Shadow Brave's Readventure - Re-Tale of the Brave

Episode 762: Cherry Blossom Arguments

ソラが『死魔将(しましょう)』という強大な情報を得て必死でどうするか、を考えていた頃。桜は瞬と共に、会議に出席していた。今日はどうやら特に生徒達の側についてを問いかける内容が多かったらしく、質問への応答は二人が中心だった。

「では、今日の議会を開始する・・・桜・天道くん。瞬・一条くん。今日は君達に話を聞きたい」

「わかりました」

議長役である皇帝レオンハルトが、桜と瞬へと告げる。今までは桜田校長達が中心となり応対をしていた――子供を先には出来ない、という体面上の理由から――が、今日からは桜と瞬が中心となって応対をしなければならなかった。

「まずは、改めて教えてくれ。君たちはどこでどういう風な生活をしてたのかね・・・ああ、答えたくない事やプライベートに関わる内容は答えないで構わない」

皇帝レオンハルトについで、横に控えた文官が桜達二人へと問いかける。皇帝レオンハルトは開始を告げるだけで、実務は彼らの仕事だ。というわけで、これから先は文官が主体で進む事になっていた。

これはいつもと変わらない事だった。王様達も一応出席しているが、それは顔を見せているだけだ。ティア達が居るのに顔も見せないのでは憚られる、というだけにすぎないのだ。会議に出席したという事実が必要なだけだ。なので各国共に引き連れてきた文官達が議論の中心を担っていた。

「私は、日本の東京という所で生活をしていました。生家は天道家と呼ばれる日本でも有数の古い歴史を持つ家です」

「古い・・・どのぐらいの物かね」

「およそ、1000年。その前には日本は皇族に繋がりますので、そこも含めれば2600年と」

桜の答えには、流石の各国の王族達にもざわめきが蔓延する。かつてハイ・エルフ達も驚いていたが、単一の家がこれだけ長く続いた例は世界を見回しても例がない。それはエネフィアでも変わらなかった。とは言え、それを聞けばこそ、出る疑問もあった。

「だと言うのに、魔術も魔法も知らない、と?」

「こちらに来るまで知らなかったのだ、というのであれば、はい、と答えます」

「それはなぜ」

「なぜ、と申されましても・・・流石にそれはわかりません。私は子供の身。父達が知らない、とは断言出来ませんが、私は少なくとも、知らされてはいません」

「ふむ・・・確か日本の成人年齢は18歳だったか?」

「ええ。数年前に引き下げられて、16と。とは言え、多くは高校卒業と共にの事になりますので、正確に16歳になった時点ではありません」

桜の返答に、それならば有り得るか、と各国の文官や大使達が納得する。そして現にそれが真実だ。桜達は成人していない、という理由で教えられていなかった。

「嘘はなさそう・・・ですね」

「もう一人はどうか」

道理と納得しても、彼女が知らないだけ、という可能性もある。なので大使達は話し合い、瞬にも問いかける事にする。

「自分も知りません」

「ふむ・・・君の生家は?」

「祖は源頼光。ですので自分の家は1100年になります・・・と言っても、お家断絶などがあり、自分に繋がる復興が叶ったのは500年程前と聞いています」

「源頼光・・・よくわからんが、知られた人物なのか?」

瞬は隠すこと無く、自分の家の情報を開陳する。隠したって無駄だ。どうせ遠からずバレる。なので明かした方が得だ、と打ち合わせしたのだ。

「自分も詳しくは知りませんが・・・物語に語られる程には、知られた存在です。おそらく魔物と思われる存在と戦っていた可能性があります」

「ふむ・・・? だと言うのに、君は何も知らない、と断言するのかね?」

「はい」

瞬は何時かのカイトの苦言の通り、胸を張って知らない事を明言する。幾度となくこういった調書を取っている彼らにとって、子供のそれが虚勢なのか真実なのかを見極める事ぐらい簡単な事だった。なのでこれは真実と受け取られた。

「・・・わかった。とりあえず何らかの理由で今の地球では魔術は失伝したか、隠されている可能性が高い、と・・・」

ここまでは、桜田校長達への調書の内容と一致している。現に桜田校長達は何も知らなかった。なので大使達も別方面からその確証を得られた事で良しとしたようだ。となれば、ここからが、本題だった。

「ふむ・・・では、聞きたい事がある」

「はい」

「なぜ、学園の運営は君達では無く、カイト・天音なる人物が主体となっているのかね」

大使の一人が、桜へと問いかける。それはあまりにも道理過ぎる質問だ。彼らからすれば、山ほどの統治者足る逸材がいるのだ。なのになぜ何ら実績もない無名の一少年に学園の統治をさせたのか。誰もが疑問に思う事だった。質問が出ない方が不思議な内容だ。

ただし、事の次第を知らなければ、だ。そうして、桜は一度、瞬へと確認を取る。ここらは、彼の傷口を抉る内容だからだ。

「・・・自分が、推挙しました」

「ふむ?」

「自分はあの当時、愚挙により安易に勝てぬ敵に突っ込み、仲間の生命を危険に晒しました。幸いにも軍の動きが早かったが故に全員無事ではありましたが・・・それでも、横の天道然りで、拐われた者も多い。仲間を危険にさらすような自分には、学園を率いる資格は無いだろう、と」

周囲を見ずに猪突猛進した挙句の大失態。しかも制止する部隊もあったのだ。軍であれば、即座に降格されるような出来事だ。幸いにも誰一人として死者も重傷者も出なかったものの、それはカイト達という世界最強級の保護下にあった、という幸運故だ。

これには流石にどの国も反論は出せなかった。今までの出来事が記載されていた資料の通りであったし、確かにそう考えても不思議は無い、と思ったからだ。現に彼らが統治者であっても、組織再編後すぐには指導者の立ち位置には就けないだろう。冒険者のリーダーから補佐官への降格処分は妥当な物だった。

「・・・そうか。良く語ってくれた・・・だが、そうなると尚更、桜くんが譲った理由が疑問になる。当時の出来事を記した記録によれば、君は彼を止めに行って、その時の戦闘により拐われたそうではないか。ならば、君が後任に入るのが何よりも妥当な事に思える」

「いえ、だからこそ、私では駄目だったんです」

「ふむ?」

桜の返答に、文官達が首を傾げる。だからこそ駄目、とはどういう事なのか、と疑問に思ったのは、当然だろう。

「私では、戦闘力が足りていない。それは冒険者の長としてどうなのか、と思いました」

「指揮力と戦闘力は違うが?」

「その当時は、気付きませんでした」

その当時は気付かなかった。正しい答えで、同時に誰もそれを確認する事の出来ない事でもあった。なにせ地球人の認識がどの程度のものなのか、と言われると誰もわからないからだ。

だからこそ、とりあえずはそれを前提として進める事にする。もし何か矛盾があれば、その時に指摘すれば良いだけだからだ。

「ふむ・・・では、なぜ彼だったのかね。一介の生徒だった彼が」

カイトであった理由。それはひとえに、彼が勇者カイトなればこそ、だ。だが、それは明かせない。だからこそ、何か嘘を言う必要があった。それは後先と矛盾しない嘘を、だ。そして桜が思い起こすのは、かつて学園で行われた第一回トーナメントの事だ。

「彼が、当時・・・いえ、今なお学園で個人の戦闘力として最強だから、です。学園では今でも時折、交流会や連携のテストを兼ねてトーナメント形式での試合を行っています。そこの初回大会で彼は一条さんを破り、優勝しています。現に彼の実力は頭一つ以上抜きん出ています」

「ふむ・・・」

確かに、嘘は無い。学園で定期的にトーナメントを行っている事は資料にも書かれていたし、同時にそこの初回大会の優勝者の欄にはカイトの名前が書かれてある。

だが、彼らにはやはり違和感が拭えない。どうにも上手く行き過ぎている気がするのだ。まるで全てがこうなる事が必然だったかの様に、だ。

「それでは、偶然優勝した彼が偶然にも統治能力に長けた存在で、偶然にも上手く回っている、ということかね」

「含みのある言い方に聞こえるのですが・・・ええ、そうなります」

含みのあるどころかきっちりと裏に意図を含んでいるわけだが、とりあえず桜はそれに頷く。

「上手く行き過ぎている、と思うのは我々だけかね」

「結果論です。結果的に上手く行った、というだけで、そうならない可能性も十二分にありえました」

「結果論、と言えども我々は結果から判断するしかない」

「ですが、これが事実です」

文官の言葉に、桜が相対する。どちらも若干棘を含んでいるのは、やはり場所が場所だからだろう。ここは文官達にとっては戦場だ。棘があるのは仕方がない。

「・・・まあ、良い。とりあえずは、そういうことにしておこう」

暫く、桜と文官がにらみ合いに近いレベルで視線のやり取りを交わす。だが、どうやら文官はとりあえずは、それで良しとしたらしい。所詮、桜の言う通り結果論なのだ。

偶然上手く進んだからといっても、それが当然とは限らない。だが、それが当然ではない、とも言えない。そしてその答えを知るのは、桜達だけだ。

視線を交わしたのは、嘘かどうかを見極める為だった。だが、残念ながら桜はこういうことであれば、一日の長がある。名家の生まれである所為で、嘘に耐性が出来ていたのだ。それ故、文官達にも遠目では判断出来なかったのだ。

「エンテシア皇国に問いたい。この人事には貴殿らの影響は無かったのか?」

「無い・・・そこらは、きちんと詳細を提出しただろう? 我々がなぜわざわざ無名の一個人を推挙するというのかね」

「では全て偶然、と?」

「我々も、その意見に同意する」

問い掛けられた問い掛けに、皇国の文官が応ずる。彼も一応は真実を知っている。だが、暗示をかけて桜の嘘こそを真実と自らに思い込ませていた。どちらかと言えば、裏方仕事が多い文官だった。そして魔術でなければ、如何に各国選りすぐりの文官達であっても見破る事は簡単ではない。あえての人事だった。

「確かに、辻褄は合う・・・が、あまりに都合が良すぎる。貴殿らの土地に二度目の転移者・・・天桜学園の二人に聞く。これがエンテシア皇国が意図した転移では無い、と言い切れるかね?」

「! 幾らなんでもその発言・・・無礼だぞ!」

ある国の大使の発言に、エンテシア皇国の文官が思わず声を荒げる。が、それに対して、発言した国の大使が口を開いた。

「あまりに、都合が良すぎるのではないか? 貴国が危機に陥る度に、異世界から来訪者が現れる。聞けば貴国の開祖は異世界の異邦人と言うではないか。これで三度目。流石に勘繰りたくもなるというもの。それに貴国は現時点でルクセリオン教国と冷戦真っ最中と言うではないか・・・現状を打開しようとして勇者カイトを呼び寄せようとして、失敗したのではないのか?」

「そんなわけがあるか!」

あまりにといえばあまりの物言いに、再度文官が怒鳴りつける。だが、大使の発言は少しではない支持を得てはいた。というのも、たしかに都合が良すぎるからだ。

大使の言う通り、これで都合三度目。そして始祖であるイクスフォスには異世界を渡り歩く力が備わっていた、というのが各国でまことしやかに語られる――事実だが――噂だ。であれば、その子孫である皇国が出来ぬ道理は無いのではないか、と思うのも不思議は無かった。

「だから、聞いているのだろう? 貴国はなんとでも言える。そして表立ってそんな事が・・・ああ、いや。事実であれば、そんな事は認められまい。だからこそ、彼女らに聞いているのだ。転移の時の話を聞きたい、と。人為的な物であれば、確実にそこには違和感が潜んでいるはずだからな」

「っ・・・」

大使の言葉は、どこまでも道理だった。偶然、と言ってしまえばそこでお終いだが、それが何度も続けば誰もが必然を疑う。そしてそうなってしまえば、エンテシア皇国側に発言権はかなり削がれる。

実はこれは、皇国の敵対者達が主導した物だ。というのも、彼らから見ればあまりに必然的な物に思えてならなかったのだ。まだ、一度目のカイトの転移は偶然で片付けられる。あの時代にそんな不確実性に富んだ作戦に縋っていられる余裕が無い、と誰もが認めるからだ。

では、今は。そう言われると、誰もが何も言えなくなる。というのも、エンテシア皇国は技術で言えば世界最高だ。カイトとティナがかつて残した遺産でさえ、未だに全て消化し切れていない。

なにより、異世界へ干渉する術を学べる土台もある。更には幸い昨今は大きい小競り合いも無く、余裕はかなりある。それ以上を望んで結果失敗したのではないか、と考えるのはある種、妥当だったのだろう。

「どうなのかね?」

「・・・私には何も言えません・・・ですが、一つだけ、言える事があります。あれは、多分事故だと思います」

「ふむ? そう言える根拠は何かね」

改めて問い掛けを受けた桜は、自分達の始まりの日を思い出す。ひび割れていく天。強烈な閃光。それらを人為的に起こせるとは、とてもではないが思えなかった。

「あれが人為的に起こせる物ではない・・・拙い身ではありますが、そう思います。一言で表すのならば、世界が砕け散る。そういう印象を受けました」

「世界が砕ける、かね・・・」

大使はそう言われて、しかしそれがどのような物か想像するしか手が無い。この場の誰も人為的に世界を転移する瞬間なぞ見たことがないからだ。

まあ、だからこそ皇国を攻められたのだ。誰もが想像するしかないからこそ、人為的に成し得た、と思い込む事も可能なのである。そしてそんな大使達に対して、桜は彼らが一つ忘れているだろう事を指摘した。

「それに、もう一つ。クズハ様が・・・そしてもしその時にアウラ様がいらっしゃったのなら、それをお許しになられるとは思いません。そしてアウラ様の助力もなく、そんな事が成し得たとも」

「ふむ・・・そのアウローラ・フロイラインだが・・・エンテシア皇国に改めて問いたい。貴殿らが秘密の研究に携わらせていた可能性は無いのかね。彼女は勇者カイトの召喚の為の研究を行っていた、と聞いている。その実験を餌に、異世界から呼び込む術を研究していても不思議はない」

大使は今度はアウラへと水を向ける。が、そのアウラは何ら憚る事なく、断言した。

「無い。私は他を巻き込む事だけは無い様に気を遣っていた」

「証明は」

「必要無い・・・必要があれば、あなた達の国に帰った英雄達に聞けば良い」

「・・・イグザードの大使よ。確か貴殿は『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』に所属していたな?」

「ええ・・・お言葉ですが、テナンの大使よ。私も、アウラに同意します。この筋は無理筋だ。絶対に彼女はその研究には協力しない。喩え勅命でも、英雄としての名で否定するでしょう。そして私も喩え王命であったとて、協力はしません。私とて生命が惜しい・・・だからこそ、その案件に協力はしません」

水を向けられた『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の一人が、アウラの言葉に同意を示す。これは別にアウラを庇っているわけではない。カイトを知るが故にそれを考慮しての発言でもない。カイトを知ればこそ、絶対に無いと言い切れる事だった。

「我々は全員、勇者カイトの恐ろしさを知っている・・・その彼が激怒する・・・この意味を、あなた達は知らない・・・いえ、知っていても、理解していない」

遠く過去を思い出しながら、大使となった隊員が断言する。部隊で絶対の不文律があるとするのなら、それはこれだ。カイトを怒らせてはならない。いや、正確な意味は激怒させてはならない、だろう。

彼は熱くなりやすい。なので怒る事はよくある事だ。だが、激怒する事は滅多にない。熱湯になる事はあっても、沸騰する事は滅多に無いのだ。

そして、その沸騰した時を、彼ら全員が知っていた。沸騰すれば最後、強烈な水蒸気爆発が起きるのだ。被害が尋常ではない事になる。それに巻き込まれる事だけは、嫌だった。これはティナ以外が全員、口を揃える事だった。

「我々全員が同意する。アウラは絡んでいない・・・そして『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』も関わっていない。それだけは、絶対に無い・・・もしそんな事が総大将にバレた日には、国が滅びる事さえ有り得る」

「なぜそこまで無い、と断言する」

「彼は自分が巻き込まれる分には、なんだかんだ言いつつも最後までその面倒を見る・・・だが、もしそれが誰かが巻き込まれた時には、烈火の如くに怒り狂う。知っているでしょう? ベルンの戦いを。そして、その顛末を」

かつての仲間から出された名前に、カイトが薄く苦笑する。だが、それが出来たのは彼ぐらいなものだ。王侯貴族達は、それを思い出して背筋を凍らせた。

それは彼の前ではどんな高位の貴族さえ好き放題に無道をなせないのだ、と知らしめた一件だった。反腐敗の象徴にして、弱き民の庇護者。それを知らしめた一件だった。

当然この時には大いに揉めた。その国ではカイトに対して賞金が賭けられ、大規模な討伐隊が組まれた程だ。が、カイトは一切憚る事なく、堂々と敵対した。

勿論、結果は大精霊まで出てベルンという国側が折れる事になった。最終的な決着としてはこれが間接的な要因ではあるが、時の皇太子――カイトと揉めたのが彼だった――が廃嫡になる程の大事件だった。

「彼に・・・いえ、我々に王侯貴族という地位は意味をなさない。王侯貴族だろうと、我々は我々の道理に従って斬って捨てる。大精霊全ての力を持つ者に喧嘩を売る。その意味が理解出来ているのなら、決してやらないでしょう」

改めてカイトの絶大さを羅列すると、誰もが簡単に悟れた。確実にカイトが呼び出せるのなら良いが、それが万が一にでも失敗すれば、と恐ろしくなる。

なにせ大精霊という大義名分を無条件で手に入れられているのだ。彼は絶対者だ。やろうとすれば、世界さえ統べられる。本来はそれだけの権威があるのだ。そして、クズハも口を開いた。

「それに・・・我々が居るのですよ? お兄様が帰られた時に、そんな事をして褒められるわけが無い。それは、私にとっても侮辱でもあります・・・いえ、私だけではない。お二人に、何よりグライアお姉様に喧嘩を売っている。意味が理解出来ての発言とは思えませんね」

「っ・・・」

クズハの発言を受けて、何も発せず、そして何らアクションを見せない黄金と純白の龍姫にようやく全員の視線が向く。そうしてそれを受けて、ティアが口を開いた。

「ふむ・・・まあ、そんな事をしていればグライアか妾には伝わるじゃろうな・・・何より、ハイゼンベルグの小僧も認めまい。そしてそれを見過ごす妾らと思うか? 滅多な事では何もせぬが、カイトの同胞を巻き込み、しかも世界の理を超えるのであれば話は別よ・・・妾らが見過ごす前提で話を進めるではない。愛しき妹達(クズハやアウラ)の頼みであれば助力もしよう。じゃが、そこな小僧(皇帝レオンハルト)ごとき頼みを聞くと思うか。妾らを舐めるではない」

「・・・申し訳ありません。我々の不明でした・・・」

たった一度。睨まれただけで、大使がぼそぼそと意見を取り下げる。皇国を追い込むつもりで、危うく自らを追い込む所だった。

まあ、本来の予想ではグインだけが来る予定――彼女は本当に滅多に何も言わない――で戦略を練っていたので、ティアの助力は些か想定外だ。この結末は偶然に助けられた、という所だろう。そうして、なんとかエンテシア皇国と天桜学園の両者はマギーア国の魔の手から逃れる事が出来たのだった。