That Ordinary Mister is a War God
93. Future concerns
「さて……やりすぎた気もするが、仕方ないよな」
ギーゼルヘールは文字通り灰となった旧城塞都市トーリアを見て、気まずそうに頬をかいた。
都市(シュタット)クラスを放置していれば、ゆくゆくは力を蓄えてもっと大惨事を引き起こしていただろう。
いくつか考えられる選択肢で最悪なのは、聖国そのものが攻め滅ぼされてしまい、国家(シュミット)が誕生することだ。
「後のことは陛下たちに任せよう」
ギーゼルヘールは強いが、政治や外交は素人でしかない。
聖国との交渉は専門家に任せるべきだった。
帝都に帰還し、報告すると皇帝や宰相たちは頭を抱える。
「都市(シュタット)クラス……話に聞いたことはあったが、今の世の中で現実化するとはな」
皇帝がぼやいたのは無理もない。
魔術や魔術具、装備、文明が発達した結果、魔物の大規模な襲撃に対しても早めの対応が可能になった。
事態が深刻化する前に発見され、鎮圧されやすくなったのである。
「よもやと思ってそなたを差し向けたが、まさか本当にそのような事態になっていたとは」
「聖国も対処能力はあったはずなのですが?」
皇帝に対してギーゼルヘールは不思議そうに言う。
聖国は大国のひとつとして数えられるだけの国力を持っている。
どうして城塞都市を失うほどの事態になってしまったのか、彼は首をかしげたかった。
宰相が苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「あの国は国王派と神殿派の仲がかなり悪い。情報をきちんと共有して協力し合えば恐れるに足りない事態でも、協力せずに事態を悪化させてしまったのだろう」
「迷惑な話ですね……」
ギーゼルヘールは顔をしかめた。
力が足りなかったならばまだ分かるし、救いの手を差し伸べるべきだと彼は思う。
しかしながら、内輪もめが原因で解決できることを解決できないとなると、迷惑以外に何と言えばいいのだろうか。
「いずれにせよ聖国には通達し、それなりの報酬を要求する。ご苦労だった、下がってくれ」
「はっ」
皇帝に拝礼をしてギーゼルヘールは退出し、そのままクロードのところへ向かう。
彼が通されたクロードの屋敷の応接室にはバルとミーナが先に来ていた。
「ふたりとも来ていたのか」
ギーゼルヘールはそう言ったものの、声に驚きはない。
メイドが彼にもお茶を出してくれ、引き下がったところでクロードが口を開く。
「それでどうだった? 陛下の取り越し苦労だったのならいいのだが」
「酷いものだったぞ」
ギーゼルヘールは顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
皇帝の前では遠慮したが、今この場では必要ない分力がこもっている。
「まさか生きているうちに都市(シュタット)クラスの魔物を見ることになるなんてな」
「都市(シュタット)だと?」
クロードは唖然とし、バルは軽く身じろぎをし、ミーナですらピクリと眉を動かした。
「ギーゼルヘールが派遣されたのは正解だったわけか。いつものことながら、陛下には恐れ入る……」
「同感だな」
クロードの感嘆にバルはうなずく。
「このままではまだまだ陛下は退位できないぞ。少なくとも、事態が落ち着いたと思われるまではな」
ギーゼルヘールも賛成した。
「そうだな。アドリアン殿下は決して暗愚ではないが、火急の事態への対応については未知数だ」
「ところで都市(シュタット)クラスとなると、ただ敵を倒して終わりとはいかなかっただろう?」
クロードの問いに彼は首を縦に振る。
「ああ。やむを得ず、城塞都市を丸ごと破壊してきた。後で聖国に難癖をつけられなければいいのだが」
ギーゼルヘールの不安は、クロードもバルもよく理解できた。
「都市(シュタット)クラスが出現して、都市ひとつの被害ですんだのは幸いとすべきだが、それが分かるような聖国ではないな」
バルが舌打ちし、クロードは苦々しい表情になる。
「都市(シュタット)になるまでにどれだけ被害が出たのか、想像しただけで胸が痛くなる。後手に回った聖国の上層部どもの無能さには吐き気がする」
という発言にギーゼルヘールが目を丸くした。
「おいおい、ずいぶんと過激だな」
「無能なトップなど害悪でしかないわ」
クロードは吐き捨てるように言う。
その語気の強さにギーゼルヘールは沈黙を選ぶ。
「問題はそれだけではないだろうな」
バルは不意にそのようなことを言った。
「どういう意味だ?」
ギーゼルヘールが渡りに船とばかりに問いかけてくる。
「八神輝の力はこれまであまり知られていなかった。わが師ユルゲンが一国を潰したのも、今となっては誇張と思われているくらいだ」
バルの言いたいことはすぐに彼やクロードも察した。
「……そうだな。八神輝の力に誇張はないと知った、他の国がどう出るかだ。狙ってやったのなら、魔物側にも策士がいるな」
クロードが忌々しそうな表情で舌打ちをする。