Shadow Brave's Readventure - Re-Tale of the Brave
Episode 1240: The identity of the unpleasant hunch
解析における事故により神殿都市神学校の内部に生まれた『迷宮(ダンジョン)』。その中へと突入して『迷宮(ダンジョン)』生成時に巻き込まれた要救助者達の救出を行っていたカイトであるが、足掛け十時間近くに及ぶ攻略作戦の結果、なんとか最下層にまでたどり着いていた。
そうして、ひとまず脱出の為にも要救助者達が立てこもっていた寮の防衛を万全にする傍ら、カイトは窓の外を見て最下層中央にある巨大な建物を眺めていた。
「……」
「何か分かる?」
「んー……」
自らの横に並んだソレイユの問いかけに、カイトは苦い顔を浮かべるだけだ。おそらく、そうだとは思う。が、可能ならそうでないで欲しい、と言わざるを得なかった。
「ソレイユ。お前、『迷宮(ダンジョン)』に何回潜った?」
「えーっとねー……沢山?」
「だよな」
カイト自身、十数年に渡るこちらでの滞在中に『迷宮(ダンジョン)』に潜った回数はもはや数え切れない。旅をしている時には戦力の拡充の為に何度と無く潜ったし、大戦を終えてからはその武名を頼りにされた事とストレス解消目的で潜った事も多い。それが三百年こちらに居た彼女なら、何をか言わんやだろう。
「さて……そのソレイユちゃんに質問です。あれ、何に見える?」
「この『迷宮(ダンジョン)』の中心。コア。あれを破壊しないとこの『迷宮(ダンジョン)』が元通りに収まらない物ー」
「だよな」
再度の己の問いかけにはっきりと明言したソレイユに、カイトは笑って頷いた。まず間違いなく、あの中央の建物には行かねばならないだろう。
ヴァイスが明言していたが、ここからもし要救助者を連れ出そうというのなら完全攻略を経てボス討伐後に出る正規のルートによる脱出を行うしかない。それを考えた時、中央の建物に行くのは絶対だった。
よしんば要救助者は出せても、この『迷宮(ダンジョン)』を終わらせる為にはあの中央を攻略せねばならない。早いか遅いかの差でしかないのだ。
「はぁ……嫌な予感しかしない」
おそらく、この『迷宮(ダンジョン)』化が起きた最大の要因はあの中央の建物にあるだろう。であれば、あそこには確実にこの『迷宮(ダンジョン)』化における空間の連続性さえ飛び越えられる何かがあるはずだ。
「にぃの嫌な予感は大抵、本当に嫌な予感だから私もやー」
「あっははは……はぁ……勘違いであってくれれば、良いんだがなぁ……」
ぴょこ、と自らの背に飛び乗ったソレイユの言葉を聞きながら、カイトはため息を吐く。と、そんな所に再びアルがやってきた。
「あ、居た居た。カイト、少佐が呼んでる」
「少佐が、ね。あいよ」
カイトは一つ頷くと、アルに一時的な会議室として使われているという応接室へと案内される事となる。そこには今回の事件に巻き込まれた要救助者の中でも教職員や学者達が集まっており、その中に救助隊のリーダーとなるティナも座っていた。
「少佐。連れてきました」
「うむ……すまぬな」
「いや……それで、何か用事か?」
ティナの感謝に対して、カイトが問いかける。もともとカイトが用意に参加していなかった理由は何かがあった時に備える為だ。同じくクオンも準備には参加していない。
「うむ……ああ、少尉。お主はもう下がって良い」
「はっ。では、失礼します」
「良し……ああ、とりあえず腰掛けてくれ」
アルを下がらせたティナはカイトへと着座を促す。そうして彼が手頃な椅子に腰掛けた所で、改めてティナは彼を紹介した。
「先程も話したが、コヤツが今回の突入において冒険者側の全般の統率を行う者じゃ」
「カイトだ。家名まで必要じゃないだろう? 冒険者としての専門はトレジャーハント。遺跡調査の専門家だ」
「「……」」
まぁ、考古学者相手にトレジャーハンターを明言するのだ。その場に同席していたイストリア然り、もう一人の学者らしい男しかり良い顔はしなかった。それに、カイトは笑う。
「おいおい。そんな顔しないでくれ。オレ達とそちらは持ちつ持たれつ。今回の事件の原因となったらしい十字架だってそもそもはオレ達が持ち込んだものだろう?」
「……まぁ、それはそうだが……」
この時代かつこの世界だ。遺跡の調査に冒険者が同行する事は珍しい事ではないし、危険が想定されれば必然として彼らが中心となって行動する。
それがあんな場所であったのなら、必然としてトレジャーハントを専門とした冒険者が大いに活躍した事だろう。故に学者もまた苦い顔で口を尖らせていた。が、これにカイトも笑ってその態度を許した。
「あはは。まぁ、同業者達が迷惑を掛けているというのはわかっている。許可を得ない盗掘者が多いのも事実だからな。が、オレは別だ……まぁ、そう言っても信じられはしないだろうがな」
「……いや、とりあえずは信じよう。これ以降は君の行動で判断すべきだ」
兎にも角にも少なくともカイトがこの場では冒険者の統率役として選ばれている事だけは事実だ。ということはつまり、彼の腕については公爵家が太鼓判を押したと考えて良い。学者はそう判断した様だ。
無論、そう言ってもやはりトレジャーハンターの全体的な風聞がある。これで有名な人物なら彼もすんなり受け入れられたのだろうが、カイトは無名だ。なので後は行動で判断する、としたようだ。そうして一つ頷いた彼はそのまま自己紹介をしてくれた。
「ドゥニス・ヒゥス。神聖帝国ラエリアの帝国立大学にて歴史学の教諭をしている。よろしく頼む」
「ああ。少しの間だが、こちらこそよろしく頼む」
ドゥニスと名乗った学者が出した手に、カイトもまた手を差し出す。そうして更にイストリアらこの場の面子から自己紹介を受けた後、カイトは改めて状況を聞く事にした。
「で? 一体どうした」
「ふむ……カイト。この遺跡についてお主はどう思う?」
「危険だな。特に、この階層が」
ティナの問いかけにカイトははっきりとこの一見すると何も無い階層こそが危険である事を明言する。それに、ドゥニスが問いかけた。
「この階層がかね」
「ああ。この階層が……確かあんたはここの階層の調査をさせてくれ、と言っていたそうだな?」
「そうだ」
大方この流れだ。実際に冒険者の統率を行う者と直接話をさせろ、という所だったのだろう。カイトの問いかけにドゥニスははっきりと頷いた。確かに、この階層は見える限り安全だ。
が、まずここ以外は危険だったし、何より彼ならばここが何故危険だかわかってくれる可能性があった。それ故、カイトは自らの推測を補足してくれる可能性を考えて、彼へと敢えて問いかける事にする。
「オレは、それは反対だ。まぁ、この理由を語る前に……あんたに一度聞いておきたい。ラエリアにあるメイデア文明。これの滅んだ理由を教えてくれ」
「む? それは言うまでもない。このエネシア大陸で起こった邪神との戦い。それの波及によりラエリアでも通信網が寸断され、上層部からの指示を得られないままに一部の研究所と軍が暴走。『守護者(ガーディアン)』を呼び出すという愚挙を行った。そこらの詳しい事はわからんが……ひとまずその結果として邪神の影響の駆逐には成功するものの、代償として『守護者(ガーディアン)』によって文明の大部分が破壊される事になる。我々学者の予想では、召喚は可能だったものの送還の術を考えていなかったのでは、という所だ」
カイトの問いかけを受けたドゥニスは問われるがまま、メイデア文明の滅びた理由を語る。この結果として他二つの旧文明に比べ、メイデア文明はかなり基盤が残った。それ故に現代まで続いたラエリア王国が生まれていたわけだ。
「そうだ。『守護者(ガーディアン)』は敵を討伐後、自動的に帰還するのではと考えていたというのが通説だ」
「うむ」
「さて……しかし、そうはならなかった。あれはオレの予想だが、世界が設けている自動召喚システムだ。故にそれを不必要に動かした事で、対象がメデイア文明にまで広がったのだろうと思っている」
「ふむ……意見としては時々唱えられている学説だな」
カイトの推測に対して、ドゥニスは一つ頷いた。これについては勿論、二人も詳しい所は知らない。知らないが、カイトは世界側の存在として立った者としてこれが正しいのだろうと推測していた。とはいえ、今はそんな事を話し合いたいのではない。故に、彼は先を続ける事にした。
「では、ここで疑問が出る。それは『守護者(ガーディアン)』はどうなったのか、という所だ。ある時、唐突に『守護者(ガーディアン)』は消える」
「メイデア文明の最大最後の謎だな」
「ああ……これについては確かな所はわからない。一番受け入れられている学説は文明の粗方の崩壊が確認された為消えた……違うか?」
「うむ。私もその説を支持している」
「そうか……とはいえ、オレはこの一件を受けて、この説に新たな学説を提唱したい」
ドゥニスの意見を聞いた後、カイトは改めて本題に入る事にした。どうやらここまでの話し合いでカイトが少なくとも論理的な話し合いが可能な相手だと思ったのだろう。ドゥニスも傾聴に値すると考えたのか、先を促した。
「『守護者(ガーディアン)』は消えたのではなく、封じられたのではないか?」
「どういうことだ?」
「ここで、最初に戻りたい。マクダウェル家が用意した結界は間違いなくこの世界最高のものだと考えて良いだろう。少佐。それに間違いは?」
「うむ。神殿都市のみならず、当家が設置した研究施設は全て『無冠の部隊(ノーオーダーズ)』の協力を受けて設けられた最高レベルの防備が設けられておる。空間の連続性は確実に断絶されていたと言ってよかろう」
カイトの問いかけを受けたティナは改めて、はっきりと空間の連続性が無かっただろう事を明言する。これについてはリルもまた同意していたし、後に皇国の調査機関もラエリアの調査機関もどちらも一般的に使える施設としてのこれ以上の防備は現代の文明では不可能と断じていた。
「ああ……さて、それで話を戻せば、『守護者(ガーディアン)』とは世界側の存在だ。奴らであれば、空間の断絶なぞお構いなしに『迷宮(ダンジョン)』を生み出せるのではないか?」
「っ! そうか! それならば、この『迷宮(ダンジョン)』にも辻褄が合う!」
カイトの問いかけを受けて、ドゥニスは目を見開いた。この『迷宮(ダンジョン)』には『守護者(ガーディアン)』が居るのではないか。これが、カイトが危惧していたことだった。
「ああ……あの中央……もしかしたら同時に封印装置として働いているのではないか、とオレは危惧している」
「……」
カイトの発言を受けて、ドゥニスは一度目を閉じて己の頭の中で色々と噛み砕く。そうして、答えを出した。が、それ以前から真っ青に染まっていた顔が、何より答えを全員に告げていた。
「……おそらく、だが。私もその意見が正しいと思う。いや、考えれば考える程、その意見が正しい可能性が非常に高い」
ドゥニスの呟きにカイトも無言で頷いた。これがどれだけ危険かというのは、彼にもよく分かる。曲がりなりにもメイデア文明を調べている学者だ。その学者が『守護者(ガーディアン)』の危険性がわからないはずがなかった。
「故に、可能な限りここを動かないというのがオレからの提案だ。少なくとも、ここに『守護者(ガーディアン)』が居ない、もしくは居たとて遺骸を利用されたのだと把握するまでは迂闊な行動は避けて貰いたい……異論は?」
「……無い」
カイトの問いかけにドゥニスは真っ青な顔ではっきりと頷いた。ここでもし迂闊な事をして万が一『守護者(ガーディアン)』が外にでも出てしまえば、その時はメイデア文明の二の舞さえあり得るのだ。それを考えた時、本来ならば彼こそが止めるべき立場だった。そうして、彼は深く頭を下げた。
「……カイト、だったな。目先の調査対象に興味を持ちすぎた様だ。ありがとう。そして、先程の無礼を詫びよう。申し訳なかった」
「いや、理解して頂けて何よりだ」
ドゥニスの謝罪と感謝にカイトが頭を下げる。そうして、彼の理解が得られた事により、一同は更に引き続きこのあとの手はずについてを話し合う事になるのだった。