Meet Beast Tamer, the mightiest species of cat ear girl banished from the brave party
143 Reunion and Confrontation
「悪魔、って……どういうことだ!? おい、セルっ。数日はかかるはずなんだろ!?」
「そのはずだけど……予想以上に敵の動きが早い? それでも、ある程度は、余裕を含めて結論を出したはずなのに……」
慌てるアクスは、セルを問い詰めた。
しかし、セルも困惑しているらしく、明確な回答は持ち合わせていないようだ。
怪訝そうに眉をひそめている。
「とりあえず、ここでぼーっとしてる場合じゃない!」
「声は村の入口の方から聞こえたよっ」
カナデが先頭を行き、後に続く。
そのまま村の入口まで駆けて……
「あらあら、千客万来ですわね」
「……イリス」
以前、リバーエンドで出会った銀髪の少女がそこにいた。
事情を知らない人は、不思議そうにしている。
ただ、全てを知っている人……パゴスの村の生き残りの人は、彼女を見て悲鳴をあげていた。
恐怖に囚われて、へたりこんでしまう人もいた。
それらの村人を見て、イリスは……笑っていた。
虫を見るような目を向けて、楽しそうに笑っている。
リバーエンドで会った時は、不思議な少女としか思えなかったけれど……
今は違う。
はっきりとした悪意と狂気を感じることができる。
本質は、これほどまでだったなんて……
なんていう少女なんだ。
ふと、イリスの視線が俺を捉えた。
「あら? あらあら? あなたは……」
「久しぶり、だな」
「ええ、久しぶりですわね。ごきげんよう」
イリスはスカートをつまみ、礼儀正しく頭を下げた。
場が場でなければ、貴族の令嬢と間違えていたかもしれない。
「ふふっ、このようなところで再会するなんて、運命でしょうか?」
「そうかもしれないな」
「あら、素直に認めるので?」
「タイミングがよすぎるからな……そういう考えも、したくなるさ」
「ふふっ。やはり、不思議な方ですわね。嫌いではありませんわ」
イリスは優しく笑う。
それでも……
警戒を解くことができない。
むしろ、嫌な予感ばかりが膨らんでいく。
みんなも同じような感じらしく、いつでも動けるように構えていた。
「なんだ、この騒ぎは?」
ジスの村の警備についている冒険者が、騒ぎを聞きつけて村の入口にやってきた。
冒険者は、騒ぎの元凶がイリスと判断したらしい。
ただ、その脅威は判定できなかったらしく、無防備に歩み寄る。
「おいっ、待て!? うかつに……」
「君はどこから来たんだ? このようなところに、君のような女の子がなぜ?」
冒険者がイリスの肩に触れた。
瞬間、イリスの顔が険しくなる。
まるで、汚物に触れられたというような態度だ。
「触らないでくれますか?」
「なんだって?」
「人間ごときが、私に触らないでくれません?」
「なにを……ぎゃっ!?」
イリスが、蚊を払いのけるように、無造作に冒険者の手を振り払う。
たったそれだけの行為で、冒険者は数メートルも吹き飛んだ。
背中から村を囲う柵に激突して、そのまま気絶する。
「あら、まだ生きていますのね。虫と同じで、しぶといですわね……」
イリスは手を振り上げて……まずい!
俺は慌ててナルカミを起動して、ワイヤーを射出した。
イリスの腕にワイヤーを絡ませる。
「……どうして、邪魔をするんですの?」
「するに決まっているだろう……イリス。お前……その冒険者を殺そうとしたな?」
「ええ、ええ。もちろんですわ」
イリスはにっこりと笑う。
邪気がまるでない。
つまり……そうすることが正しいと、心から信じているのだ。
自分の行いが悪いことだなんて、欠片も思っていないのだ。
この少女は危険だ。
今になって、ようやくそのことを実感する。
「汚いものに触ったら消毒をするでしょう? でも、わたくしはそれだけでは我慢できません。汚物の根本を消滅させないと、気が済まないのです」
イリスが軽く手をひねる。
たったそれだけで、腕に絡みついていたワイヤーが切断された。
ただ、イリスの注意をこちらに向けることには成功したらしい。
もう冒険者のことは気に止めていないようだ。
「レイン様は、このようなところで何を?」
「……最近、世間を騒がせている『悪魔』に関する調査をしているんだ」
「まあ、そのようなことを。それで……成果はありましたか?」
「それなりにな。封印する方法も見つけられた」
「にゃん? レイン、そんなことはむぐぅ!?」
「しー、黙ってなさい」
後ろで余計なことを言おうとしたカナデが、タニアに口を塞がれるのが見えた。
カナデには申し訳ないけど……
正直、ありがたい。
封印方法を見つけたなんてウソだ。そんなものは知らない。
でも、イリスが悪魔で……そして、俺の話を信じたとしたら、意味が出てくる。
「そうですか。封印方法を……それはどのようなものなのか、教えていただけませんか?」
「俺よりも、イリスの方が詳しいんじゃないか?」
「と、いうと?」
「……イリスが、悪魔なんだろう?」
「ええ、そうですわ」
あっさりと、イリスは悪魔であることを認めた。
拍子抜けしてしまうほどだ。
ごまかされるか、とぼけられると思っていたんだけど……
こうして、堂々と姿を見せているところから察するに、もう隠す必要なんてない、と考えているのかもしれない。
「確か、探しものをしている、っていう話だったよな? どうして、ここに?」
「その探しものを見つけたからですわ」
「……探しものの内容について、聞いてもいいか?」
「パゴス、と呼ばれていた村の生き残り……それが、わたくしの探しものですわ」
「村人を見つけて、どうするつもりなんだ?」
「もちろん、決まっていますわ」
にっこりと笑いながら、イリスは無慈悲に告げる。
「殺します」
「っ」
「前回、村を訪れた時は、ちょっとした理由があって途中で引き上げてしまったのですが……よくよく考えたら、やはり、殺しておかなかったのは間違いだと思いまして。その間違いを正しに来た、というわけですわ」
「こいつ、ふざけたことを……」
隣のアクスが声に怒りをにじませていた。
その気持ちは、わからないでもない。
イリスは、人の生死に対して、なにも思うところがない。
殺すことを悪いことと思っている様子はないし、むしろ、殺すことこそが正しいと思い込んでいる雰囲気がある。
そんなイリスに対して、怒りを覚えるアクスは正しい。
むしろ……それでもまだ、イリスに対して、親近感のようなものを覚えている俺の方がおかしいんだろう。
「確認するぞ? ……イリスが、パゴスを壊滅させたんだな?」
「諸事情がありまして、残念ながら、皆殺しというわけにはいきませんでしたが……ええ、ええ。そうですわ」
「それから、リバーエンドでも人を殺した」
「あの街は、ゴミが多いですわね。ええ、ええ。何度か、ゴミ処理をいたしましたわ」
「……イリスが、巷で悪魔と呼ばれている存在で間違いないな?」
「ええ、ええ。認めますわ」
くすり、とイリスが笑う。
「そのようなこと、改めて確認して、どうされるつもりなのですか? わたくしは人間の敵……それはもう、理解しているでしょう?」
「そうなんだけど、な……」
心のどこかで、イリスと敵対することを望まない俺がいる。
これは、どうしてなんだろうか……?
「ですが、リバーエンドでレイン様に語った言葉……あれは、全て真実ですわ。わたくし、あなたのことは気に入っていますわ。特別に、見逃してさしあげますが……どうしますか?」
「うれしい申し出だけど……ここで逃げるわけにはいかない」
「やはり、そうなりますか」
一瞬だけ、イリスが寂しそうな顔をした……ような気がした。
本当に一瞬だったから、それが確かなことだったのか、自信がない。
「できれば、引き返してほしいんだけどな。こっちは、イリスを封印することもできるぞ?」
「そのようなウソ、わたくしが信じると思いまして? 断言してもいいですわ。レイン様は、わたくしを封印する方法を知らない。だって、そのための準備がまるで調っていませんもの」
「やっぱり、騙せないか……ここで引き下がってくれたら、楽なんだけどな」
「そのようなことは無理ですわ。わたくしは人間を殺したい。レイン様達は人間を守りたい。ならば、答えは一つでしょう?」
「……仕方ない、か」
できることなら、と思っていたけれど……
そんな甘い考えは通用しないみたいだ。
覚悟を決めないといけない。
「……これは、どういうことだい?」
「アリオス?」
ようやく覚悟を決めたところで……
さらに場を混乱させるように、アリオスが現れた。
アリオスはどこか憮然とした表情で、イリスを睨みつけた。