Tanaka family, reincarnated.

My brother is handsome.

「ぺぇ太がこんな可愛いわけないよ!何だよ!どんだけ美少年だよ!気持ち悪い!」

「ああ、疑いようもない口の悪さ……みな姉だ……!」

ぺぇ太ことウィリアムは何とも言えない顔をしているがその顔もまた美少年である。

もともと田中家の容姿はそろって十人並。

ぺぇ太に関しては髭も剃らず硬い毛の強すぎる天然パーマで伸ばしっぱなしのためにアフロ全開であった。我が弟ながら浮浪者のような見た目で会うたびに貶すことにしている。

優しいだけが取り柄の甘ったれ末っ子で仕事が続かない。就職したと思ったらいつの間にか辞めている。

ダメな子である。

困ったものだがダメな子ほどかわいい。姉弟仲は良好だ。

「マーサから話を聞いたんだけど…もしかしてお父様やお母様、お兄様も転生している……とか……?」

そんな上手い話無いだろうと思ってはいるのだが、目の前には美少年に転生した弟がいる。あいつ……フリーターしながらどんだけ"徳"積んだんだ?髪の毛サラッサラじゃないか!

「みな姉の記憶はどこまで思い出せてるの?」

「え?全部?」

「そうなんだ!僕は10日前に目を覚ましてから徐々に記憶が増えている感じなんだけど……まだ曖昧なところが多いんだよね。」

ふむ。これはマーサの言うように松茸の食べた量と関係があるのだろうか。お父さんたちも似たような感じだろうか……。徐々にだと寝込まずにすんだのかな……?

「ぺぇ太は、転生についてなんか話した?お父様達と」

曖昧といえども確認くらいはしている筈だ。

「いやいや、僕みな姉と違ってこの世界ではマトモだからそんなおかしなことお父様たちに聞けるわけないじゃない!!」

「マトモって……前世プータローのくせに!?」

「ぐうぅ」

まさかのぐうの音が出た!

何故だろう?ウィリアムにしろ、マーサにしろ、この世界の私の評価が何気におかしい。

あと現世と前世の言葉使いがごっちゃに混ざったりしてしまう。弟と二人っきりだから今はセーフだが、気を付けないと……。

ぺぇ太が聞きづらい気持ちもわかる。

もしかして、転生した?なんて前世から数えて40年以上生きているが、そんな質問一回もしたことがない。

そんな中、ぺぇ太は目が覚めるのを待ってまで、一番最初に港のところに来た。まあ、立場が逆だった場合、私もまず、ぺぇ太に確かめにいくかな……。

田中港は前世は軽めのオタクだった。アニメも漫画も小説も普通の人の何倍も読んできている。

グッズを集めたり、薄い本に手を出したりとまではいかなかったので軽めのオタク(?)だと自負している。

そして弟の平太もオタクである。

兄も入れて、兄弟間での漫画の貸し借りが田中家の仲良しの秘訣だ。

お互いがお互いに異世界転生というジャンルをある程度把握していることはわかっている。兄も漫画は読むが、小説は読まない。転生ものは漫画でも説明が入りがちなので、字が多いために航が転生ものを把握しているかは、あやしい。

だからぺぇ太も一番に私に確かめに来たのだ。マーサ払いのために紫色の蜘蛛を持参して。

あっ…蜘蛛が蜘蛛の巣作ってるマジかわいい……。

キュンと胸が高鳴る。この感覚は港にはなかった感覚だ。エマは伯爵令嬢であってるよね?ほぼ小5の昆虫博士みたいな反応しちゃってるけど……。

……。

あと、港自身が死んだ事に悲壮感を感じない。前世の未練がビールだけではないけれども、ビール飲みたかったぁー!から今まで体感としてタイムラグが全く生じて無いからかもしれない。次の日仕事に行かなくて良かったって思うとちょっと嬉しくさえある。

内容量的に港の意識が強いのは生きた時間が長いから仕方のないことなのかもしれない。

そもそもエマの中は大半が虫のことだけである。食い意地が張っているのは港も同じだし、前世でもときめく程ではないが、割と虫は好きだった。

不思議と性格にズレの様なものは感じない。無かったものが足されたりはあるが、あったものが減っている様には思えない。

それにしても、これから生きるに当たって淑女教育に不安がありすぎる。港は一般人、エマは虫愛づる姫……頑張ろう……。なんか……頑張ろう……。

「ところで、みな姉……は、乙女ゲームしたことある?」

ウィリアムが唐突に聞いてくる。

「ぺぇ太は?」

「ない」

「私も…」

前世の異世界転生ジャンルの話だと乙女ゲームの世界に転生しちゃった☆っていうパターンがあるけど……港も平太も全くの未プレイどころか知り合いに内容を事細かく聞かされた、なんて経験もないことが判明した。

普通?転生しちゃた場合……知識生かしてチートな展開☆……じゃないんだな……。現実は世知辛いもの。知ってる、前世で35年も生きてたら解る。無双なんて夢想だ。

「あっ一回スマホゲームで武田信玄オトすゲームしたわ!」

あれも?あれこそ?乙女ゲームだよね。数年前にクリアすらしていないけど、おぼろげに記憶が甦ってきた。

「なぜ武田信玄!?」

港はやや歴女でもある。

が、部屋を見渡すまでもなく……エマの記憶にあるこの国は港が知らない西洋ぽいどこかである。

それこそ、ここが武田信玄をオトすスマホゲームの中の戦国日本なら港の知識チートが炸裂したかもしれない。

武田信玄も、オトせたかもしれない。惜しい、残念無念。

直江兼続の嫁とか目指したかった……。毎日、"愛"の兜磨くのに。

西洋ぽいっと言うのは前世の西洋とはなんか違うからぽいと表現するしかない。でも、蚕ってここで育ててたらシルクロード要らないし。

時代背景で違ってくるのかも知れないが、港は日本史は得意だが、世界史となると話が違ってくる……。全く知識チート使えない……。

でももし、乙女ゲームなら、不安要素もある。

「どうしよう……転生先が悪役令嬢とかだったら断罪イベント回避しないとなのに……。」

武田信玄のスマホゲームには悪役姫君もライバル茶屋娘なんてのも出て来なかった。対策しようにも絶対ゲーム違うもんな。

卒業パーティーでみんなの前でぎゃふんなんて辛すぎる。

「みな姉なら立派な悪役令嬢になれるよ」

むぅ、と考え込んだエマにウィリアムが曇り無き眼で言ってくる。イラッとした。

こいつ……!拳を握るが出せない!

悔しいけど、いつもなら即、殴ってるのに美少年の顔は傷つけられない!なんだよっ無駄にキラキラしやがって!……気持ち悪い!

「取り敢えず……後でお父様達に確認しよう」

なんとか拳をしまい、ベッドからするりとぺぇ太ことウィリアムの足の小指だけを狙って着地する。

「いってっっ!!!」

美少年だって調子に乗れば痛い目に遭うことを姉としてしっかり教えてやる。

顔はやばいから小指をやったるのだ!ニヤリ