宴が開かれる部屋は約100平方メートルある「朝陽の間」だった。

 文字通り朝、東の巨大な窓からは陽の光が差し込むように設計されている。

 天井からぶら下がる大きな金のシャンデリア、壁に据え付けられている燭台全てに火がつけられていて、絢爛豪華な印象を見る者に与えていた。

 料理のほうは横長のテーブルにだいたい並べ終わっていて、メイドたちがグラスのコップや銀の食器を並べている。

 ユルゲンがバルとミーナを連れてやってきたところで、オットーが自分の一族を連れて彼らと対面した。

「バルトロメウス様はだいたいご存知だと思いますが、ヴィルヘミーナ様は初対面でしょう。面倒でも最初に紹介させていただきます」

 オットーは自分の左隣に立つ暗めの礼服に身を包んだ、自分と似た顔立ちの一族の四人の男性たちの名前を呼んでいく。

「まずすぐ隣にいるのが我が叔父ロイです」

「ロイ殿はユルゲン師匠の弟にあたるんだ」

 よく知っているバルがミーナに対して補足の説明をいれる。

「次が私の上の弟アヒム、次が二番めの弟ライナー、最後に末弟のロホスになります」

「バルトロメウス様、お久しぶりでございます。ヴィルヘミーナ様、初めまして。ご尊顔を拝する機会を賜り光栄に存じます」

 ロイもアヒムたちも、似たようなあいさつをくり返す。

 単調で退屈であっても黙って聞いて返礼をするのが礼儀だった。

「次に女性たちを紹介しましょう。ロイの妻バルバラのことはバルトロメウス様はご存知ですね」

「まだ小さかったころ、何回か遊んでもらったからね」

 オットーの言葉にバルが応える。

 彼にとって紹介された男性陣とバルバラは懐かしい顔だ。

 まだお互いに何者でもなかったころ、同じ時間を過ごした得がたき思い出を共有する相手である。

 ただし、オットーの弟の夫人たちとは今日が初対面だった。

 自己紹介を終えると、オットーが声をあげる。

「では今から、偉大なる叔父ユルゲンの新たなる出発を祝い、大いに食べて楽しもう」

 長々とした前段階はようやく終わり、宴がはじまるのだ。

 本日の主役ということで最上席にユルゲンが座り、その左にオットー、右がバルが腰を下ろす。

 オットーの隣にアルベルタ、ゾーニャ、その子どもたちが座っていく。

 バルの右隣にはミーナが腰かけ、その隣にはアヒムが座る。

 ミーナにはよく分からない座り方であったが、バルの隣に座れたため彼女は満足していた。

 出された料理は貝とタマネギのスープ、ザワークラウトと塩ゆでソーセージ、ポテトパンケーキ、そしてキングカスクイールと呼ばれている全長一メートル以上もある大きな白身魚のムニエルである。

「キングカスクイールとは。奮発したなオットー」

 バルはオットーにそう話しかけた。

 キングカスクイールは帝国において慶事に食べることを好む風習があるのだが、漁獲量は多くない上に品質を保つためには魔術具が必要とされる魚であるため、価格はかなり高い。

 今日の宴に出される数をそろえるのは、伯爵家であったとしても容易ではなかったはずだ。

「叔父上が再び国に必要とされるのは、アルトマイアー家にとっても喜びですから」

 オットーはにこりとして応じる。

「儂ばかりが必要とされることに少しは恥じ入れ、未熟者どもめが」

 ユルゲンが辛辣な言葉を吐いたが、これは照れ隠しであった。

 ミーナと小さな子どもたちを除けば全員が分かったこともあり、和やかな空気は変わらずにすむ。

 大人たちにはワイン、子どもたちにはジュースが注がれたところでオットーがグラスを手に取る。

「叔父上の栄光に。バルトロメウス様とヴィルヘミーナ様の来訪に。我らがアルトマイアー家の明日に乾杯!」

「乾杯!」

 ミーナ以外の大人たちは高らかに、子どもたちははしゃぐように唱和した。

 飲み物をひと口飲んでから全員がスプーンを手に取る。

 帝国は食事の作法に関してあまりうるさい国ではないのだが、このふたつはマナーとされていた。