Shadow Brave's Readventure - Re-Tale of the Brave

Episode 2019 Continental Conference - Exit -

リルに頼まれ、天桜学園の北部に新たに出来たマリーシア王国の難民達で作られた『モアナ村』という村にやって来ていたカイト。そんな彼は怪我を負ったルミオらと少しの雑談を交えリルから頼まれた荷物を渡すと、そのままソレイユ達と一旦は別れてメーア・ニーア親子の所へと足を伸ばしていた。

そうして訪れた家で少しの雑談を交わした彼であったが、そこで知らされたのは実はずっと少年だと思っていたニーアが女の子であった、という衝撃の事実であった。というわけで、そんな衝撃の事実を知らされた後。カイトはミカヤと話しながら、ソレイユ達の待つ喫茶店へと向かっていた。

「びっくった……すまん。すっかりお前の事忘れてた」

『良いわよー……にしても、貴方時々とんでもない状態になってるわね』

「あっははははは……まさかニーアが女の子とは思わんかった。実際、会う度にタックルまがいに突進食らってたからな。腕白小僧じゃなく、おてんば娘だったわけか」

『相変わらず、子供に人気ね』

カイトの言葉に、ミカヤが楽しげに笑う。もう付き合いも長いものだし、何より二人はマクスウェルの街の立ち上げの最初期のメンバーだ。なのでカイトが子供に懐かれる事は知っていたのであった。

「あははは……で、どうだった? 仕立てそのものは悪くないと思うんだが」

『そうね。仕立ての腕そのものはまぁ、素人と言うほどではないでしょう』

ミカヤもメーアの腕については素人と言い切る事は出来ない領域だったらしい。元々彼女自身の手先の器用さもあっただろう。

『勿論、手放しで認められるほどではないけれど、だけど』

「そこは無論わかってる……が、お前がそう言うのであれば、筋は悪くないか」

『そうね。筋は良いわ。実際、旦那さんの腕の確かさも見受けられた。基礎は教え込まれているわね』

「後は経験か」

『ええ……そこばかりは何も言えないわ。とりあえず経験を積んで貰って、という所ね』

どうやらこう言うからには、今後も針子の仕事を任せる事にはミカヤも異論は無かったらしい。というわけで、そんな彼の返答にカイトは問いかけた。

「にしても……まさかお前直々に仕事を回すとはな。あれ、ガチでお前のデザインだろ?」

『ああ、それ……実は旦那さん、少しだけ知ってるのよ』

「そうなのか?」

『ええ。無論、貴方が知るほど有名じゃないわ。その筋で、という所……でも無いかしら。将来有望株の一人、という所ね……惜しいわね。芽が出るのを、楽しみにしていたんだけど』

「ふーん……」

どうやら少なくともミカヤが惜しむ程度には、メーアの夫は腕が良かったらしい。まぁ、確かに今のメーアの腕やニーアの着ていた今までの服は一品物ではあったが、拵えやデザインはカイトから見ても十分に良かった。悪くはない腕なのだろうな、とは思ったらしかった。

『ほら、昔服飾の街って紹介したの覚えてる?』

「ああ」

『あそこの『レバース被服学校』出身なの。五年ぐらい前……かしら。数度受け持ったのよ。あの子はメンズメインだったから、そこまで関わる事はなかったけれど……悪くはない腕だったわね。彼の奥さん、と聞いてびっくりしたわ。地元に帰った、とは聞いていたけれど……』

「なるほどね……それで、ニーアに男の子向けの服を着せていたのか」

そう言えばメーアもどこか夢見がち、と言っていたな。カイトはそれならおそらく夫の方が将来自分の子供に自分の服を着せたかったのだろう、と思った。実際、後に聞けばメンズをメインに勉強していた為、ニーアに仕立てられるのも少年の服になってしまったらしかった。

が、あくせくと少女用も勉強していた、との事で、メーアが作ったのはそれを自分なりに再現したり、アレンジしたものだったそうである。少なくとも、女性向けのデザインセンスなら彼女の方が良さそうだった、とはカイトの言葉である。

「まぁ、とりあえず。ありがとよ」

『良いわ。こっちも出来上がりは写真で見てたけど、実際に動いている姿を見られたし。実用性、ありそうね』

カイトの感謝に対して、ミカヤもまた感謝を返す。一応すでにあの服についてはあれで完成しており、写真という形でミカヤには提出されていたらしい。

そしてそれを受けてミカヤも気になる点などを洗い出していたらしいのだが、丁度良い所にカイトから連絡が来て、ニーアが着ている所を見せて貰ったのであった。

『で、貴方はこれから大陸会議?』

「陛下に呼ばれちゃ、仕方がないさ」

『そ、大変ね』

「そっちは?」

『こっちも、大変よ。暫く副業はおやすみするぐらいには』

「貧乏暇無しとは言うんだが」

『貧乏じゃなくなってからの方が、忙しいわね』

「笑えねぇなぁ」

先の『リーナイト』の一件では大量に冒険者に怪我人が出た。そして怪我人が出た以上、装備も多くが失われてしまった。なのでミカヤの所にも魔眼封じの眼帯やメガネなどの作成の依頼が舞い込んでおり、そちらを優先的に暫く片付けていたらしかった。その息抜きのタイミングでカイトから連絡があって、即座に応ぜられたのであった。というわけで、どこか楽しげな二人がひとしきり笑った後、カイトは一息ついた。

「……そっちは任せる。オレが口出し出来る事でも無いしな。こっちはこっちで動く」

『ええ……っと、じゃあ、私も仕事に戻るわね』

「これも仕事だった気はしないでもないけどな」

『それもそうね……じゃ、またね。またお酒でも飲みましょ』

「だな……近々、どっか行くか」

『賛成。じゃ、それ楽しみに仕事に戻りましょう』

ミカヤの言葉に、カイトも笑って頷いた。そうして、彼もまたスマホ型の通信機をポケットに仕舞い、ソレイユ達の待つ喫茶店へと入っていく事にするのだった。

さて、『モアナ村』での一仕事を終わらせて、暫く。カイト達は再び合流すると、散歩がてらに天桜学園を訪れていた。そうしてまず向かったのは、校長室だ。彼が実質的な統治者である以上、何かトラブルが起きていないか確認する必要があった。

「校長。お久しぶりです。今、大丈夫ですか?」

「おぉ、天音くんか。それに……む?」

挨拶したカイトがぞろぞろと引き連れてきた面子に、桜田校長は首を傾げる。彼が日向や伊勢を連れていても散歩か、ぐらいしか思わない――冒険部で竜を飼っているのは彼も知っている――が、ソレイユを連れていれば驚きもした。というわけで、そんな視線に相変わらずカイトにおぶさっていたソレイユが手を挙げる。

「ソレイユでーす!」

「おぉ……元気じゃな。孤児の子かね?」

「三百歳超えてまーす」

「……」

大凡自分より四倍近くも年上。一見すると子供にしか見えないハーフリングのソレイユに、桜田校長が思わず唖然となる。とはいえ、そんな彼も少しして気を取り直した。

「いや、失礼し……ました?」

「良いよー、気にしないで。私達から見てお爺ちゃんはお爺ちゃんだからねー」

「は、はぁ……」

やはり桜田校長は天桜学園側を統括している為か、異族とさほど交流を持つわけではない。なので子供にしか見えない三百歳超の少女は見た事がないらしく、対応に困っていた。

「あははは……ま、おかしな話ですが、この場では私が一番の年下となりますよ。見た目、一番年取ってますけどね」

「そ、その様子じゃな……んん。それで、どうしたね」

「いえ、所要で北の『モアナ村』に行きまして、その流れでこちらに。私達の足ですと、さほど時間はかかりませんからね」

「そうかね……ふむ」

今何か目立った困り事はあったかな。カイトの問いかけに桜田校長は手帳を確認する。基本的な運営については定期的にマクダウェル家に報告書を提出しているし、その報告書は最終的にはカイトへと提出される事になる。

なので基本的に困り事があっても報告書に記しているし、急ぎなら急ぎで冒険部に直接連絡が入る。気にする必要がある事は殆どなかった。というわけで、特に見当たらない様子の彼に、カイトが問いかけた。

「そうだ。湖の竜についてはどうですか?」

「おぉ、あれかね。役に立ってくれておるよ。まさか、竜が一体居るだけであそこまで違うとは。何もしないでも、魔物が殆ど近寄らなくなった」

「あの竜は少し特殊ですからね。まぁ、基本は寝るだけですが……問題無いかと」

日向の問いかけに、カイトは一つ頷いた。これは以前にカイトが教国でルクスに頼まれて保護したルルレだ。現在公爵邸敷地内に湖を設営している所なのであるが、どうやら学園裏手の湖を気に入ったらしく湖の底で眠っているそうである。

「そうかね……あのままずっと居てくれて良いと思うが」

「まぁ、そこらはあれの好きにするでしょう……で、他に何かありましたか?」

「ふむ……そういえば、近々冬になるが、それに向けた仕入れを行おうと思うが」

「確かに、そろそろ冬も近いですか……」

もうすでに肌寒い日も多いマクダウェル領だ。昨今はカイトも基本的に秋冬用の衣服を身に着けているし、ソラに至っては重装備で助かった、と夏とは一転真逆の事を言い出していた。

他にも冬用の装備を調達に走っているギルドメンバー達も少なくなく、依頼ではないが冒険部として装備や装備を拵える為の素材の調達に遠征隊を組む事も見受けられていた。と、そんな事を話した所でふと、桜田校長が思い出した。

「おぉ、そうだった。ここらの降雪について聞いておきたい。どの程度降るかね」

「どの程度、ですか……」

桜田校長の問いかけに、カイトは三百年前の冬を思い出す。基本的にマクスウェル近郊の気候は日本に近いが、若干だが北にある事で程度の差こそあれ毎年雪は積もっている。そしてそれはもう何十ヶ月と生活すれば知り得る事で、桜田校長もそれ故に気になったのだろう。

「そうですね。流石に移動が困難になるほど降雪する事は無いですが、白銀の世界が見えるほどには積もるかと」

「雪合戦が出来るぐらいには、降るよねー」

「こたつが恋しいぐらいには、降るよねー」

『そろそろ出して』

『ま、まだ早いよ……』

カイトの言葉にソレイユとユリィが口を揃え感覚的な事を告げて、ソレイユの言葉に日向がこたつを要望し、それに伊勢が半笑いでツッコミを入れる。そんな様子から、桜田校長も大凡の感覚は掴んだらしい。

「基本的にはそれなりには積もる、と」

「ええ。まぁ、屋根に登って雪かきが必要なほど積もる事は滅多に無いですが、油断すると足を取られるぐらいではあります。後は……まぁ、流石に街道にも積もりますので、街に出たりする場合、移動は気をつけるべきではあるでしょうね」

「となると、手は考えねばならんか」

「そうですね。少なくとも無策で何とかなる事は無いでしょう」

少し思案する様子の桜田校長の言葉に対して、カイトもまた一つ頷いた。日本の様に降るか降らないか、積もるか積もらないかはその年次第、というわけではない。マクダウェル領は例年積雪が観測されており、基本的には積もるものとして考えて領民達も行動していた。

なのでマクスウェルのみならずマクダウェル領の都市では地面に床暖房に似た機能を備えさせており、路面凍結とそれに伴う事故を防げる様にしていたりした。勿論、その機能については天桜学園の敷地にも同様の舗装を行っているので問題はない。が、あくまでも敷地内だけの事だ。

「ふむ……また後で良いので、一度会議の時間を取れるか? 何が必要でどう対策するべきか、話し合っておきたい」

「そうですね。そろそろ、一度会合を開いておくべきかもしれません」

確かにまだ冬は始まっていないが、それでもだんだんと近付きつつある。そろそろそれに向けた話し合いをしても良い頃合いだろう。と、そんな事を話していると、ふとソレイユが声を上げた。

「あぁ!」

「ど、どしたの?」

「びっくりしたー……」

「あ、ごめん」

唐突に声を上げるものだから、全員揃って仰天していた。なにげに船を漕いでいた日向も跳ね起きたほどだ。そうして、そんなソレイユがとある事を指摘した。

「にぃ。そういえば今年のお誕生日、どうするの?」

「誕生日……あ、そっか。オレこっちだと秋の月の12月だったっけ」

ソレイユの指摘に、カイトがぽむ、と手を叩く。彼の本来の誕生日は12月24日。クリスマスイブだ。が、エネフィアでは12月24日は年四回存在し、カイトは気候的な要因から冬ではなく秋の12月24日を誕生日として設定していたのである。となると、もう少しすると彼の誕生日となるのであった。というわけで、そんな会話に桜田校長が口を挟んだ。

「何かあるのかね? 君には天桜学園としても世話になっている。何か返せれば、と思うのだが……」

「ああ、いえ……というより、これは私も知らなかったのですが……どうやら例年私の誕生日は街を上げての大宴会になる様子でして。一種のお祭りですね。ぶっちゃければクリスマスで良いです。一日早いですけど」

そもそもエネフィアにはキリスト教は存在していないので、それに伴ってクリスマスも当然存在しない。あれはキリストの生誕を祝う祝祭だ。無くて当然である。

が、その代わりに大戦を終わらせた英雄であるカイトの誕生日を祝う事が一般的となり、特にマクダウェル領では全土を上げての大宴会となるのであった。そしてこれは当然、カイトが祝われる側だ。なので彼は準備には関らせてもらえない――やろうとしたら領民達が拒んだ――のであった。

「まぁ、これについては帰ってからクズハやアウラあたりと考えます。街の祝祭になりますので……」

「た、大変じゃな。ま、まぁ、そういう事であれば、マクダウェル家でもパーティを開くのであろう?」

「そうですね。例年、これは私が居ないでも行われていたようです。どうせ死んじゃいないだろうから、と」

信頼されているのか、それとも何かと理由を付けて集まっていただけか。苦笑するカイトにはそれはわからないが、彼が居ないでも彼の誕生日パーティは開かれていたのだ。しかもこれには例年代々の皇帝も参加していたので、今年であれば、皇帝レオンハルトが来る事になる。色々と考えねばならない事は多かった。

「儂も参加する必要は?」

「おそらく、送る事になりますので……それに参加してくだされば、それで十分です」

「そうか。では、支度をしておこう」

カイトの言葉に、桜田校長は一つ頷いた。そうして、その後は幾つかの話し合いを行う事にして、カイトは少し足早にマクスウェルへと帰還する事になるのだった。