬が赤くなる。
「ないないっ、ありえないから!」
ぶんぶんと首を横に振る。
レインは良い人だ。
その性格をとても気に入っている。
あたしの主としてふさわしいと思うし、『大事な存在』として信頼も寄せるようになった。
でも、それだけだ。
それ以上のことなんて、まだ何も……
「そ、そうよ……なんとも思ってないんだから。なんとも……それ以上のことなんて……」
そんなことを口にしながらも、あたしは、なんとなく、その先を想像してみた。
「……」
顔がさらに赤くなった。
「あ、ありえないんだから……あたしが、こんな簡単に……ちょろくないし、あたしは! こんなの違うから! そりゃ、ちょっとは気になってるけど……でも、それだけ。ありえないしっ」
そうやって自己否定すればするほど、あたふたしてしまう。
心が乱れていく。
落ち着かない。
体が熱い。
心が熱い。
「あーもぅ」
布団を頭まで被った。
こういう時は寝てしまうに限る!
あれこれと考えていたことを、頭の中から追い出した。
そうやって頭を空っぽにしたところで、あたしは、ぎゅっと目を閉じた。
でも……
これくらいはいいかと思い、小さくつぶやく。
「……おやすみ、レイン」