田中家は猫をこよなく愛する一家である。

小器用な父、一志(65)

料理上手な母、頼子(65)

天然ボケな長男、航(38)

守銭奴の長女、港(35)

残念な次男、平太(33)

両親二人は、日本有数のド田舎で今年から年金暮らし。

三兄弟は独立し、それぞれ一人暮らし。

三人とも中々いい年だが、誰一人として結婚出来ていない。

長男は土建屋、長女はOL、次男はコンビニアルバイトで生計を立てている。

年に数回は両親がド田舎から出て、家族揃って母の手料理を食べる。

場所は決まって比較的広い長女、港のマンションである。

本日のメニューはもつ鍋。

誰も遅刻せず、晩餐が始められる。

いつもなら、働き方改革って何だろう?と思う程の残業の航と時間にルーズな平太が遅れてくるのだが、珍しく揃って食べ始めることができそうだ。

美味しそうにぐつぐつ沸騰している鍋を囲み乾杯のためのビール缶をぷしゅっと開けたその瞬間……。

大地が突き上げるように、揺れた。

「うぇ?地震?」

「結構でかいな!」

「取り敢えず!火消して!」

「早く!逃げっ」

「危ないっ!」

かねてより危惧されていた南海トラフ大地震であった。

マンションの一階にある長女の部屋は大地震によって、その日、ぐしゃりと潰され一家は全滅した。

…………はずだった。